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第168話 ロシアで母親と再会するおにい

 ―――獅子真兎極視点―――


 走り去って行く黒塗りの車をわたしは拳を握りながら見送る。


「おにいっ!」

「待て兎極っ!」


 追おうとするわたしの肩をパパが大きな手が掴む。


「離してパパっ! おにいが連れて行かれちゃうっ!」

「追ってどうするっ! 五貴が人質に取られてるんだっ! なにもできねーだろっ!」

「けどっ!」

「落ち着きなさい兎極」


 反対の肩にママの手が触れる。


「連れ去ったなら殺す気は無いってことでしょ? 地元の警察にも連絡したし、たぶんどこかで捕まえられると思うわ」

「ほ、本当に?」

「うん。……けど連中は慣れてるからね。うまいこと逃げられる可能性もあるわ」

「そんな……」


 しかし例えどこかで捕まえたとしても、あの戦闘人間たちを警察がどうにかできるとは思えない。


「本当に……大丈夫かな?」

「仮に逃げられても、どこに連れ去られたか突き止めてすぐに助け出せば大丈夫よ」

「うん……」


 少し冷静になったわたしは焦っていた気持ちを落ち着けるために深呼吸をする。


 早くおにいを助けたい。けど焦ってはダメだ。焦って間違いを犯したら、おにいの命が危険に晒されるかもしれないのだから……。


「あいつら、おにいをロシアに連れて行くって……。なんか、おにいのママに会わせてやるとか言ってたけど……」

「わかっているわ。五貴の母親があの子に会いたがってるって」

「どういうこと?」


 おにいを産んだ母親は死んでいる。

 わたしはそう聞いたけど……。


「うん。わたしもこのあいだ士郎さんから聞いたんだけどね……」


 ママがお父さんから聞いたことを話してくれる。

 それを聞いたわたしは、なんとも言えない気持ちとなった。


「どうして今さら五貴に会いたがっているのかはわからない。けど、きっと真っ当な理由じゃないわ。わたしが士郎さんから聞いた四宮春桜って人の性格を考えたらね」

「……」


 普通なら生き別れた息子に会いたいという純粋な思いからだと思う。しかしママの話を聞く限り、四宮春桜という人がそういう理由でおにいに会いたいなんて思うはずがない。胎児のおにいになにかしらの実験を施し、産まれたばかりのおにいを捨てて行方を眩ませた人なのだから……。


「日本から出る前になんとか助け出してぇな。ロシアまで行かれると救出は難しくなるぜ」

「ええ。後宗連合の件がありますし、ロシアに連れ去られたら僕らはどうすることもできませんしね」


 パパと大島の言うことはもっともだ。

 パパが一緒ならロシアに乗り込んでの救出も可能かもしれないが、後宗連合の件を考えるとそれはできない。


「兎極、五貴がロシアまで連れて行かれても、自分だけで救出に行こうなんて考えるなよ?」

「わかってるよ」


 たったひとりでロシアンマフィアのアジトに乗り込んでおにいを救出なんて、そんなことが不可能なのはわかる。本当ならそうしたいけど……。


「……」


 なにを考えているのか、朱里夏は車の去った方角をじっと見つめている。


「てめえも馬鹿なこと考えるんじゃねーぞ。てめえが馬鹿やっておにいにもしものことがあったら……」


 黙っている朱里夏へ釘を刺す。


 こいつは馬鹿だから考え無しに突っ込んで行きそうだ。

 この女はどうなってもいいが、そのせいでおにいの命が危険に晒されるのは避けたかった。


「あたしだって馬鹿じゃない。五貴君の命がかかっているのに無謀なんてやらない。だからロシアに連れ去られる前になんとか助けたいけど……」

「けど?」

「難しい。もしかしたらこのまま空港へ行ってロシアに連れて行かれるかも」

「まさか……。おにいはパスポートも持ってないんだぞ?」

「銃やら改造人間を平気で持ち込めるマフィア連中が、パスポート無しの人間ひとりを国外に出すのなんてそう難しくないんじゃない?」

「……」


 確かにそうかもしれない。

 もしもこのままロシアに連れて行かれてしまったら……。


「向こうの捜査官にも連絡して、救出を頼んでみるわ」

「向こうの捜査官? って、もしかして」

「ええ。前に難波組の件でこっちに来てたインターポールのルカシェンコさん。腕利きみたいだから、もしも五貴がロシアに連れ込まれてもきっと救出してくれるわ」

「うん……」


 救出してもらえたらいい。

 ロシアに連れて行かれたら、その捜査官に頼るしかなかった。


「大丈夫だ兎極。後宗連合の件はとっとと片付けて俺がすぐ助けに言ってやる。だからあんまり心配するな」

「パパ……。うん」


 しかし心配するななんて言われてもそれは無理だ。

 おにいの無事な顔を見ない限り、安心なんてできるはずがない。


「こんなときじいちゃんがいれば……」

「ああ。あのじいさんならひとりでロシアへ行って五貴を助けて戻って来ることもできたただろうな。やる気があればだが」


 豪十郎じいさんはどこに行ったかわからない。

 いれば頼んでみたいが、行方不明なのでまったく期待はできなかった。



 ―――久我島五貴視点―――



 ……ロシアアンマフィアに攫われてから半日ほど経つ。

 俺はあのまま空港へと連れて行かれ、でかいスーツケースに詰め込まれて飛行機へと放り込まれた。そして数時間経ってようやくスーツから出されると、そこは謎の建物内だった。


「ど、どこだここ?」


 黒人と白人の大男はいない。

 いるのは瑠奈。それと葉巻を吹かしているオリガだけだった。


「ドクターの研究所さ」

「研究所……?」


 それにしてはなにやら暗くてじめじめした雰囲気だ。

 研究所と言うと、もっと白くて清潔なイメージだったのだが。


「じゃあここに四宮春桜が……」


 俺を産んでくれた母さんがいる。


 俺を連れて来させた理由はきっと良いものではないだろう。しかし会ってみたいという思いは強かった。


「さあ来な。ママとご対面させてやる」

「……」


 先を歩くオリガに俺はついて行く。

 やがてボロい扉の前に着き、オリガがそれを開いて中へ入った。


「連れて来たよドクター」

「あっ」


 俺も続いて中へ入る。


 薄暗く散らかった部屋。

 薬品のビンやら注射器などが転がった、なんとも不気味な部屋であった。


 その奥の机にボサボサ頭の何者かが、背を向けてイスに座っている。


「ああ、ようやくかい」


 そう言って振り返った女性は、俺を見てニヤリと笑った。

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