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薄幸少女の旅支度  作者: やどん。
8/18

万色の魔都と薄幸な彼女 8

それから長い時間が経った。彼女が私から離れたのは肩に落とした涙が乾ききった頃であった。

少女は小さく震える息をついた。

 

「……はぁ……っ、ふぅ……」


全身の力が抜けたのが伝わってくる。向かい合った彼女の顔には乾いた涙の跡、泣き腫らした瞳は真っ赤に充血し、何度も鼻を啜っていた。シエナは彼女の目尻に残った涙を指で掬いとった。


「ごめんなさい、シエナさん。」


しばらくして彼女は呟く。声はかすれていた。


「謝らないでください。謝ること…ないですよ。」


そう言うと彼女は、あははと小さく笑い声を上げた。


「…… ありがとう。シエナさん。」


「なんかすごく…疲れた。」


その言葉は彼女が幾分の間泣くこともせずに耐え続けていたのかを物語っていた。


シエナは微笑みそっと彼女の髪を撫でた。しばらくそうしていた後彼女は立ち上がって言った。


「そろそろ行きますね。」


「…ミリシャさん。これから…どうするんですか?」


「シエナさんと話して何となくわかったことがあるんです。」


「わかったこと…?」


「はい。まあ、なんて言うか現実を見ようかなって。…それじゃあ、ほんとにありがとうございました。」


ミリシャはフッとどこか諦めたかのように笑った。そして走り去っていく彼女。その背中を見つめシエナはどこか嫌な予感を感じていた。


元々は宿を変更してもう少しグレードの高いところにもとまろうと考えていた。が、どうにも彼女のことが心配だった。誰かに本心を打ち明ける。この行為が必ずしも良い方向に転ぶとは限らない。シエナは何か、取り返しのつかないことが起きてしまうんじゃないか、そんな気がしていた。宿に着いたシエナは急いで食事処へと向かう。そこに彼女の姿はなく、注文を取りに来たのは別の従業員だった。今日は彼女の出勤日ではないのだろうか。静かに物思いにふけりながら食事をとる。相変わらずここにはシエナ以外の客はおらず、厨房の会話がこちらにまで届いて聞こえた。


「店長ー。なんで私が来ないといけないんですか。休日出勤ですよこれー。」


「しかたねーだろ。あいつ急にいなくなったんだから。」


急にいなくなった?ミリシャさんのことだろうか。シエナは食事をする手を止め彼らの会話に耳を傾けた。


「てゆーかずっと前から聞きたかったんですけどなんであの人雇ってんですか?あの人に強く当たるお客さんがいっぱいいるせいで掃除が大変なんですけど。」


「そりゃそーだ。それを狙って雇ってんだから。」


「?」


「わかんないか?あいつがいるおかげであいつに嫌がらせしてやろうって客がうちに金を落としにくんだよ。だから文句言わず働け。」


「うーわ。最低。店長それ性格やばいよ」


けたけたと笑いながら会話するのが聞こえる。相も変わらずゴミのような人、いやゴミしかこの国にはいないのか。不快な気持ちになると共に彼らの話に胸騒ぎがする。急にいなくなった…。

もし、もしもシエナの嫌な予感が当たっていたら。そう思うと身がブルっと震える。彼女を探さないと。少し思案した後にそう考える。もし杞憂だったのならそれはそれで良い。さっきは言えなかったことを面と向かって言うだけだ。

厨房に赴き店長らしき人を見つける。


「ちょっとお客さん。ここ立ち入り禁止だよ。」


注意に取り合うことも無く尋ねる。


「ミリシャさん、いないんですか?」


「え?なに、おたく知り合い?」


「いないんですか?」


「まあ、そうだな。」


「どこに行ったのかわかりますか?」


「んなもんわかんねーよ。でも外だと思うぜ。あいつのホウキがほうき入れに入ってなかったからな。どっかでかけてんだろ。」


「彼女、いつもどこに寝泊まりを?」


「ここの3階だけど。」


「見せてもらっても?」


「いいけどおたくが勝手に入ったってことにしてくれよ。面倒事は勘弁だからさ。3階上がって突き当たりを右の部屋だよ。」


礼を言うことも無く厨房を飛び出す。急いで3階へとかけあがり彼女の部屋にたどり着く。鍵はかかっておらず、中に入ることが出来た。生活感が残りながらも清潔にされている部屋を見て安堵する。


「とりあえず無謀なことをやろうとしてなくて良かった。」


シエナは彼女が無理やりにでもこの国を出て行こうとんじゃないかと危惧していた。今彼女がそのような行動に走ったら十中八九どこかで野垂れ死ぬだろう。故に安堵した。がそれと同時に本当に嫌な予感が的中しているのかもしれない。そう思い体に緊張が走る。私に本心を吐露したことで、希望は存在しない、これからも今までと同じ生活を送らねばならない、そのことに本当の意味で目を向けることになった。シエナは急いで宿屋を飛びだしほうきにまたがる。どこにいるかも分からないが闇雲にでもやるしかない。そう思い高度を上げていく。辺りはすっかり闇に染まっており、時折雲の隙間から漏れ出す月の光が唯一の灯りだった。夜とはいえちらほらとほうきに乗って移動している人は見受けられる。そのうちの1人を捕まえて問いただす。


「あの、女の子を見ませんでしたか?ほうきに乗ってて綺麗な白い髪をした女の子を。」


「いや、見てないけど。」


同じ質問を何度か別の人にもしてみたが皆が同じことを口にする。焦りと怒りから思わず舌打ちが漏れる。


「なんだよ、失礼だな。」


眼前の男はシエナの態度に随分ご立腹のようだったが構っている暇は無い。シエナは急いでほうきを走らせた。

 

 

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