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第159話 帰って来たクソ女

 ―――難波朱里夏視点―――


 ……目が覚めると日の光を目に受けた。

 眩しさを感じると同時に、全身の痛みに軽く呻きを上げる。


「目が覚めたか」

「じいちゃん……」


 側ではじいちゃんが座ってあたしを見下ろしていた。


「あれだけ血を流してよく生きてたもんだぜ」

「うん……」


 記憶が不鮮明だ。

 風間と喧嘩をしていたのは覚えている。しかしいつどうやって意識を失ったのかはまったく記憶になかった。


「風間は?」

「埋めてやったよ。他の連中もな」

「そう」


 どうやらあたしは喧嘩に勝ったようだった。


「けど、あんな奴、埋めてやる必要なんて……」

「どんな奴でも死ねば仏だ。仏さんを蔑ろにしちゃならねーよ」

「うん……」


 豪放な人間だが、意外にじいちゃんは信心深いのだ。


「あたしも仏になるところだった」


 生きているのが不思議だ。

 奇跡のようにも思えた。


「良い喧嘩だったぜ。ここへ来たときより面構えも男らしくなった」

「あたしは女。微塵も男じゃない」

「がははっ! そうだったな」


 大好きな男がいる女だから勝てた。

 五貴君への想いがなければ、きっと勝てなかっただろう。


「帰る」


 起き上がろうとするも、しかし全身が痛くて動けない。


「無理すんな。まだ動けねーよ」

「五貴君に会いたい」


 会って抱きつきたい。

 もうそればかりを考えていた。


「その五貴ってのがおめえの男か?」

「うん」

「ふぅん……」


 じいちゃんは考えるように唸り、やがてうんと頷く。


「しょうがねぇな。おめえを連れてオイラも家に連れ帰ってやるか」

「じいちゃんここで死ぬんじゃないの?」

「おめえの惚れた男が気になってな。会ってみたくなった」

「そっか」


 じいちゃんと一緒に家へ帰れる。

 五貴君に会えるのも嬉しいが、じいちゃんが家に帰ってくれるのも嬉しかった。



 ―――獅子真兎極視点―――



 パパのところへ来て何日か経つ。


 ここで喧嘩が強くなるまで帰らない。そのためにママを説得しようと、覚悟を決めて電話をしたのだが……。


「なんでママ……」


 なぜかダメとは言わず、むしろしばらくここへいるようにママは言った。

 あれほどパパに近づくなと言っていたママが……。


 気になるけど理由は教えてもらえなかった。


 ママのことだ。

 間違いの無いちゃんとした理由があるのだろう。


 とりあえずそのことは忘れて、わたしはわたしのするべきことを考える。


 どうしたら喧嘩が強くなれるのか?

 パパが言うには絶対に負けたくないという気持ちが重要とのことだが……。


「よくわからない」


 用意された自分の部屋から夜空を眺めながら呟く。


 喧嘩に負けたくないという気持ちは今までもあった。

 しかしそれではまだ足りないとパパは言う。


 これ以上、どうすればいいのか?

 毎日のようにパパに拳をぶつけているが一向に成長は感じられず、歯がゆい日々を過ごしていた。


「おにいどうしてるかな?」


 わたしと会えなくて寂しがっているだろうか? もしかしたらあのチビ女に迫られて浮気をしていたりなんて……。


「ううん。そんなことは絶対に無い」


 おにいはあのチビ女に多少の好意は持っているのかもしれないけど、それはあくまで友人としてのもので、愛しているのはわたしだけ。

 どんなに迫られたって、浮気なんて絶対にしないと信じている。


「会いたいな……」


 けどまだ帰れない。

 もっと喧嘩が強くならなければ、おにいを守れないんだ。


 わたしはもう誰にも負けちゃいけない。

 おにいを不安にさせちゃいけない。

 誰が襲い掛かって来ても、おにいがあの力を出さないで済むように、わたしは強くならなければいけないんだ。


 強くなる。

 けど、一体どうしたら……。


 考えても答えは出ず、ベッドに入って眠ることにする。


 答えはまた明日、パパに聞いてみよう。


 そう思って目を瞑った。


「……ん?」


 寝入ってからどれほどの時間が経っただろうか?

 なにやら部屋の中で妙な物音が聞こえたような気がして目を開く。


「気のせい……?」


 もしかしておにいが会いに来てくれたのかも?


 そう思ったが、部屋の中に人の姿は無い。


「……やっぱり気のせいか」


 ふたたび目を瞑ろうとするも、やはりなにか部屋に違和感が……。


「はっ!?」


 瞬きをしたそのとき、目の前で大刀を振り上げる何者かの姿が見えた。

 咄嗟にわたしはベッドから起きて飛び退く。……と、


 バサっ!


 直後、ベッドが中心から真っ二つとなる。


「な、なに……っ!?」


 ベッドが一撃で真っ二つに……。

 暗がりの中に立っていたのは、大きな布を被った不審者であった。


「誰だてめえっ!」

「くくくっ……」


 わたしの問いにそいつは低く笑う。

 そして被っている布をゆっくりと外して顔を見せた。


「てめえは……っ」

「ああ……残念。避けられちゃった。けど、簡単に終わらせてもつまらないし、これでよかったのかも」


 そこに現れた顔はクソ女……工藤天菜だった。

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