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第5話 おにいとお食事

 やって来たのはどこにでもあるチェーンの飲食店だ。


「ここのドリアがおいしいんだよね」


 運ばれてきたドリアを兎極はおいしそうに食べる。

 俺も同じものを注文して食べていた。


「けど、俺が志望校に合格できたとは限らないだろ? もしも落ちてたらどうしてたんだ?」


 実際、結構ギリギリだった。俺が落ちていたらこうして兎極と同じ高校に通えることもなかっただろう。


「うん。だから滑り止めにおにいが受けた高校も受験したの」

「そ、そうなのか? けど、どうして? お前ならもっと良い高校に行けたんじゃないか?」


 兎極は小学生のころから学校の成績は優秀だった。あのときのままならば、俺よりもずっと良い高校に入れたと思うのだが。


「かもしれないけど、おにいとおんなじ高校に通うほうが重要だからね」

「そ、そうなのか?」

「うんっ」


 満面の笑顔で兎極は頷く。


 そんなに俺と同じ高校に通いたかったとは……。昔からずっと仲は良かったけど、ここまで好かれていたとは思っていなかった。


「それで、どうやっておにいはあの女にフラれたの?」

「えっ? ああ……」


 俺は昨日の出来事を兎極に話す。


「……ふーん。そうなんだ」


 話を聞きながらドリアを食べ終えた兎極は、水を飲んでそう言った。


「というか、なんであんな女と付き合ってたの?」

「いやまあ……昔からなんとなく好きだったし」

「そうだったっけ? まあ、あいつ顔だけはいいしね」

「う、うん……」


 幼稚園のころから綺麗だった。ずっとなんとなく好きで、いつか天菜と恋人同士になれたらと夢のように考えていたのだが……。


「……キスとかしたの?」

「いや、そういうのはぜんぜん。手も繋いだことないし」


 考えてみれば恋人らしいことなどしたことはなかった。いつもなにか買わされたり食事を奢らされたりしただけだった気がする。


「手も繋いだことないって、それ恋人じゃないじゃん」

「や、やっぱそうかな」

「そうだよ。あ、じゃあわたしが握ってあげる」

「えっ? わ……」


 兎極が両手で柔らかく俺の手を握る。


「えへへ、おにいの手、あったかいね」

「い、いや普通だよ。普通」


 にぎにぎと掴まれてドキドキする。


「なんかおにい顔が赤くなってる。わたしに手を握られて緊張しちゃった?」

「そ、そんなことは……」


 ある。

 顔は火が出るほど熱かった。


 兎極に手を握られるは初めてじゃないが、女の子の柔らかい手に握られるとやはり緊張をしてしまう。


「まあ、わたしもずいぶん女の子らしくなったし、おにいが意識しちゃうのもしかたないか」

「いやまあ……うん」


 主に胸が。それ以外はそんなに変わってないかも。


「あ、今おっぱい見てたでしょ?」

「い、いや見てないよ」

「見てた。隠さなくてもいいよ。おにいだったら別にいいし」

「えっ?」


 それってどういう意味だろう。


 ニコニコと俺を見つめるその表情からは真意が見えなかった。


「――おーい久我島じゃねーか」


 と、そのとき、嫌な声とともに肩へ手を置かれる。


「あ……ふ、藤岡」


 背後から現れたのは藤岡武史ふじおかたけし

 中学の同級生で、俺をいじめていた不良である。

 他にはいつもの取り巻き2人と女子の片山。あとは知らない顔が何人かいた。


 藤岡。こいつのニヤけた顔を見ると嫌なことを思い出す……。



 ……


 ……………


 …………………………



 ――中学のころ。


「――おらっ!」

「ぐっ……う」


 放課後に校舎裏へ呼び出された俺は、藤岡に腹を殴られて蹲る。


「へっへっへっ、お前って良い奴だよなぁ。ムシャクシャしてるときに殴らせてくれるんだもんな。良い友だちを持って嬉しいぜ」

「……っ」


 藤岡は嫌なことがあるとこうして俺を呼び出して殴る。小学生の頃からだ。けれど小学生の頃は俺がいじめらていることを知った兎極が、藤岡をおとなしくさせてくれたので、しばらくはなにもされなかった。


「おい、お前らも殴らせてもらえよ。いいよな? 久我島?」

「そ、そんな……」

「俺のダチはお前のダチでもあるんだぜ。ダチの頼みは断らねーよな?」

「うう……」

「おら立てよ」


 取り巻きのひとりに羽交い絞めの形で立たされ、もうひとりに腹を殴られる。


「う、ぐっ……」

「顔は殴るなよ。教師にバレたら面倒だからよ」

「わかってるよ。へへっ、おらっ」

「あぐっ……」


 そうして何度か取り巻きに腹を殴られたあと、俺はその場にうつ伏せで倒れる。


 ……倒れはしたが、実はそれほど効いてはいない。空手をやっている天菜に憂さばらしで殴られるほうがよっぽど痛くてダメージはある。

 それに小学生の頃は野球をやっていて、そのときの習慣が抜けずに今だ筋力トレーニングをやっている。もちろん腹筋も鍛えているのでそれほどのダメージは無いのだが、こうしなければいつまで経っても終わらないので倒れただけだ。


 とは言えダメージはあるので殴られても大丈夫というわけではない。


 身体は鍛えているので自分が弱いとは思わない。しかし相手は3人だ。やり返して負けたらもっとひどい目に遭わされる。


 それが怖くて俺はこうして無抵抗に殴られていた。


「あーすっきりした。てかよー、なんでこんな奴が工藤と付き合ってんだよ? ありえねーだろ」

「おいおい久我島は良い奴だろー。俺らのためにこうして殴られてくれるんだからよー。へっへっ、けどこいつは工藤の財布にされてるだけだぜ。なあ?」

「……」


 藤岡の問いかけにはなにも答えない。

 違うと言っても、きっと信用はされないだろうから……。


「なんだまだやってんのー?」


 そこへ女の声が聞こえた。

 藤岡らとつるんでいる女子の片山だ。


「おう、丁度今、終わったところだ」

「じゃあもう帰ろうよ。あたしお腹減っちゃったー」

「あん? けど俺、金ねーんだよなー」

「なに言ってんの? 金ならそこにあんじゃん」

「うん? おおっと、へっへっ、そうだったな」


 と、歩いて来た藤岡が俺の前で屈む。


「久我島、奢ってくれるよな?」

「えっ……?」

「友達には快く奢ってくれるよな? 久我島?」

「……」


 断ればまた殴られるだけ。


 俺はなにも言えず、財布を渡すと藤岡は札だけ抜き取った。


「ありがとな久我島。持つべきものは友達だよなぁ。はっはっはっ」


 藤岡は片山と取り巻きを連れて笑いながら去って行く。


 残された俺は4人が去ったのを見計らって立ち上がり、身体についた土を払ってため息を吐いて家へと帰った。



 ……


 ……………


 …………………………



「藤岡君、誰っすかこいつ?」

「中学の同級生だよ。おこづかいくれる良い奴なんだ。へっへっへ」


 おこづかいとは、つまりカツアゲのことである。


 こいつにはだいぶ金をとられた。

 天菜とのデートでもだいぶ金を使ったため、俺の財布は常にカツカツであった。


「おう、こいつらは入学式で会った俺のダチなんだ」

「へ、へー……」


 すっごい馬鹿な高校に行ったとは聞いたが、新しくできたお友達も藤岡同様に頭が悪そうであった。


「俺のダチはおめーのダチでもあるよな? つーことでここの払いも頼むわ」

「えっ? あ、でも……」

「あん? 友達の頼みが聞けねーの? そんな冷たいこと……言わねーよな?」

「あ、うう……」


 断れば殴られる。

 それを知っている俺は断ることが……。


「払う必要は無いよ」

「ああん?」


 払うと俺が言おうとしたとき、兎極が声を上げた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


ブクマ、評価をいただけたら嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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