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第43話 元カノの罠(獅子真兎極視点)

「おいてめえ、なんでこんなとこにいやがる?」

「そ、それは野球部の応援に……」

「嘘吐くんじゃねぇ」

「いや本当に……」


 わたしはハゲ女の髪を掴む。


「こんなに早く生えるわけねーよなぁ? てめえこれヅラ……」

「ヅ、ヅラじゃないしっ! これはウイッグだしっ!」

「ヅラだろ」


 髪を軽く引っ張る。


「ひ、ひっぱらないでーっ! 取れるっ! 取れちゃうからーっ!」

「だったらここにいる理由を言え」

「だから野球部の応援……」

「このヅラ引っぺがしてグラウンドに投げ込むぞコラ」

「そ、それは勘弁してーっ!」

「じゃあ本当の理由を言え」

「うう……」


 恐らくあのクソ女がこいつのバックにいてなにか指示を出している。


 そう確信していた。


「あ、あまちゃんに頼まれて……」

「なにをだ?」

「ここで久我島を撮影してその映像を自分に送れって……」

「なんであいつはてめえにそんなことさせてんだ?」

「な、なんか久我島の耳にイヤホンが入ってて、自分の指示通りに動いているか確認したいからって」

「……」


 それならあのクソ女本人がここにいればいい。このハゲ女に映像を送らせて、遠隔で指示を出す理由がわからなかった。


「あいつは今どこにいる?」

「りゅ、竜青団の溜まり場」

「あそこか」


 ということはあの半グレ連中も関わっている。


 ……しかし妙だ。なにをネタにおにいを脅しているのかは知らないが、脅迫してまともにプレイをさせないだけならあのクソ女ひとりで事足りる。このハゲ女や半グレ連中を使う必要は無い。


 これはなにか罠がありそうだな……。


「おいハゲ」

「ハ、ハゲって言わないでよねっ」

「てめえはこのまま映像を送り続けろ。いいか? あのクソ女に余計なことを知らせたりしたら今度は頭皮ごと引っこ抜いてやるからな。わかったか?」

「ひいいっ! わ、わかりましたぁっ!」


 怯えた顔を見せるハゲ女を睨みつけたわたしは、クソ女の指示で今も無様なプレイをさせられているおにいを救うため、急いで球場を出た。



 ……


 …………


 ……………………



 そして半グレ連中が溜まっている廃工場へとやって来る。


「おいクソ女」


 廃工場の中心でひとりイスに座ってスマホを握っている天菜を見つけたわたしは、怒りを滲ませた声をかける。


「ああ、やっぱり来た」


 こちらを向いた天菜はニッと笑う。


 やっぱり罠か。


 奴はわたしがあのハゲ女を問い詰めてここへ来ることを読んでいた。

 しかし一体どういう罠を仕掛けているのか……?


「てめえ、おにいを脅してなにが目的だ?」

「脅すだなんて人聞きが悪い。わたしはあいつにあいつらしい人生を歩ませてやりたいだけ。野球選手になって持て囃されるなんて許されない。わたしにフラれたあいつは、惨めな人生を送らなきゃいけないの。当然でしょ?」

「つくづくクソみてーな人間性してるなてめえは。そこまでの下衆さはきっと死んでも直らねーだろうな」

「直す気なんかないし。あんたこそ、そのクソ生意気な性格を直したら?」

「てめえに言われて直すところなんかひとつもねーよ」


 さて、こいつを叩きのめして終わり……というわけにはいかないだろう。


 どこかに罠があるはず。周囲に半グレ連中の汚らしい気配は感じるが、あいつらが出てきたところでわたしを倒せないことはわかっているはず。


 一体どんな罠を張っているのか?


 わたしは周囲を警戒した。


「わたしを殴り倒してそれで終わりにしようと思ってる? けどそれ無理。あんたはわたしに手を出せない」

「どうしてそう言える?」

「あれ」


 天菜が指差す方向へ目をやると、そこには中で火が燃えているドラム缶があった。そしてその奥の暗がりから半グレの男が現れ……。


「あ、あれは……っ」


 半グレの男が片手で摘まんでいる黒いなにか。

 それは猫……クロであった。


「クロ……っ」


 なかなか家に帰って来ないと思っていたが、この連中に捕まっていたのか。


「……なるほど。クロを使っておにいを脅迫したんだな」

「ご名答。わたしの指示通りにプレイしなきゃあの猫を火にくべてやるって言ってやったの。そしたらおとなしく言うこと聞いてさ。馬鹿だよねぇ。あんな汚い猫一匹のためにプロにスカウトされて野球選手になれるかもしれない可能性を捨てるなんてさ。まあ所詮はその程度の男……」

「黙れ下衆」


 わたしは怒りに満ちた目で天菜を睨む。


「おにいはてめえみたいな下衆とは違う。永遠に理解はできねーだろうけどな」

「したいとも思わない」


 と、天菜がイスから立ち上がるのと同時に隠れていた半グレ連中が一斉に姿を現す。


「ふん。小賢しいあんたのことだ。五貴の様子から勘づいてここまで来るとは思っていたよ。罠を張っているとも知らずにね」

「なんとなくはわかっていたぜ。ただ、想定以上に汚ねぇ罠だったけどな」

「喧嘩に綺麗も汚いもないでしょ? 勝てばいいんだから。言うまでもないと思うけど、抵抗したらあの猫を火に放り込むから」

「てかてめえ、よくこいつらとまだつるんでられるな? あんときこいつらにここでヤられたんじゃねーの?」

「さあ? そうだとしたら、あんたも今から同じ目に遭わせてやるよ」


 ……実際はわからない。しかしもしヤられていたとして、自分を無理やりヤった連中とつるんでまでわたしを潰しにかかるとはいかれた精神力だ。


「ふん。さ、やっちゃって」

「へっへっへ」


 天菜の言葉を聞いた半グレ連中が近づいて来た。

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