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薄幸少女の旅支度  作者: やどん。
13/18

偉大な魔術講義

「…つまり、イメージです。このイメージというものが全てに繋がるんです。」

 

時は昼頃、シエナは柔らかな草の上を練り歩く。杖を指揮者のように振りながら。

魔術師の説明を一言一句すら聞き漏らすものかと正座しながら食い入るように聴き込むミリシャ。その純白の髪は彼女の足元に広がる草本とともに風に揺られる。こうして魔法の指導をするのにも慣れてきた。シエナ自身誰かに魔術を指導することなど初めての経験ではあったが、何とか上手くやりくりすることが出来ていた。それはひとえに弟子であるミリシャが積み重ねてきた努力の数々、本人の意欲、そして幾分ばかりの才が織り成すものであった。シエナは時折驚かされる。彼女の飲み込みの速さに、予想していたよりも彼女が多くの魔術を習得していたことに。

 

「だから闇雲に練習することが悪いとは言いませんが、困った時にはそのことを思い出すのもいいかもしれませんよ。」

 

「なるほど。じゃあじゃあ子供の方が魔術の上達が速いってのも…?」

 

「よく気づきましたね。そうです。まだこの世界で自分がどの立ち位置にいるかも理解していない彼らは自分自身がこの世界の主人公であると、まるで全能であるかのような錯覚を持つことがあります。その想像力は計り知れないもので、子供の方が上達が早いことが多いのはそういうことですね。」

 

ミリシャの前を行ったり来たり、そうしていた足を止める。

 

「それと、魔術の難易度も想像力の難しさに比例してあがっていきます。」

 

「確かに、火とか水とか風とか感じたことあるものを生み出すのは結構簡単ですよね。」

 

「その通りです。例えば空を飛ぶ魔法、これを習得する際によく言われるのが空気を水みたいに感じろってやつですね。まるで自分が宙で泳いでいるような、そんな感覚を掴めるようにするのが始まりと。まあ要するに難易度の高い魔法は想像するのが難しいってことです。あとは…そうですね。呪いと霊使については今は別に学ぶ必要はありません。あれはまた少し別のベクトルですから。」

 

魔法、呪い、霊使。この世界ではその3つを総括して魔術と呼ぶ。そしてそれらを使うものたちを魔術師、そう呼ぶのだ。ただ、ここら辺の認識は曖昧で、魔法使い、魔術師、呪術師、魔女。様々な呼び方が広がっているのもの事実だ。魔法を主として扱うものには呪いと霊を使役して扱う霊使について快く思わないものも多い。


なるほどとミリシャは静かにつぶやく。彼女の前に腰を下ろし、胡座をかく。

 

「なにか質問は?」

 

「はい!」

 

 勢いよく手を上げるミリシャ。

 

「はい。ミリシャさん」

 

「シエナ先生が1番嫌いな魔法ってなんですか?」

 

全くもって関係ないな…。


「…好きではなく?」

 

「はい。」

 

「不思議なチョイスですね。」

 

「だって好きな魔法は分かりますよ。」

 

彼女の言葉に首を傾げる。

 

「そんなこと言いましたっけ?」

 

「勝手に料理してくれる魔法ですよね?」

 

「…。」

 

なぜわかったのか。不服そうな顔をするシエナを見てミリシャはふふと小さく笑う。

 

「見てれば分かりますよ。だって先生すごく面倒くさがりでガサツじゃないですか。」

 

「悪かったですね。面倒くさがりで。」

 

ふいと顔を逸らし答える。ミリシャは目を細めくすくすと笑う。

 

「だから逆に嫌いな魔法とかあるのかなって。」

 

「なるほど。確かにありますよ嫌いな魔法。あまり使いたくない魔法。なんだと思います?」

 

 うーん、と首を傾げるミリシャ。

「人の聴力をあげる魔法とか。」

 

「さっきからその微妙に意味分からないチョイスはなんなんですか」

 

「だって先生都合悪いこと私に言われると聞こえないフリするじゃないですか。」

 

シエナはまたふいと彼女から顔を逸らす。

 

「あ、ほらやった。」

 

シエナはそんな彼女に杖を向け、腕を軽く振る。

 

「……!……!!」

 

ミリシャは自分の口から何ひとつ音が出てこないことに随分と驚いているようだった。シエナは立ち上がりそんな彼女を見下ろしながら言う。

 

「そんな魔法を使われたなら、人を黙らせる魔法を使えばいいだけです。」

 

そしてもう一度杖をひとふり。シエナの魔法から開放された彼女は喉を擦りながらあー、あーと発声練習のように声をだす。

 

「びっくりしたあ。シエナ先生といると魔術ってほんとになんでもありなんだなって思い知らされますね。」

 

「イメージ出来ることは大抵なんでも出来ますからね。自分は最高の魔術師で誰も適わない。全能であると言い聞かせるんです。」

 

「先生は言い聞かせてなくてもそう思ってそうですね。」

 

シエナは腰を落とし彼女の揺れる白髪に隠されたおでこにピシッと指を弾く。

 

「いたっ!なにすんですかあ!」

 

「人のでこぴんで痛みを感じなくなる魔法、使えばいいじゃないですか。」

 

「そんなピンポイントな魔法聞いたことないですよ…。」

 

 シエナは自身の頭に人差し指を当てる。三角帽子に取り付けられた白金の鎖は陽の光に反射しその存在を主張していた。


「言ったでしょう?想像力、です。」

 

魔法は想像力があればなんでも出来るなんて言うシエナの言葉も彼女を見ているとあながち嘘でもないのかもしれない、そう思ったミリシャが結局シエナの嫌いな魔法を聞けなかったことを思い出したのはその随分あとであった。

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