表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/116

この村を癒せるのは、俺だけだ

風が冷たい夜だった。

俺は、知らない世界の知らない納屋で目を覚ました。


 


天井は木。床には藁。

胸の上には――白くて丸い、モフモフの見たことがない生き物がいた。


 


「……ぴぃ」


 


つぶらな瞳。ぴょこっと立った耳。

俺の胸にぴったりとくっついている。


 


(……あったかい)


 


体がだるい。寒気がする。

どうやら俺は、病気のようだった。

だがこのモフモフは、俺にくっついて、ずっと体温を分けてくれていたらしい。


 


「……ありがとう。おまえ……やさしいな」


 


モフモフが、うれしそうに鳴く。

どこか、俺に似ていた。傷ついていて、さみしくて――それでも、誰かをあたためようとしてくれる。


 


《スキル:癒し(中級) 発動可能》


 


手の甲の紋様に触れると、頭に声が響いた。

どうやらここは異世界らしい。転生の理由は……覚えていない。

けれど、今はわかる。ただ一つ。


 


――この村が、もうすぐ終わるということだけ。


 


 


***


 


「村長が死んだ。流行病だよ。

 あんたが寝てたこの納屋の持ち主さ。もう帰ってこない」


 


村の男が言った。


 


平均年齢76歳。住人、20人。

山奥の小さな村。国からの支援も打ち切られ、今にも消える限界集落。


 


「で、そいつ――魔物だな。

 ギルドに出して、金にすりゃいい。

 出荷すれば、冒険者が引き取ってくれるぜ」


 


男が無造作に言う。

出荷――この子を?


俺をあたためて、食べ物まで運んでくれたこの子を?

“ぴぃ”と不安そうに俺にしがみつくモフモフ。


 


「……無理だよ。そんなこと、できるわけない」


 


魔物だからって、出荷されるなんて――そんな世界、冗談じゃない。


 


「おまえ、俺の命を救ってくれたんだ。

 だったら今度は、俺がおまえを守る

 ……俺は、お前と家族になる」


 


そのときだった。

村の老人たちが、俺のもとを訪れた。


 


「……あんた、癒しのスキルを持ってるんだってな?」


 


「この村には、もう医者もいねぇ。

 牛も、鶏も、人間も、どんどん死んじまう。

 村のみんなと話し合ったんだが、

 癒しスキルの若いお前が村の長に…

 あんたがいれば… もしかしたら――」


 


震える手が、俺の腕を掴んだ。

その目は、ほんのわずかに、光を取り戻していた。


 


(癒しのスキル。ホームセンターで培った知識。

 モフモフと、牛と、鶏と、畑と……そして村人)


 


俺にできることが、ここにある。


 


「いいぜ。だったら俺が、村長になるよ」


 


老人たちの目が見開かれる。


 


「この村を……“癒し”てやる。

 人間も、魔物も、家畜も。

 みんな、俺の――“家族”にする」


 


その言葉に、モフモフがうれしそうに鳴いた。

 


――これは、“たすく”と“村の家族たち”が紡ぐ、再生の物語。

国にも捨てられた終わりかけの村が、癒しによって生まれ変わるまでの、

静かで、優しくて、ちょっと泣けるスローライフ。


 


次回、村長たすく――まずは牛に餌をやる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ