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第169話 四宮春桜というおにいのサイコな母

 年齢は恐らく30~40くらい。

 綺麗な顔立ちだが、目のクマが目立つ不健康そうな見た目だった。


「あなたが……俺の母さんですか?」

「そう。君はわたしの身体に胎児として存在していて、そして産まれた」


 初めて会った母さん。いや、正確には産まれたとき以来か。


 普通ならば手を取り合い、抱き合って再会の喜びをするところなのだろうが……。


「ありがとうオリガ。君なら大統領でも誘拐できそうだね」

「お望みなら連れて来てやるよ」

「ははっ、それはまた今度にしよう。今は彼と話があるからね。悪いけどはずしてくれるかい?」

「あたしがいちゃ都合の悪いことでもあるのか?」

「ひさしぶりに会った親子だ。察してくれてもいいだろう?」

「つまらない冗談だ。まあいい」


 そう言ってオリガは肩をすくめ部屋から出て行く。

 そして残ったのは俺と四宮春桜、そして瑠奈だけだった。


「瑠奈はいてもいいんですか?」

「それには感情などほとんど無い。柱みたいなものさ」

「柱って……」


 確かに瑠奈は柱のように動かず、ただ前を向いて立っているだけだった。


「……どうして今さら、俺に会いたいなんて思ったんですか?」


 ただ会いたかったわけではない。

 父さんの話からして、この人がそう言う人では無いとわかっていた。


「どういう答えが聞きたい?」

「成長した息子に一目会いたかったと言ってもらえれば嬉しいですね」

「じゃあそう言ってあげてもいいけど、本心は違うよ。君はわたしの身体から産まれた。ただそれだけの関係だ。それだけの理由で会いたいなどと思うはずがない」

「……」


 やはり父さんが言った通りの人だ。

 少し悲しいが、わかっていたことなので心のダメージは少なかった。


「しかし君が望むなら抱き締めてあげてもいいよ。くっくっくっ」

「結構です。それよりも俺をここへ連れて来させた理由を教えてください」

「ああ」


 と、四宮春桜は瑠奈を指差す。


「君がそれを殴り合いで圧倒したという話に興味を持ってね」

「興味って……」

「わたしは胎児だった君に所謂、改造を施した。とは言っても外科的なものじゃない。胎児に影響を与える特殊な薬品を飲み込んだだけさ」

「そんなことをして胎児に悪い影響があったりしたらどうするんですか?」

「取り出してまた孕めばいいじゃないか?」


 なにを言っているのかわからないと、そんな表情で四宮春桜は首を傾げる。


 この人には真っ当な倫理観が存在しない。

 ステレオタイプのマッドサイエンティストという様子であった。


「この実験は天才を人工的に作るというものだった。しかし産まれた君は普通の子供。これは失敗だと嘆いたものだ」

「その失敗作に会いたかったってことですか?」

「ははは。そう卑屈になるな。確かにわたしの想定した結果は得られなかったけど、どうやらあの実験は別の結果を君にもたらしたようだ」

「別の結果?」

「そう」


 と、四宮春桜は自分の頭を指差す。


「恐らく君の脳は感情の起伏に伴って、所謂、リミッターを外してしまうんだ。わたしの行った実験によって君はそれが可能になった」

「……」


 自分になぜそんなことができるのか?

 ずっと不思議ではあったが、ようやくその答えを知ることができた。


 疑問が晴れてすっきりする一方、複雑な気持ちもある。

 この人は胎児だった俺に実験を施したのだ。そのまま死んでいた可能性も考えると恨むべきなのかもしれない。しかしこの力に助けられたこともあるため、恨むに恨めないという思いもあった。


「けどそれだけだと説明できない」

「えっ?」

「戦闘人間はわたしが人工的に作り出した人間だ。骨と筋肉を頑強になるよう精子の遺伝情報を組み替えて、戦闘時は常に脳のリミッターが外れた状態になるよう作った。脳のリミッターが外れるだけの君に負ける理由が無い」

「じゃあ俺は……」


 脳のリミッターが外れるだけじゃない?

 他に何かが?


「君を調べればさらに強い戦闘人間が作れるかもしれないんだ」

「それを使って世界の裏社会を牛耳るつもりですか?」

「はははっ! 世界の裏社会を牛耳るだって? それはあまりに小さい目的だね」

「小さいって……」


 世界には反社会組織が多くある。

 それらをまとめ上げればすごいことになりそうだが……。


「まあ、プーリアの連中はその気だろうけどね。だからわたしに戦闘人間を作らせて、それをあちこちの反社会組織に買わせている。まあ、わたしは個人的に大口の客を抱えてそっちにも売ってるけどね」

「大口の客?」

「政府だよ。税金で人造人間を買うなんて国民が聞いたらなんて思うだろうね」

「……」

「その瑠奈はプーリアが中華マフィアに売った。買ったボスが捕まって戻って来たけどね」

「なんで戦闘人間を別組織に売るなんてことを……?」


 別組織に戦力を売ってどうするというのか?


「わからない? わたしの遺伝子を持っているならもう少し賢いと思ったけどね」

「がっかりしましたか?」

「……いや別に。わたしの遺伝子を持っていてもわたしではないのだ。それに君が賢いからと言って、わたしが喜ぶ理由も無いよ」


 少し不機嫌そうに四宮春桜はそう答えた。


「他の組織に売るのは中から食い破らせるためさ。戦闘人間はわたしの言うことに従うよう作られている。売った戦闘人間すべてにわたしが命じれば、買った組織はすべて壊滅する。まあ、組織を破壊するための爆弾みたいなものかな」

「そんな回りくどいことをしなくても、戦闘人間を使って直接、組織を攻撃すればいいじゃないですか?」

「戦闘人間だって無敵ではない。外から攻撃をさせるよりも、中から食い破らせるほうが安全で確実性が高いのさ。まあそもそも買わない組織もあるんだけどね」

「それが北極会と仁共会……ですか」

「ああ。日本の極道っていうのは固い連中ばかりでね。人身売買にはどこも手を出してはこなかったそうだよ。だから直接、攻撃する方法を選んだってことさ」

「プーリアの目的はわかりました。けど、あなたには別の目的があるんですよね?」

「ああ。わたしの目的とプーリアの目的は違う」

「ならなぜ協力を?」

「研究には金が必要だ。ただそれだけだよ」


 と、そう言って四宮春桜をイスから立ち上がる。


「わたしは戦闘人間を使ってもっと壮大なことをやりたいんだよ」

「壮大なこと?」

「ああ。来たまえ。君におもしろいものを見せてあげよう」

「おもしろいものって……」


 部屋の奥にある扉へ向かって四宮春桜は歩いて行く。

 俺はそれについて行った。


「こ、これは……っ」


 四宮春桜に続いて奥の部屋へ入った俺は、中の光景に目を見開く。


 中にあったのは円柱型の水槽。

 それが無数にならんでおり、中には人間が入っていた。


「ここにあるのはすべて製造中の戦闘人間さ。この水槽は人口子宮のようなものでね。遺伝子を操作した精子をこの中に入れれば、戦える肉体まで短時間で成長させることができる」

「こ、こんなこと……っ」

「人道に反しているなんて批判は耳にタコだよ。人道? 倫理? そんなものは犬にでも食わせたらいい。科学の発展こそがなによりも重要なのだよ」

「……」


 人道に反しているなんて、そんな立派なことを言うつもりは無い。

 ただ、これほど多くの戦闘人間を使ってこの人がなにをやろうとしているのかが怖かった。


「わたしの目的はね、ここにある戦闘人間……いや、超人間を使って世界を科学の力で浄化することなんだ」

「浄化? それって……」


 一体どういうことだろうか?

 わからないが、しかしこの人のやることが正しいこととはとても思えなかった。

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