白き病と、俺たちの知恵
朝――
畑に出たたすくは、目を疑った。
「……うそだろ、また白くなってる……!?」
キュウリの葉に、うっすらと粉をふいたような白い模様。数日前、みんなで乗り越えたはずの“うどんこ病”が、再び畑に現れていた。
「くそっ……なんで……せっかく、ここまで育ったのに……」
隣ではタローが青ざめた顔で「ぴぃ!?」と悲鳴をあげる。
たすくは歯を食いしばり、手を握りしめた。
《スキル:癒し(中級)》
【発動不可:対象範囲外】
「……また、使えねぇのかよ」
癒しのスキルも届かない。たすくは顔を伏せたまま、何もできない自分を噛みしめていた。
*
その日、ふくが温かいスープを持って納屋にやってきた。
「うどんこ病、また出たのね」
「……はい。でも、癒しが効かなくて……」
横にいたまごじいが腕を組んでうなった。
「そろそろ“知恵”の出番じゃのう」
「知恵……?」
その時、ジローがぽつりと呟いた。
「……昔、うちの村でも似たようなのが出た時、じいさんが“重曹水”っての使ってた気がする」
「重曹……? 掃除に使うあれ?」
「たしか、水に混ぜて葉っぱに吹きかけるんだよな……詳しくは知らねぇけど」
すると、ふくが手を打った。
「それ、私も聞いたことある! 石けんをちょっと入れて、スプレーで散布するのよ!」
たすくの顔に光が戻る。
「やってみましょう!……守りたいんです。みんなで育てた、この芽を」
まごじいがニヤリと笑った。
「よし。ならばワシの“裏技霧吹き術”を見せてやろう」
ジローが冷めた目で言う。
「霧吹きに技もへったくれもあるかよ……」
「やってくれるんですね!? ありがとう、みんな!!」
「ぴぃぃぃ!!(復活のターン!)」タローが高く鳴いた。
*
【重曹スプレーの材料】
・重曹:小さじ1
・水:500ml
・液体石けん:ほんの少し
たすくが材料を混ぜ、ふくが優しく補助し、まごじいが細かい比率を指示する。
ジローは、なぜかスプレーボトルを離さず抱えていた。
「……俺のスプレー、勝手に使うなよ」
「なにそのマイスプレー愛……」
「ぴぃっ(かわいい)」とタローがつぶやく。
*
夕方の畑。葉の表と裏に、丁寧にスプレーを吹きかけていく。
シュッ、シュッ。
リズムよく音が響く。タローは跳ねながら応援し、ふくは水分のバランスを見て声をかける。
やがて――
白くなっていた葉の一部が、ほんのわずかに緑を取り戻しはじめた。
「……効いてる」
ジローがぽつりと微笑んだ。
「……じいさん、ありがとな」
スプレーを持つたすくの手に、力がこもる。
「……誰かが残した知恵って、今こうして、生きるんだな」
まごじいが、ゆっくりと頷いた。
「知恵とはな、命を“つなぐ”もんじゃ」
ふくが微笑む。
「……みんなで守った畑だもの。きっと、これからも大丈夫よ」
「……うん。よし、明日は――食べよう」
「ぴぃぃっ!!(ばんざい!)」
――次回、“たすくの歌が村中に響き渡る!?”




