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第150話 後輩の家へ連れ込まれるおにい

 兎極と朱里夏さんがどこかへ行ってから幾日か経つ。


 2人が一緒だと喧嘩ばかりで大変だったが、いなければいないで寂しい。そんなことを思いながら、俺は夕飯の材料を買いに駅前のスーパーへと来ていた。


 カレーでも作るか。


 兎極ならもっと凝ったものを作ってくれるが、俺はそんなに料理ができない。なので今日は簡単なカレーでも作ろうと思った。


「あれ? 久我島先輩じゃないっスか」

「あ、覇緒ちゃん」


 スーパーの店内で覇緒ちゃんと出くわす。

 お金持ちの覇緒ちゃんがスーパーにいるとはなんとなく違和感であった。


「覇緒ちゃんも買い物?」

「うっす。ゲーセンの帰りにお菓子を買いに来たっス」


 なんとも中学生らしい行動だ。

 お金持ちでもそういうところは普通の学生と変わらないらしい。


「あれ? 姉御とあのなんか小さいお姉さんはまだ帰って来てないんスか?」

「うん。どこ行ったんだかまだ戻って来てないんだ」


 あの2人ならまさかの事態に陥ったりはしていないだろうけど、どこでなにをしているのかは気になっていた。


「まだ当分は戻って来なそうっスかね?」

「そうだね。たぶん」

「ううん……。これはチャンスかもしれないっスね」

「えっ? チャンス? なんの?」

「なんでもないっスー」


 なんでも無いと言いつつも、覇緒ちゃんはどこか楽しそうであった。


「久我島先輩はなんの買い物っスか?」

「ああ、夕飯の買い物をね。カレーでも作ろうと思って」

「カレーっスか。あ、あの……もしよかったらうちへ食べに来ないっスか?」

「覇緒ちゃんの家へ?」

「うっス。パパもママも一度、久我島先輩に会いたいって言ってたっス」

「そ、そうなんだ」


 覇緒ちゃんのパパは逸見建設の社長だ。逸見建設は世界でも有数の大企業として知られ、そこの社長さんに会いたいと言われるなんて、緊張を通り越して怖くなってしまう。

 覇緒ちゃんのママは元女優だ。現在でも芸能界で活躍する美人女優で、会うのは同じく緊張であった。


「いやでも、なんか申し訳ないような……。俺なんかが食事に行っちゃ」


 超お金持ちの食事に俺みたいな普通の男が混じるのは場違いな気がした。


「そんなことないっス。ぜひ食べに来てほしいっス。さあ行くっスっ!」

「えっ? あ、ちょ……わわっ!?」


 グイと引かれた俺の腕が覇緒ちゃんの大きな胸に抱かれてビックリする。

 中学生とは思えない大きなお乳であった……。


「は、覇緒ちゃん、当たってるっ!」

「気にしないで大丈夫っスっ! ささ、早く来るっスっ!」

「気にしないでって言われてもーっ!」


 腕を大きな谷間に挟まれながら、俺はスーパーの外へと連れ出されて行った。



 ……



 そして覇緒ちゃんの家へと連れて来られる。


「わ、わあ……」


 でかい。いや、覇緒ちゃんのおっぱいではなく、家の前にある門のことである。


 江戸時代の将軍様でも住んでいるんじゃないだろうかという、和風の門を前にして俺は立ち竦んでしまう。セルゲイさんの家は洋風のでかい家だったが、こちらは和風であった。


「は、覇緒ちゃんのお父さんて征夷大将軍なの?」

「なに言ってるんスか? 普通のお父さんっスよ」


 普通のお父さんはこんなところには住んでいない。

 しかしお父さんの金持ちレベルを考えたらこれくらいは当然であった。


「さ、早く入るっスよ」

「あ、うん」


 立派な門を通って俺は敷地の中へと入る。

 中には広大な庭が広がっていて、家がどこにあるのかわからなかった。


「おかえりなさいませお嬢様」

「ただいまじいや」

「じいやっ!?」


 覇緒ちゃんが帰って来るのを待っていたのだろうか?

 門の内側で和装のおじいさんがこちらへ向かって頭を下げていた。


 じいやなんて存在、漫画でしか見たことない……。


「お客様でございますか?」

「うん。パパとママはもう帰って来てるよね?」

「はい。今日は月に一度、ご家族でお食事をする日なので、旦那様も奥様も先ほどお帰りになられてお嬢様をお待ちしております」

「月に一度?」

「うっス。パパもママも忙しいから、月に1回しか一緒にご飯を食べられないんス」

「そうなんだ」


 覇緒ちゃんのパパもママも忙しい人だ。

 月に1回でも家族で食事ができるのは大変なことかもしれない。


「そんな大事な日に俺なんかがいてもいいのかな……」

「いいんス。パパとママに久我島先輩を紹介するっス」

「う、うん」


 紹介されて俺はなんとあいさつをすればいいだろう?


 面接に向かうような気持ちで俺は緊張していた。


「こ、これが覇緒ちゃんの家……」


 やがて見えてきたのは和風の大豪邸だ。

 玄関だけで俺の家くらいはありそうだった。


「おかえり覇緒」


 玄関へ入ると、和服の綺麗な女性に出迎えられる。


「あ、ママ、ただいま」

「マ、ママ……」


 覇緒ちゃんのママ。

 ということは、女優の加納真里緒かのうまりお。ドラマや映画で大活躍の人気女優が俺の目の前にいた。


「そちらの方は?」

「久我島先輩だよ。いつも話してる」

「ど、どうも。久我島五貴です」

「まあ」


 俺の名を聞いた覇緒ちゃんママはパッと表情を明るくする。


「娘からいろいろとお話は聞いています。あら、自己紹介が遅れてしまいましたね。覇緒の母の逸見真緒いつみまおです。よろしく五貴さん」

「は、はい。よろしくお願いします」


 本名であいさつをされ、緊張しつつ言葉を返す。


 テレビで頻繁に見かける人気芸能人が目の前にいるのだ。

 凡人の俺は緊張で身体が震えた。


「お食事に誘ったの。いいよね?」

「もちろん。五貴さんにはパパも会いたがっていますしね。さあどうぞ」

「は、はい」


 覇緒ちゃんママに案内されて屋敷の奥へと進む。


 しかしどれだけ広いのだろうか?

 歩いても歩いても目的地に着くような気がしないほど広かった。


「こちらですよ。中では先に主人が待っております」


 豪奢な襖の前で覇緒ちゃんママがニッコリ笑って言う。


 この先に大会社の社長である覇緒ちゃんのパパが……。


 さらに緊張する俺の前で、じいやさんが襖を開く。

 そして目に入ったのは豪華絢爛な食事が並ぶ長いテーブルの奥に座る、身体の大きな厳粛な雰囲気の中年男性であった。

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