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第3話 帰って来たーっ! おにい大好きの義妹

 ……そして朝になって入学式当日。

 俺は昨夜の出来事を引き摺ってがっくりと肩を落して歩いていた。


「はあ……」


 入学式へ向かう足が重い。

 本当なら恋人と同じ高校に通えることが嬉しくてルンルン気分なはずが、気持ちは沈み切って地べたを這っている。


 なにも入学式前日に言わなくてもいいよなぁ。


 どうせ前から好きじゃなくなっていたんだったら、昨日じゃなくてもっと早くに言ってほしかった。


 というか、最初から別に好きじゃなかったのかも。


 考えてみれば天菜が俺のことを好きだなんて言ったことは一度も無い。ほしい物を買わせたり食事を奢らせたり、都合良く利用していただけなんじゃ……。


 そう考えた俺は頭を振る。


 まさかそこまでは無いだろう。

 それじゃああんまりにも俺が惨めだ。単に貢がされていただけだったなんて……。


「けど……やっぱり」


 そうではないかという思いが払拭できず、俺はふたたびため息を吐いた。


 行く気力が無くても、歩いていれば目的地には着いてしまうもの。


 今日から通う高校へとやって来た俺は、とりあえずクラス分けが張られている掲示板へと向かう。


「うわぁ、すげー人だかり」


 あれじゃあ前が見ないよ。

 ……なんて話を本当だったら天菜としてたのかな?


 そんなことを考えてまた落ち込む。


「おお……」

「うおお……」

「うん?」


 近づくと、人だかりから感嘆のような声が聞こえる。

 見ると、人だかりは掲示板ではなく、その手前に注目しているように見えた。


 なんだろう?


 やがて人だかりが分かれ、中からひとりの女の子が歩いて来る。


「お、おお……っ」


 短い銀髪に碧眼。

 まるで漫画から出てきたような美少女がそこへ現れた。


「あ、あれは……まさか」


 穏やかで優しそうな表情の美人。そして小柄な体型に似合わないあのすごい巨乳。俺はその美少女に見覚えがあった。


「と、兎極?」

「あ……」


 美少女……兎極がこちらを向くと、


「おにいっ!」


 そう声を上げて駆け出し、俺へと抱きついてくる。


「ひさしぶりーっ。半年ぶりくらいだよねーっ」

「ちょ、ちょっと兎極っ。人前で抱きついちゃダメだってっ」


 会うといつもこうだ。小さいころはよかったが、もう身体つきが大人なので抱きつかれるといろいろ当たって慌ててしまう。


「あ、ごめんね。ひさしぶりだったからつい……」

「う、うん。けど、どうしてお前がこの学校に?」

「うん。ママがまた転勤になってこっちへ戻って来たんだ。それでおにいと同じ高校に通うことにしたの」

「そうだったのか。だけど、なんで俺の通う高校を知ってたんだ?」


 兎極には高校名など話していなかったはずだが。


「お父さんに聞いたの」


 兎極の言うお父さんとは俺の父親だ。実の父親のほうはパパと呼んでいる。


「そうだったのか。父さんも教えてくれればいいのに」

「驚かせたかったから黙っててもらったんだ」

「なるほどね」


 昨日の電話で言ってた嬉しいことってこのことだったのか。


「けど受験の日に見かけなかったのはなんでだ?」


 目立つ見た目だし、いたら気付きそうなものだが。


「入学式の日に驚かせようと思って、受験の日は髪の色を黒に変えて眼鏡をかけたり、胸にサラシを巻いて変装してたからね」

「そこまでせんでも……」


 たかが驚かせようとするためだけに気合を入れ過ぎである。


「あ、クラス分け見たんだけどね、おにいとわたし同じクラスだよ」

「そっか。それはよかった」


 天菜と幸隆の件で凹んでいたが、兎極が戻って来て同じ学校に通えるようになったことで、少しは元気になれそうだった。


「ねえねえ君、何組? 俺と付き合わない?」


 と、そこへチャラそうな男子生徒がやってきて、俺の存在など眼中に無いかの如く兎極へ声をかける。


 入学式でナンパかよ。


 呆れるも、しかし兎極はこれほどの美人だ。お近づきになりたいという気持ちもわからなくはなかった。


「ナンパはお断りなんで」


 男の声掛けに対し、兎極は取り付く島も無い様子であった。


「なんだとコラ? ちょっと顔が良いからって調子に……」

「あ、あの、やめてください」


 男の雰囲気を危険と感じた俺は慌ててあいだへ入る。


「嫌がってますし……」

「なんだよお前っ! 関係ねーんだからすっこんでろっ!」

「うわっ!?」


 突き飛ばされた俺はうしろへふらつく。


「あ、おにいっ。……てめえ」

「えっ?」


 てめえ?


 兎極の口からそんな言葉が聞こえて俺は一瞬、耳を疑ったが、


「いだだだだだだっ!!?」


 俺を突き飛ばした手を目にも止まらぬ速さで掴んだ兎極は、そのまま捻って男に悲鳴を上げさせる。


「おにいを突き飛ばしたのはこの手かっ! ああおいコラっ! このまま捻り千切ってやろうかてめえこの野郎っ!」

「いだあああっ!! すいませんごめんなさい離してくださいぃぃぃっ!!!」


 痛みで泣き顔を晒す男。

 それを睨み上げた兎極が手を離すと、男は背を向けて走り去って行く。


 周囲はこの光景に驚いている様子だったが、それは俺も同様だった。


「おにい大丈夫っ!? 怪我は無いっ?」

「あ、う、うん。俺はちょっと突き飛ばされただけだから」

「そっか。よかったー」

「うん。けどお前……その、変わってなかったな」


 時が経ってすっかり女の子になっていたと思っていたのは間違いだ。

 シルバーファング。喧嘩三昧の狂犬は健在のようだった。

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