万色の魔都と薄幸な彼女 2
以前訪れた国で手に入れた思わぬ臨時収入で少し豪華な昼食をとったあと、シエナは広場周りの緑地に寝転んだ。昼寝をするには少し眩しすぎる陽の光に目を細めながらほう、といきをつく。
広場で走り回り遊ぶ子供たちやほうきを止め談笑する人達の喧騒に耳を傾け、身に纏うローブにシワがつかないよう気をつけながら寝返りをうつ。
「そろそろ宿屋を探さないと……」
そう言葉にしつつ、日光を遮るように白金の鎖がついた三角帽子を顔に被せる。
そして、
…完全にやらかした。
シエナが次に意識を取り戻した時既に日は沈みかけ時計台は夕刻を示し、壁は巨大な影で国内に少し早い夜を生み出していた。ぼんやりとする頭でたちあがる。
「早く泊まれる場所を探さないと。」
今日一日歩いてこの国は観光産業にも力を入れていることがわかった。旅人である者は知っている、観光で賑わう国では宿屋は争奪戦であることを。このままでは野宿になってしまう。とりあえず目星をつけていた所までむかってみる。
しかし
「あーごめんなさいね!もう今日は満員なっちゃって!」
「申し訳ございません。本日のご予約は既に締め切っておりますゆえ。」
ことごとく撃沈。焦る気持ちを抑えつつほうきで飛びながら宿屋を探す。空がさらに暗くなれば見つけるのはより困難になる。
が、ここで何とか1件宿屋を見つけることが出来た。先ほど目星をつけていたところに比べると随分と安宿で、少しボロついた外見からはあまり宿泊する意欲はわかなかった。
「なんて言ってる場合じゃないか…」
幸いここの宿屋は空きがあったらしく、何とか今日の夜を過ごすことの出来る場所を見つけることが出来た。階段を上がり、受付で貰った鍵を使い部屋に入ると、こじんまりとしていて狭さを感じるものの清掃が行き届いていると感じた。
まともに泊まれそうな場所でとりあえず良かった。その安心感からだろうか、荷物を置きローブと帽子を脱いだ途端きゅるると、お腹が鳴った。そういえば昼から何も食べていなかったなと思い、夕食をとるため1階へと向かう。とんとんと少し軋んだ音をあげる階段を降りていくと
ドン!
何かを殴りつけるような音が鳴り響く。
「…?」
そのまま食事処へと入っていくと
「あのね、何回同じことを言わせる気なの?」
「申し訳ございません…」
「謝ればいいと思ってるわけ?」
そしてまたドンと音が鳴る。どうやら先ほどの音はこの小太りのおばさんが机を拳で叩いた音のようだった。金と黒の悪趣味な洋服に身を包んだいかにも面倒を押し付けてきそうなおばさんの向かいには俯いている白髪の少女。こちらに背を向けているためよく見えないが恐らく従業員なのだろう。
「分からない?その態度を改めろって言ってるんだけど」
声を荒らげ、眼前の少女に唾が飛びそうな勢いで怒りをぶつけているおばさん。
「なにごと…?」
シエナはつぶやく。関わり合いになりたくないなーと思ったシエナは彼女たちから距離を取り、少し離れた席に腰を下ろす。さてさて、一体どんなメニューかなと考えている間にも、彼女達の会話(一方的)はエスカレートしていく。いや、おばさんの怒りが。
流石に不快感を覚え、そちらの方に目をやる。シエナと悪趣味なおばさん以外には客はおらず、その諍いを止めるものは誰もいない。
「こん、の…!!」
シエナ自信このような面倒事には首を突っ込みたがるタイプではなく、何よりお腹があまりに空いていたため無視をきめようと考えていたが声を荒らげる彼女が料理の乗った皿を掴み取り彼女に投げつけようとしたのを見て
「あの、やめてもらえますか。」
流石に見過ごせないと思い声を出す。シエナの声に反応し腕が止まったため皿が従業員と思わしき少女にぶつかることは無かったがそのうえにのっていた料理は彼女に全て降り掛かっていた。
料理をぶちまけた張本人はギロリとした目線をこちらに向けた後、シエナの意に反してにこやかな笑みを浮かべた。
「あら、他にもお客さんがいたのね。ほんとごめんなさいね。うるさくしちゃって。」
先ほどまでの憤慨が嘘のように落ち着いた態度を見せる彼女に動揺する。
「い、いえ。すみません。こちらもいきなり。」
「いいのよいいのよ!ちょっと言い争っちゃってねえ。そんな迷惑かけようだなんて気は無いのよ。」
手を横に振り、小太りな体を揺らしながら笑う彼女の目には既に少女は写っていないようだった。料理をなげつけた少女に謝ることもなく、何事も無かったかのように振る舞う彼女に少し薄気味悪ささえ感じた。
シエナは、黙って床に散らばった料理を片付ける少女に近づき、ハンカチを差し出した。
「あの、これ良かったら使ってください。」
その言葉でこちらを振り返った彼女に思わず目を見開く。
美しい少女だった。
うしろすがただけでも目が自然と行くような、すれ違ったものならしばらく眺めてしまいそうな、まるでこの国で見た建物の外装のような純白の、肩まで伸びた髪は降りかかった料理など気にもしないかのようにさらりと揺れた。
悲哀さを感じさせるような紫白の瞳はこちらをまっすぐと捉え目を離すことができなかった。柔らかでどこか幼さを残す整った顔立ちはなんとも言えない魅力的な感覚を生み出していた。3.4年ほど旅をして様々な出会いを経てきたシエナにとっても初めての体験だった。目を奪われるという感覚を初めて実感したのだった。




