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第167話 攫われるおにい

「これはまずいかもねぇ」


 そう言ったオリガが残った2人へ目配せする。


 一体なにをする気なのか……?


「あっ!?」


 瑠奈が俺のほうを向き、一気に距離を詰めてくる。


「させなねーぞ!」

「させない」


 その前に兎極と朱里夏さんが立ちはだかり、瑠奈の動きを牽制した。


「以前までのあたしとは違うぜ! おら!」

「ぐっ……」


 兎極の拳を受けて瑠奈が怯む。


 前に戦ったときはまるで歯が立たなかったのに、兎極の拳はちゃんと当たって効いている。


 セルゲイさんのところへ行っていたそうだが、なにかを教わって力を得たということだろうか。


「あたしも」

「っ!?」


 朱里夏さんの放った跳び膝蹴りを顔面に食らった瑠奈が、表情を歪ませて退く。


 朱里夏さんも恐らくおじいさんになにかを教わって、強くなったようである。


「五貴君っ! うしろだっ!」

「えっ?」


 大島のの声を聞いて振り返ると、いつの間にか黒人の大男が俺の背後へと回っていた。


「おにいっ!」

「五貴君!」

「このっ!」


 セルゲイさんが黒人の大男へと向かう。……が、


「なっ!?」


 先ほど蹴り飛ばされた白人の大男が戻って来て、セルゲイさんを羽交い締めにする。


「てめえこのっ!」離しやがれっ!」


 藻掻いて羽交い締めを解こうとするも、完全に捕まってしまい、セルゲイさんは身動きが取れない。


「お、おにいっ! あっ!」


 その隙に俺は黒人の大男に捕まってしまい、こめかみにはオリガの持つ拳銃の銃口が当てられた。


「さて……これで終わりだね。まだ動こうってなら、こいつの目ん玉でも穿ってやろうか?」

「てめえ……おにいを離せっ!」

「離すわけないだろ。こいつはロシアに連れて帰らなきゃいけないんだからさ」

「ど、どうしておにいを……っ?」

「ママと再会させてやるのさ」

「えっ?」


 きょとんとする兎極。


 兎極には四宮春桜のことは話していなかった。話せば俺が四宮春桜からなんらかの実験を施されたことも話さなければならない。その実験によって俺の身体がどういうことになっているのかはっきりとはわからないし、兎極には無用な心配をかけたくなかったのだ。


「てめえ……狙いは俺と真仁じゃなくて、最初から五貴かっ!」

「あんたと大島真仁のタマをもらいに来たなんて一言も言ってないよ。まあ。個人的にはあんたをもらいたいけどね」

「ふざけたこと言ってんじゃねーぞっ!」

「ふざけているつもりはないよ。まあ安心しな。こいつを人質にしてお前たちを皆殺しになんてするつもりはない。このガキはなにやら強い力を持っているようだし、怒り狂って暴れられても面倒だしね」


 そう言いながらオリガは黒人の大男の背を叩き、俺は抱えられながら部屋の外へと連れ出されて行く。


「おにいっ!」

「俺は大丈夫だっ! 必ず戻って来るから心配するなっ!」


 連れて行かれた先でどうなるかはわからない。

 しかし必ず無事に戻って来る。不安そうに俺を見つめる兎極に、その思いを伝えたかった。


「五貴っ! 必ず助けてやるからなっ!」

「は、はい」


 悔しそうなセルゲイさんに返事を返した俺は、オリガと瑠奈たちに外へと連れて行かれる。そして黒塗りの車へと乗せられそうになったとき、


「待ちなさいっ!」


 そこへ聞き覚えのある声が響く。


「母さんっ!」


 柚樹母さんがオリガへ銃を向けてそこに立っていた。


「ど、どうして母さんが大阪に?」

「北極会の動向は常に追ってるの。あいつのことだしなんかこっちで騒ぎを起こすと思ったら案の定ね」

「いや、これは別にセルゲイさんが悪いわけじゃ……」

「お前は確か……セルゲイの女か」

「はあっ?」


 オリガから問われ、母さんは明らかに不快そうな表情を返す。


「あんなのの女だなんて冗談でもやめてくれる? 不愉快極まりないから」

「まあなんでもいいよ。あの男はあたしがもらう」

「あんなのがほしいだなんて、ロシア女は趣味が悪いこと」

「お前に男を見る目が無いだけだよ」

「それは同感ね。おかげでバツがひとつついたわ」


 母さんとオリガはお互いに銃を向けて睨み合う。

 そうしていると、


「あっ! ゆ、柚樹っ!」


 セルゲイさんや他のみんなが外へと出て来た。


「セルゲイっ! あんたがついててなにやってんのっ!」

「す、すまねえ……。けじめに指を……」

「指なんてどうでもいいから、五貴を助けなさいっ!」

「わかってるよっ!」


 しかし俺は完全に捕まってしまい、セルゲイさんも動くことはできない。うしろにいる兎極や朱里夏さん、大島も苦々しい表情でこちらを見ていた。


「坊やを助けたかったらロシアまで来るんだね。まあ、後宗連合を放って置いてロシアになんて来れるわけはないだろうけど」


 ふっ、と笑ったオリガの目配せで俺は黒塗りの車へ放り込まれる。

 それからオリガと3人の戦闘人間たちが乗り込み、車は無情にも俺を連れて発車してしまう。


「な、なんで母さん……四宮春桜は今さら俺に会いたがっているんだ?」

「さあね? あのイカれドクターの考えなんてあたしにはわからないよ」

「この、瑠奈たちを作ったのは四宮春桜なのか?」

「あたしは先公じゃないんだ。なんでも質問に答えてやるほどやさしかないよ」

「……」


 俺はこれからどうなってしまうのか?

 不安もあるが、俺を産んでくれた母さんに会えるという期待もあった。

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