第32話 女王、戦国777の真実(五貴・戦国777視点)
有名プレイヤーたちがステージを降り、いよいよ本格的に大会が始まる。
「さあ、それでは出場者の対戦カードをこちらに表示いたしますのでご覧ください」
ステージ上の巨大モニターへトーナメントが表示される。そこには……。
「うわっ、いきなり無敗の女王様とか……」
俺の初戦は無敗の女王様である戦国777さんとだ。
これはいきなり負けたなと俺は肩を落とす。
「先輩いきなり女王様とっスよ! がんばってくださいっス!」
「ははは……。まあ一矢くらいは報いてみるよ」
勝てなくても健闘できたらいい。
メインは覇緒ちゃんなんだし、俺はそれでいいと思った。
「一矢報いる? そんなの無理に決ってるでしょーっ!」
「えっ?」
不意に声をかけられて振り向くと、そこには数人の男女が立っていた。
「あんた女王様と良い戦いできると思ってるの?」
「ま、まあできれば……」
「無理無理。間違い無くパーフェクト負けだよ。恥かかないうちに帰ったほうがいいって。悪いことは言わないからさ」
「一矢報いるとか身の程知らず過ぎだろ。女王様がどれだけ強いか知ってるのか? 知らねーよな。知ってたら一矢報いるなんてマヌケなことは言わねーもんな」
「雑魚が戦うなんて女王様の時間を無駄にするだけだよ。早く棄権しなよ」
この人たちは戦国777さんのファンだろうか?
失礼な物言いだが、事実であるのでなんとも言い返しようがなかった。
「そんなことないっス!」
黙り込む俺の隣で覇緒ちゃんが声を上げる。
「先輩はすごい強いっス! 勝つかもしれないっス!」
「勝つなんてできるわけないじゃんバーカ。無様に負けるだけだよ」
「そんなこと……」
言いかけた覇緒ちゃんの肩へ俺は手を置く。
「勝てないかもしれないですけど、健闘はしてみせますよ。やってみなければわかりませんからね」
「あ、そう。せっかく親切に忠告してあげたのにねー。それじゃここでパーフェクト負けするとこ見といてあげるから。それじゃね」
と、そう言い残して女王様のファンたちは去って行く。
「なんかすごく失礼な人たちっス! ムカーっとしたっス!」
「うん。覇緒ちゃん、俺の代わりに言い返してくれてありがとうね」
「えっ? いやその……はいっス」
恥ずかしそうな表情で俯く覇緒ちゃん。
知らない人と喧嘩するような感じになってしまった。俺のせいで嫌な思いをさせちゃったなと、自分の不甲斐なさを反省する。
「ごめんね覇緒ちゃん。喧嘩みたいなことに巻き込んじゃって」
「そんな……久我島先輩はなにも悪くないっスから。それよりも対戦に向けて気合を入れるッス! ファイトオーっス!」
「あはは。そうだね」
覇緒ちゃんに励まされた俺はさっき言われたことなど忘れることにし、勝つつもりで初戦に挑もうと気合を入れた。
―――戦国777視点―――
トーナメント発表後、あたしは自分の対戦が来るまで控室でイスに座って時間を潰していた。
「ちょっとさっきのステージさぁ、ライト強過ぎでしょ? 汗で少し化粧が崩れちゃったんだけど?」
「す、すいません。スタッフに言っときます」
「ったく」
スタッフに文句を言ったあたしはタバコを咥える。
「ん」
「えっ?」
「え、じゃなくて火」
「あ、す、すいません」
慌てた様子でスタッフの男はテーブルの上に置いてあるライターを手に取って、あたしの咥えるタバコに火をつける。
「ふぅー……タバコ咥えたら火だってわかるでしょ? まったく」
「す、すいません……」
深く頭を下げる男性スタッフを見下ろす。
本当はゲームなんて興味無い。そもそもは女優志望だが、女優の仕事が無いのでプロゲーマーを演じるという仕事をしている。
ゲームなんてくだらない。
無敗の女王。それはゲームを盛り上げるためにゲーム会社が作った言わば広告だ。あたしはゲームなんてうまくもなんともないし、プライベートでは一切やらない。大会ではあたしじゃなく、特別に作られた激強のCPUが対戦をしていて、あたしはレバーやらボタンをそれっぽく操作してるだけ。あとはプロゲーマーを買収したりして、必ずあたしが優勝するようになっているのだ。
いずれプロゲーマーを引退して女優に転身……という筋書きをあたし自ら事務所の社長に提案し、ゲーム会社を抱き込んで今に至っている。
あたしの提案は見事にうまくいき、人気ゲームで無敗を続けたおかげで知名度も人気も上がっている。このまま無敗でゲーマーを引退すれば、元凄腕ゲーマーとして女優だけでなくテレビの仕事もわんさか入ってくるはず。それがあたしの計画だ。
「ふん」
灰皿にタバコを押し付けながらあたしは鼻を鳴らす。
ゲームなんか好きじゃない。自分で提案したことではあるが、キモいオタクどもに笑顔を振りまくのもうんざりだった。
しかしそれも今日で終わり。今日の大会で優勝したあたしは無敗のゲーマーとして引退。そのまま女優への転身を宣言して、華々しくこの場を去って行くのだ。
ヤラセがなんだ。クソオタクどもなんかあたしが成り上がるためにいくらでも利用してやる。あたしの踏み台になれるんだからキモいオタク連中も嬉しいだろうさ。
と、あたしは心の中で自分を女王と慕うオタク連中を嘲笑った。
そこへ扉をノックして別のスタッフが部屋へ入って来る。
「戦国777さん」
「ここでその呼び方はやめてくれる?」
「あ、す、すみません。寄川さん、対戦が始まりますのでお願いします」
「はいはい」
イスから立ち上がったあたしはタバコの臭いを消すため、服へ軽く香水をかける。それから戦国777の顔になって控室を出た。




