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ぴぃと鶏と、癒しの卵

朝――


納屋の中に、あたたかい陽が差し込んできた。


搾りたての牛乳を飲み終え、たすくは満足そうに息をつく。


「……うまかったな、タロー。俺たち、朝ごはん食べられたぞ」


 


ぴぃ!(ドヤァ)


 


湯気の消えたカップを片づけていると、外から「こけっこー!」と元気な声が聞こえてきた。


「……あっ。そういえば、鶏……いたな」


 


コンコン、とまた扉がノックされた。


白いエプロン姿のふくさんが顔をのぞかせる。


「村長さん。朝はモーさんの次に、鶏たちにごはんね。あの子たち、けっこう気が強いから気をつけて」


「気が強い……鶏なのに?」


 


ふくさんはにっこり笑いながら、エサの入ったバケツを差し出す。


「裏手の鶏小屋に十羽いるわ。あと、一羽……ちょっと元気のない子がいてね。あなたの癒しスキル、使えるかもしれないわよ?」


 


「……了解です」


 



 


鶏小屋に近づくやいなや、タローが吠えた。


「ぴぃぃぃぃぃぃ!!!(まかせろ!!)」


 


どや顔で先陣を切ったその瞬間――


「こけっこけっこけっ!!」


「ぴぃぃぃっっっ!?」


 


鶏たちの猛ダッシュ。集団で突撃。


モフモフが空中でくるくる回り、バランスを崩し、転がって戻ってきた。


 


「ぴぃ……(ボロボロ)」


「お前、牛にも負けて鶏にも負けてんのかよ……」


 


笑いをこらえながら、たすくは鶏たちにそっとエサを撒いた。


すぐに夢中でついばみ始める。ちょこちょことした動きが、なんだか癒される。


 


(……かわいいな)


 


そのとき、一羽だけじっと動かない鶏に気づいた。


体を丸め、呼吸が浅く、目もうつろ。


 


(……この子か)


 


そっと近づこうとすると――


 


《スキル:癒し(中級) 発動可能》


 


(……また来た)


 


迷った。


昨日、牛乳を搾って朝ごはんを食べたばかりで、体力に余裕があるわけじゃない。


けど――


 


(今しかない。癒せるなら、やるしかない)


 


「……癒し、発動」


 


手のひらが、やわらかな光に包まれた。


その光が、鶏の小さな体へゆっくりと染み込んでいく。


 


「うっ……」


 


胃の奥に重み。視界が揺れる。手足が冷える。


でも――鶏が、ゆっくりと首を持ち上げた。


 


「……生きてる」


 


たすくがそうつぶやいた瞬間。


「こけっ」


 


ぽとん。


一つの卵が、たすくの足元に落ちた。


 


「ぴぃぃぃっ!!」


 


タローがすかさず拾い上げて、得意げにたすくへ渡す。


 


ふくさんが、鶏小屋の前で笑っていた。


「……あなた、本当に“癒し”の人なのね。

でも、無理は禁物よ。癒すってことは、きっと“自分も削る”ってことだから」


 


「……はい。肝に命じます」


 



 


納屋へ戻る途中、タローが鼻歌まじりに卵を運んでいた(ように見える)。


たすくは、その背中を眺めながらぽつりと呟く。


 


「次は、畑……だな」


 


ぴぃっ!(気合十分)


 


朝の光に包まれて、たすくとタローの影が並んでのびていく。


それは、“村を癒す物語”の、次なる一歩だった。

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