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第165話 オリガと後宗連合

 ――――オリガ・ゼルガノビッチ視点―――


「ではボス、あとはお任せください」

「ああ」


 ボスを乗せた車がホテルの車路から発車する。


 後宗連合との話は纏まった。

 ボスは祖国へ帰り、あとはあたしが計画を実行するだけだ。


「オリガさん」


 隣に立っている男があたしの名を呼ぶ。


 この男は後宗連合会長の酒井逸事。

 ボスを見送りにと、先ほどここへ現れたのだ。


「少し酒でも飲みませんか? 今後のこともありますし」

「ああ。そうだね」


 酒井の車へ乗ったあたしは、そのままどこかの店へと向かった。



 ……



 博多の高級料亭に連れて来られたあたしは、酒井の酌で酒を呷る。


「どうです? 九州の酒はうまいでしょう?」

「酒なんて酔えればなんだっていいよ」


 普段は度数の高いウオッカを飲んでいるのだ。

 この程度の酒では満足できないが、話ながら飲むには丁度良いとも思う。


「それでオリガさん、今後はどのように事を進めて行きましょうか? 私としましてはまず、九州の極道組織を纏めたいと思うのですが……」

「すでに動いている」

「は?」


 きょとんとする酒井を前にあたしは酒を呷って、それから電話をかける。


「……あたしだ。そっちはどうなってる? ……わかった。そのまま続けろ」


 そう伝えてあたしは通話を切る。


「あの……すでに動いているとは?」

「言葉通りだ。ついさっき、福岡の十拳会が後宗連合の傘下に入った」

「じゅ、十拳会っ!? いやその、十拳会っていやぁ、福岡を牛耳ってるでけぇ組織ですよ? そこをうちの傘下になんて、なにかの冗談じゃ……」

「これを見てもそう言えるかい?」

「えっ? こ、これは……っ!?」


 スマホに映っているのは十拳会会長、須磨重治すましげはるの生首であった。


「須磨は死んだ。若頭の遠藤に跡目を継がせて、後宗連合に従うよう約束させた」

「い、一体どうやってこんなに早く?」

「戦闘人間を使えば容易いことだよ」


 そう言ってあたしは葉巻に火をつけて煙を吐く。


 ドクターの開発した戦闘人間は1人で1000人分の戦闘力はある。

 戦闘人間は改造人間や薬で強化した人間とは違い、戦闘に優れた人間の遺伝子を作り出して培養液の中で育て上げた戦うための生物だ。

 骨は鉄よりも頑強で、皮膚や肉は手榴弾の爆発にも耐える。攻撃による痛みは感じることがなく、100キロの距離を全力疾走しても息を切らさない。


 まさに世界を支配できる怪物だ。

 この怪物が100体もいれば、プーリアは世界の裏など容易に支配できる。


「せ、戦闘人間ですか? 確か闇のオークションで売られているとか言う?」

「ああ」


 戦闘人間の出所がプーリアということはまだ知られていない。出品者を偽装して戦闘人間を世界各地の裏組織に売るのには理由があった。


「あたしが連れて来た3人。あれが戦闘人間だよ」

「あの若い男と女がですか? あれが……」

「奴らに任せておけば、3日で九州の組織をすべて後宗連合の傘下にできる。1ヶ月以内には日本全国だ」


 難波組と組んだときのような失敗はしない。

 戦闘人間があれば、目的の成功は約束されたようなものだ。


「そ、それはすごい……」

「日本にあるすべての裏組織を傘下に加えたあとの支配はお前に任せる。うちへの上納金はきっちり払うんだよ」

「もちろんですよ。しかし他の組織はともかく、北極会は手強いですよ? あそこの会長は喧嘩の強さが尋常じゃないですからね」

「知ってるよ」


 セルゲイ・ストロホフ。

 あの男の喧嘩はこの目で見たし、強さが尋常でないことも調べて知っている。あれは戦闘人間でも倒すのは苦労するだろう。


 あれほどの怪物が自然に生まれてくるなんてなにかの間違いとしか思えないね……。


 とは言え、うちのボスも似たようなものだが。


 しかしあれは敵だが良い男だ。

 できればあたしの男にできたらいいんだけど。


「北極会とは前にちょっともめたからね。因縁があるんだ。まあ任しときな。手こずるようならドクターに追加の戦闘人間を送ってもらうまでさ」


 なにも問題は無い。

 すべて戦闘人間に任せておけば、制圧は時間の問題だ。


 あとはセルゲイをあたしのものにできれば……。


 日本の裏社会を制圧することよりも、あたしはそっちのほうに興味を持っていた。


「うん?」


 そのときスマホが鳴り、相手を確認したあたしは立ち上がる。


「話は終わりだ。あたしは帰らせてもらうよ」

「えっ? もうですか? ではホテルまで送らせてもらいますよ」

「結構だ」


 そう言って部屋を出たあたしは鳴っている電話に出る。


「ドクターか」


 相手は四宮春桜。

 戦闘人間や改造人間、人体強化薬を作り出した頭のおかしい天才科学者だ。


「やあオリガ。日本旅行は楽しんでいるかね?」

「ああ。そっちの冬よりも過ごしやすくて快適だよ。これで良い男でも一緒なら、もっと楽しいんだけどね」

「わからないね。人間なんて雄か雌かってだけで、どちらも単なる有機生命体でしかない。良いも悪いもあるもんかね?」

「あんたに男の話をしたあたしが馬鹿だったよ。それで、なんの用だい? 旅行の土産でも催促する気か?」

「まあ近いものはある。久我島五貴を連れて来てほしいんだ」

「久我島五貴? ああ、あのガキか」


 ミハイルをボコったガキだ。

 確か脳のリミッターを外して異常な力を発揮する奴だったか。


「私の息子でね。連れ去ることを命じて改造人間を送り込んだんだけど、失敗しちゃったみたいだから君に頼みたいんだよ」

「あんたに息子? 意外だな」


 人間を雄か雌でしか認識していないような女に子供がいるとは驚きであった。


「意外ではないだろう? わたしは人間の雌だ。雄と交尾をすれば子を孕む。当然のことだ。意外でもなんでもない」

「あたしが言ってるのはそういうことじゃ無いんだが……まあいい。息子に会ってどうするつもりだ? まさか涙の再会をしたいわけじゃないんだろう?」

「必要だから。それだけさ」

「……わかった」


 なにを考えているかわからないが、機嫌を損ねるとなにをするかわからない女だ。頼みは聞いておいたほうがいいだろう。


「ありがとう。ああ、けど気を付けたまえ。彼は瑠奈を倒しているからね。それじゃ」


 と、そこで通話が切られる。


「……」


 中華マフィアに売った戦闘人間の瑠奈が敗北をしたというのは知っている。しかし倒したのがまさかあのガキだったとは……。


 戦闘人間は戦闘時、脳のリミッターを外す。

 同じ条件なら、身体の作りが頑強な戦闘人間が勝つはずなのだが……。


 あのガキにはまだなにか秘密がある。

 それをドクターは知っているような気がした。

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