世界が冷たい理由
その朝、村の空はのどかだった。
風はやさしく、土の匂いが漂っていた。
タローは納屋の前でモフ毛の手入れに勤しみ、
ジローは焼きたてのパンをくわえたまま、目を細めていた。
「……あいつ、また何か企んでやがる」
だが、たすくは笑っていた。
「軽くだけな。国ってのを見に行ってくるわー!」
「2、3日したら帰る! みんな、俺の不在よろしくなー!」
地の精霊がくわを掲げて吠えた。
「よぉし、スコップの代わりにクワでも持っとけよ!」
火の精霊がパチパチと火花を散らしながら笑う。
「おみやげ、爆発しないやつでお願いねー!」
タローは短い前足を振って叫んだ。
「ぴぃ!!(いってらー!)」
***
二日後――
たすくは“国”にいた。
けれど、そこにあったのは想像していた繁栄とは違っていた。
人々は整然とした街路を行き交いながらも、誰一人笑っていない。
無言で、無表情で、どこか“乾いて”いた。
そして――
路地裏、空き家の裏に足を踏み入れたたすくは、そこで“現実”と向き合う。
地面に丸まった、息も絶え絶えの子供たち。
骨ばった体。ボロボロの服。
瞳に、光はなかった。
「……っ」
たすくは駆け寄り、膝をついた。
(癒せば、助かる……!)
震える手が、自身の手の甲に浮かぶ紋章へ触れる。
ほのかな光が、そこから滲んだ。
《スキル:癒し(中級)》
【発動不可:対象の状態、スキル出力を超過】
「……え?」
たすくの瞳が揺れる。
(いや、今のは……ミスか何か……もう一度……!)
《スキル:癒し(中級)》
【発動不可:対象の生命活動、維持範囲外】
頭の中が、音もなく“凍り”ついた。
「……たすくさん」
背後から聞こえた声に、振り返る。
サクだった。
その目は、どこか――哀しみに満ちていた。
「……その子たちはもう、“中級”の癒しじゃ……間に合わないんです」
「ッ……じゃあ、なんで……なんで、使えねぇんだよ……!」
「――あなたの力が、“足りない”からです」
その言葉は、心臓を撃ち抜いた。
次の瞬間――
目の前の少女が、たすくの手にそっと触れた。
「……おじ、ちゃん……あったかい……ね……」
そのまま、まぶたが、静かに閉じていく。
たすくは、声を失った。
動けなかった。
ただ、その小さな命が消えていくのを――見ているしかなかった。
(……俺の“力”じゃ、誰も助けられねぇ……)
スコップすら持っていないその手で、子供の冷たい頬に触れた。
それしか、できなかった。
そして、込み上げる何かが胸を締めつけ――
「クソォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!」
怒声は、冷たい空へと溶けていった。
誰にも届かない。
誰も、見向きもしない。
サクは、そっと目を伏せた。
「――この国では、優しさも、叫び声も、価値がないんです」
「……でも、それを否定したいから、あなたに見せたんです」
***
次回――
『たすく、立ち上がる理由』
冷たい街で、叫びは“始まり”になる。




