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第175話 ミハイルと超人間2人

 朱里夏さんの言う通り、とりあえず仁共会の本部へとやって来る。

 ここへ来れば今どういう状況なのかがわかるだろう。


「五貴君。来ると思ってたよ」


 仁共会の本部へ来た俺たちは中へ通され、会長室へ入ると大島に出迎えられた。


「来ると思ってたってことは、母さんのことはもう……」

「ああ。セルゲイさん宛てに連絡が来たよ。柚樹さんを預かっているから、ひとりで指定の場所へ来いってね」

「そ、それでパパはっ!」

「もちろんひとりで行ったよ。どういう理由でセルゲイさんひとりを呼び出したかなんてわかっているのに、それでもひとりで行ってしまった。柚樹さんのことで君たちがここへ来るだろうから、絶対に場所は教えないよう僕にきつく言ってね」

「……」


 一足遅かった……いや、間に合っていたとしてもセルゲイさんを止めることはできなかっただろう。止められたとしても、他に母さんを救う方法も無い。


「あとを追いたいだろうけど、君たちが行っても足手まといになる。悔しいけど、ここはセルゲイさんに任せるしか……」


 ガシャーン!!


 そのとき窓ガラスを割って何者かが部屋に侵入して来る。


 現れたのは見たことのない2人の女だ。

 一方は黒髪で一方は白髪。どちらもなぜか楽しそうにニヤけていた。


「大胆なカチコミやな」


 大島が女らへ銃を向ける。

 それと同時に会長室へ仁共会の構成員たちがなだれ込んできた。


「会長っ! こ、こいつらは……っ」

「後宗連合……いや、プーリアの送って来た刺客やろ。セルゲイさんの留守を狙ってうちを潰しに来たってわけや。そうやろ?」

「あははっ! ご名答っ!」

「あんた殺して仁共会も潰す……。それがあたしらの役目……」

「その通りだぜ」

「!? この声は……」


 どこかで聞いたことのある声。

 そして声の主が割れた窓を通って現れた。


「お前はっ!?」

「ひさしぶりだな五貴君、くっくっくっ」


 ミハイル。

 あのとき俺が完膚なきまでに叩きのめした男であった。


「くっくっくっ、姉貴の命令で仁共会を潰しに来たらよぉ、まさかてめえに会えるとはな。こいつはついてるぜ」


 あのとき俺がつけた額の傷を掻きながら、ミハイルは邪悪な笑みを見せる。


 死んでいたとは思わない。

 しかしまさかあれほど完璧に叩きのめされてふたたび俺の前へ現れるとは思っていなかった。


「殺してやるぜてめえをよぉ。くっくっくっ」

「はっ! 薬使ってもおにいに手も足も出ないでボッコボコにされたくせによく言うぜっ! 今回も同じ目に遭いたくなかったら、とっとと尻尾巻いて失せやがれっ!」

「かははっ!」


 兎極の言葉を聞いたミハイルはますます楽しげに笑う。


「さあてそれはどうかな? まあ、俺の出番はねーかもしれねぇけど」


 そう言うミハイルの前に黒髪と白髪の少女が立つ。


「その女たちはまさか……」


 嫌な可能性が俺の頭を過ぎる。


「そのまさかだ。こいつらは四宮からもらった戦闘人間だぜ。まあ奴が言うには失敗作だがな。俺からすりゃ殺しにはおあつらえ向きの失敗だぜ」

「殺しにはおあつらえ向きの失敗?」


 瑠奈の話では感情的なほど超人間は失敗作らしい。この女2人は確かに感情的に見えるが、殺しにはおあつらえ向きというのがわからなかった。


「あははっ! ミハイル、こいつらもう殺しちゃっていいの?」

「ひっひ……早く血が見たくてあたしらうずうずしてんだよねぇ」


 白い髪のほうは明るく、黒い髪のほうは暗く、態度の違いはあれど、どちらも楽しそうな表情でこちらを見ていた。


「まあ落ち着けよシロ、クロ。そうだな……まずはこの野郎の前で、女を殺してやったら楽しいだろうな」

「っ!?」


 ミハイルのにやけた目が兎極を見る。

 その瞬間、俺は拳を握るが……。


「上等じゃねぇか」


 ミハイルの視線を見返しながら兎極は指を鳴らす。


「まとめてかかって来いよ。てめえら全員、あたしがぶちのめしてやる」

「と、兎極っ! あの2人は瑠奈と同じだっ! お前じゃ……」

「大丈夫。前のわたしとは違うから」

「兎極……」


 確かに以前とはなにか違うような気がする。

 敵と向かい合う兎極からは、なにやら頼もしさのようなものを感じた。


「全員でかかって来いってぇ? あはっ、それはこっちのセリフじゃん?」


 そう言いながら白髪の女が歩み出て来る。


「あんたらなんてあたしひとりで十分だし。かかってきなよ。すぐに殺してあげるからさぁ。あはははっ!」

「はっ、ケラケラ笑いやがって鬱陶しい奴だぜ」


 見た目は普通のギャルみたいだが、中身は瑠奈と同じ超人間だ。

 瑠奈に手も足も出なかった兎極では敵わないと思うのだが……。


「こいつらは殺すのが大好きな性格でよぉ、殺しをやらないと機嫌が悪くなんだよ。こいつらをご機嫌にするために死んでくれよなぁ。ひゃははっ!」

「うるせえっ! こいつらをボコしたら次はてめえだっ!」


 そう声を上げながら兎極はシロと呼ばれる超人間へ殴りかかる。しかし、


「っ!?」


 兎極の拳が空を切る。


「兎極っ!」


 そしてその背後には青龍刀を頭上に掲げた白髪の超人間が……。


「あはっ! その首もらったっ!」

「てめえなんかにやるほど安い首じゃねーんだよ」

「なっ!? がはっ!?」


 くるりと回った兎極のうしろ回し蹴りを顔面に食らい、白髪の超人間は呻きつつ退いて地面へと手をついた。


「こ、この……っ」

「はっ、たいしたスピードだがよぉ、あたしのほうが上みてーだな」

「ぶ、ぶっ殺してやるっ!」


 怒りに声を上げた白髪の超人間はデタラメに青龍刀を振り回す。

 それを余裕の仕草で兎極はかわし、


「こんなおもちゃであたしがやれるかよ」

「なっ……っ?」


 青龍刀を白刃取りする。


「よ、よく止めたよ。褒めてあげる。けど普通の人間がパワーであたしに勝てるわけない。このまま力づくでぶった切ってやる」


 白刃取り状態のまま、青龍刀の刃は少しずつ兎極へと向かう。


「……喧嘩は力だけじゃねぇ。負けられねぇ。絶対に勝たなきゃダメだっていう強い思いが大切なんだ? てめえにそれはあるのか?」

「あん? あたしは血が見たいだけだ。だからあんたを殺す。それだけだよ」

「そんなゴミみてーな理由であたしに勝てるかよ」

「あははっ! 今からそれを証明してあげるよっ! 死ねっ!」


 青龍刀の刃がさらに兎極の頭へと迫る。……が、


 ペキン!


「なっ!?」


 白刃取りをしている兎極が手を捻って青龍刀の刃を折る。そして、


「ぐぼはっ!?」


 青龍刀が折られて体勢を崩したシロの顔面へ兎極の拳が沈み込む。

 そのまま殴り飛ばされたシロは身体を壁へと打ち付けて地面へと突っ伏した。

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