表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄幸少女の旅支度  作者: やどん。
5/18

万色の魔都と薄幸な彼女 5

詐欺師の店を後にした私はじっくり通りを見て回る。どうやらここの大通は市場のような役割も持っているようだった。八百屋とか肉屋とかにこの国に住んでいるのであろう人たち入っていく様子が見て取れる。観光業と市場、その双璧で盛況を生み出しているようだった。しばらくはそうして歩いているとより市場らしい、この国に住む人のためへの店が増えてくる。

ふと前を見ると少し前方にものすごい早足(走っては無い)で向こうから来る男を見かける。勢いを止ませることなく進んでくるその人はドン、と自分と同じ方向から歩いていた人と少し前方で正面衝突。あらら、言わんこっちゃない。言ってないけど。早足の勢いでぶつかられた側の人が持っていた紙袋は破け中に入っていた野菜やら果物やらが地面に散らばる。特に気にすることも無く足を進めたが、追い抜きざまにピタリと足を止める。既視感。ぶつかられ尻もちをつく彼女の髪には既視感があった。チラりと振り向くとその感覚は正しかった。

彼女だった。

美しい白髪を持つ昨日弟子入り志願をしてきた彼女。床に散らばっているものを見るに宿の食事の買い出しにでも来たのだろうか。だとしたら少し可哀想である。地に散らばったものは客に出す料理に使うには使い物にならないだろう。未だ転んだままの彼女に手を差し伸べようと近づこうとした瞬間

 

「おい、どこ見てんだよ。おまえ。」

 

冷たく言い放つ。シエナは驚いた。いやもちろん、明らかにぶつかられた側の彼女に対し向ける言葉では当然無い。シエナが驚いたのは彼女に対し罵声を浴びせたのは早足でぶつかって来た男…ではなく横にいた無関係の魚屋の店主。


「…ってーな。いつまで転んでんだよ。被害者面かよ、なあ?」


続いて早足でぶつかった男も言う。

すると一体どうしたのか――

周りにいたものたちが俯き、黙って落とした野菜をひろいあげる彼女に対し口々に浴びせる非難の声。ぶつかった張本人ではなくまるで無関係の、たまたまそこに居合わせただけの人達まで罵詈雑言を口にする。

シエナは動けなかった。この状況に理解が追いつかなかった。ぶつかった、ただそれだけなのに彼女の人格まで否定するような罵倒。寄ってたかって彼女を叱責する人々。まるで意味が分からなかった。それに何より何も言わずただただ俯いて静かにその場を後にする彼女。昨日と同様に何を言われても言い返すことなく黙って下を見る彼女。彼女への心無い言葉はその背中が見えなくなるまで、シエナが動けるようになるまで続いた。


シエナはその事実を目の当たりにした後、しばらく立ちすくんだ。わけがわからない、ここの人達にとって彼女はどういう存在なのか。何事も無かったかのように日常に戻る彼らにそんなことを聞く気にはとてもなれなかった。

はっとして顔を上げるも彼女の姿は既に見えなかった。いてもたってもいられなかった。シエナは彼女が向かった方向へと走り出した。昨日は理解が出来なかった。なぜ彼女は自分に先生になってくれという願いに対しあれほどまでの必死さを持っていたのか。まだ全てを理解した訳では無い。ただ彼女のあの様子には、今しがたここで見た悲惨な光景が無関係とは思えなかった。



 

しばらく走った。ここまで全力で走ったのはいつぶりだろうか。その甲斐あってかなり前方ではあるが彼女の姿を捉える。既に大通からは外れていて、喧騒の無い静寂は彼女の背中から感じる悲痛さを増長させていた。思わず走り出してしまったが自分は一体どうしたいのか。彼女に対し、先刻の状況を問い詰めるのはあまりにも酷なことじゃないか。追いついたはいいもののどうすれば良いか分からず、距離を詰めることはせず彼女を視界におさめながら後を追う。

 

───そうじゃないか、一体自分に何ができるというんだ。彼女が自分にした唯一の頼みでさえ聞くことの出来ない自分が変な正義感に身を任せ首を突っ込んだって…。

彼女の後を追いながら思案する。後から思えばこれはただの言い訳であったんだろう。何かせずにはいられなかった、しかし彼女の願いを叶えることも、どう声をかけていいのかも何もかも、どうすればいいのか分からなかった。


「あはははは!!!!」


前方から子供たちの笑い声が弾けるのが聞こえ顔を上げる。

 

その時、一体どんな顔を自分はしていたのだろうか。宝物である両親から貰ったローブが傷つけられた時も、自身の才能に行き過ぎた嫉妬から殺されかけた時もこんな気持ちにはならなかった。


───────数人の子供たちがはしゃぎあっていた。目線の先には俯く彼女。子供はまるで的当てでもするかのように彼女に対し杖を向けた。杖から放たれる魔術は当たったり外れたり。彼女に当たる度に歓喜の声をあげ、外れる度に失意の声を上げる。競い合うように、笑いながら。残酷な遊戯の悦びに満ち楽しげに醜悪な声をあげていた。容易く行われるその行為に、子供にすら反撃も反論もせずにただ歩く彼女に。

シエナはただそれを見つめていた。震える唇を噛み締める。目をそらすことができなかった。心の奥底から煮えたぎるような何かがこみあげてくる。先程まで憂いていた事など頭の中には微塵もなかった。


シエナは何も言わず子供達に近づく。そのうちの1人がこちらに気づく。ヘラヘラと醜悪な笑みを浮かべていた。が、シエナのただならぬ雰囲気に身が固まる。

激昂する心とは裏腹に頭は異様なほど芯まで冷えていた。

 

───瞬間、子供の手から杖が消えた。杖を奪われた彼らは目線の先にシエナを捉える。何が起きたか理解出来ず唖然とする。そして


パァン!


甲高い破裂音。彼らの杖は空中で粉々に砕け消え去った。木片の1部すら残さず跡形もなく。


呆然とし声をあげない彼らをシエナは冷たい眼差しで見下ろす。彼女の視線は全身を刺すようで子供達は嫌でもその底知れぬ怒りを理解した。


「う…うわああああぁぁぁ!!!」


子のひとりが叫び声を上げながら走り出した。足がもつれ、転びながらもその場から離れようと必死だった。その光景を見た他の子も同様に喚きながら一目散に逃げ出した。中には未だ動けずへたりと座り込み震えるものもいた。シエナはそんなことなど歯牙にもかけない様子で横切った。その視線はただひとりの少女を見つめていた。


───少女もまたこちらを見つめていた。藤色の瞳はかすかに揺れ今にも泣き出しそうであった。唇をぎゅっと噛み締め、その小さな肩は震えていた。喉の奥には声にもならない言葉が詰まっているようで、その呼吸が乱れているのが伝わる。


助けを求めるのでもなく、感謝を伝えるのでもなく。


ただ互いに見つめあっていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ