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第4話 おにいにべったり

 兎極と2人で教室へと向かう。


「あっ」


 教室に入った俺の目に天菜と幸隆の姿が映る。神様の嫌がらせか、あの2人も同じクラスだったようだ。


「幸隆、終わったらどこ行く?」

「お前が行きたいところならどこでも一緒に行くよ」

「んー……じゃあ映画見に行こ」


 と、さっそくイチャイチャしている。

 それをうしろの席から見せつけられた俺は、また気持ちが落ち込んだ。


「あれ? 工藤さん久我島君はいいの?」

「うん? うん。あいつとは別れたから」

「そうなんだー。あーでも、正直、久我島君と工藤さんじゃつり合わないと思ってたんだよねー」

「そうでしょ? だから別れたの」


 話をしているのは中学のときのクラスメイトだ。俺がここにいることを知ってか知らずか、天菜はそのクラスメイトと大声で話をしていた。


 傷つくなぁ。


 天菜がクラスメイトに俺のことを悪く話すたびに、心がチクチクと痛い。まあ悪口は今までもたくさん言われたから慣れてはいるけど……。


「おにい、あの女と付き合ってたの? そんなこと聞いてないんだけど?」


 刺すような兎極の視線が俺を見上げてくる。


「いやまあ……うん。話してなかったかな」


 別に隠していたわけでは無い。話すほど楽しいことはなにもなかったのだ。


「まあ別れたんならいいけどさ」


 と、兎極は少し不機嫌そうな表情をした。


「あ、久我島君……」

「えっ? あ、野々原さん」


 ふわっとした短い髪形の女の子が声をかけてくる。彼女は中学で3年間同じクラスだった野々原楓ののはらかえでさんだ。目は吊り上がっていて鋭いが、性格は穏やかな顔立ちの綺麗な子である。


「野々原さんも同じクラスだったんだね。てかこれで中学1年から4年連続で同じクラスか。すごい偶然」

「う、うん。またよろしくね」

「うん。よろしく」


 中学3年間、天菜以外で俺に話しかけてくる女子は野々原さんくらいだった。綺麗でおとなしい子だが、目つきが怖いという理由で誰も近づかず友達はいないらしい。本人も人付き合いはあまり好きではないので、それでいいとのことだ。しかしなぜか俺にはこうして話しかけてくる不思議な子であった。


「あ、そろそろ入学式が始まるみたいだからまたね」

「あ、うん」


 小さく手を振って野々原さんが離れて行く。


「あの人は誰?」

「野々原さんは中学でのクラスメイトだよ」

「仲良いの?」

「普通くらいじゃない?」


 学校で会話をするくらいで、一緒に遊んだりしたことはない。野々原さんは女の子だし、俺は天菜と付き合っていたのだから当然だが。


「そっか。綺麗な子だから気をつけないとね」

「気をつけるってなにを?」

「おにいを取られないように」

「取られるって……」


 お兄ちゃんを取られたくない妹って感じだろうか? 親が離婚して他人になっても、俺のことを兄として慕ってくれるのは嬉しいものだ。


 ……やがて入学式が終わり、俺と兎極は一緒に帰る。共に下校するなんて小学生以来であり、懐かしい思いであった。


「クラスは一緒だけど席は離れちゃったね」

「うん」


 俺の席は廊下側の一番うしろ。兎極の席は教室の真ん中あたりだ。遠くはないが、近くもない。


「けど休み時間は一緒にいようね」

「俺と話してもそんなに楽しくないぞ」

「おにいと一緒にいたいの」


 と、兎極は俺の腕へぎゅっとしがみつく。


 む、胸が……。


 当たる。てか、でか過ぎる。


 小学生のころはペッタンコだったのに、たった数年でこれほどバインバインになるとは……。女の子の成長は凄まじいものである。


「ふふ、わたしおっぱいおっきくなったでしょ? 前に会ったときよりもまた少し大きくなったんだぁ」

「そ、そうなのか? 背は小学生のときから変わってないのに……」


 背だけを見れば小学生のままである。


「うるさいなー。まあそんなに気にしてないからいいけど」


 兎極はふふふと穏やかに笑う。


 性格は今も昔と変わっていない。

 周囲からはシルバーファングと恐れられた兎極だが、俺に対しては見た目通り温和でいつも穏やかに接してくれるのだ。


「てかなんかおにい元気なくない?」

「えっ? そ、そうかな?」

「うん」


 実際、昨夜のことを引きずっているので元気は無いが、どうやら見た目からもわかってしまうほどだったらしい。


「もしかしてあの女と別れたことで?」

「まあ……ちょっとひどい振られ方だったからね」


 1日や2日で元気を取り戻すのは難しそうだった。


「あの女がおにいを振ったの? 逆かと思ってた。けどそれでよかったんだよ。あんなのと付き合ってたって良いことなんかないから」

「はは……そうね」


 とはいえ、好きで付き合っていたのだ。あんな振られ方をすればやはり辛かった。


「うんじゃあ、ご飯行こ。おにい」

「えっ? ご、ご飯?」

「うん。なんかおいしいものでも食べれば元気出るでしょ」


 笑顔でそう言われて、自然と俺の顔も綻ぶ。


「そうだな」


 恋人を親友に奪われたという心の傷が食事だけで癒されるとは思えないが、ひさしぶりに兎極とゆっくり話したいと思った。


「じゃあ行こ」

「あ、わっ!?」


 2つの胸が俺の腕を挟む。

 その柔らかな感触に慌てふためく俺を、兎極はぐいぐいと引っ張って歩いて行った。

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