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第148話 自分より強い者

 ―――獅子真兎極視点―――


 今のままじゃダメだ。


 瑠奈というあの女に手も足も出ず負けたことで、わたしは自分の弱さを再認識した。

 一度目はミハイルに負けたとき。そして二度目の敗北を経て、わたしは自分を鍛えなそうとおにいのもとを離れた。


 しかしどうやって強くなったらいいのか?

 喧嘩の強さは才能に頼っているところが大きいので、ここから強くなるにはどうしたらいいかわからない。


 普通にトレーニングしても、あの瑠奈という女に勝てる強さは得られないような気がするし……。


「やっぱり、行ってみるしかないか」


 強くなれる心当たりがひとつだけある。

 そこへ行くのは少し躊躇したが、意を決してわたしは家を出てその場所へ向かった。


 ……やって来たのは北極会の本部だ。

 会いに来たわたしを見て、パパは不機嫌そうな表情をした。


「どうして来た? もう来るなって言っただろう?」

「理由があるから」

「理由?」

「わたし、もっと喧嘩が強くなりたいの」


 わたしがそう言うと、パパは呆れた表情からため息を吐く。


「兎極、お前は女だ。それ以上、喧嘩が強くなる必要は無い。喧嘩が強くなって誰かを倒せば、恨まれて危険な目に遭うことも多くなるんだ。喧嘩がつえーってだけでここまでのし上がった俺の言葉だ。間違いはねーよ」

「それでも強くなりたいのっ!」


 パパの目を見て真剣な思いをぶつける。


 弱いままじゃダメだ。

 強くなければ、おにいの隣にはいられない。おにいをあの危険な力から守るには、わたしがもっと強くならなければいけないのだと、そんな思いを胸にわたしはパパへ向かって言葉を吐いた。


「……お前が本気なのはわかる。しかしな兎極、喧嘩ってのは格闘技じゃねーんだ。強くなりてーからって鍛えて強くなるもんじゃねー。喧嘩ってのは心でするもんだ。絶対に負けたくねーって思いの強い奴が、喧嘩では最強なんだよ」

「心で……」


 そういえばおにいも大島と喧嘩をしたとき、実力以上の力を発揮していた。あの危険な力を使わなくても、おにいは心の力で喧嘩に勝っていたんだ。


「兎極、お前が自分を弱いと思うのは、心が弱いからだ。絶対に負けたくないって思いを拳に乗せれば、喧嘩は何倍も強くなる」

「ほ、本当に?」

「試してみるか?」


 と、パパはイスから立ち上がる。


「打ってこい」

「えっ?」

「俺の腹を思いっきり殴れ」

「う、うん」


 わたしも立ち上がり、拳を固める。そして……。


「えいっ!」


 パパの腹を拳で思い切りつく。が……。


「あ……」


 パパは微動だにしない。

 まるで固い巨木でも叩いたような感触であった。


「お前の本気はそんなものか?」

「うん……」


 これ以上は無いくらい思いきり拳で突いた。

 しかしパパは平然としており、まったく効いていないのは明らかだった。


「これじゃあただ殴っただけだ。気持ちが乗っていない。俺を倒す気でやらなきゃダメなんだよ」

「パパを倒すなんて無理だよ……」

「兎極、喧嘩ってのは相手が誰であろうと、絶対に負けたくない。負けるわけにはいかないっていう強い思いが大切なんだ」

「相手が誰であろうと負けたくないっていう強い思い……」

「今のお前はもう心で負けちまってる。俺に勝つことはできねぇってよ、やる前から負けちまってるんだ。それじゃあ喧嘩は強くなれねぇ」

「うん……」

「喧嘩ってのは相手がどんなに強くてもやらなきゃならねーときがある。勝たなきゃならねーときがある。そんな相手に勝つためには気持ちが重要なんだ。負けらんねぇっていうな」

「どうしたらそんなに強い気持ちを持てるかな?」

「自分の弱い部分を知って、そこを鍛えることだな。弱い部分が無くなれば、それが自信になって気持ちも強くなる」

「わたしの弱い部分……」

「わからねぇか? だったらとにかく俺を殴って少しでも痛いって思わせてみることだな。そうすりゃなにかわかるかもしれねぇぜ」

「……うん。わかった」


 頷いたわたしは拳を握る。

 そしてふたたびパパの腹を目掛けて思い切りついた。



 ―――難波朱里夏視点―――



 ……どのくらいバイクで走っただろうか?

 朝に出発して、今はもう真っ暗だ。途中から険しい山道となったので、バイクは置いて徒歩になる。


 山を歩き崖を登り、あたしは目的地を目指す。


「こんなところ、本当に人が住んでいたのかな?」


 進む先にはかつて集落があり、そこには何十年か前まで人が住んでいたらしい。しかし当然だが店もなにも無い。あるのは森だけだ。こんなところに住むなど、現代人のあたしには考えられなかった。


「あ……」


 木々を掻き分けて行く。

 その先に見えたのは、3軒ばかりの廃屋であった。


「ここが……」


 かつてここにはあたしが知る喧嘩最強の男が住んでいた。その男はここで生まれ、ここで育って最強への道を歩み始めたと聞く。


「あたしもここで生活をすれば、最強になるヒントが得られるかも」


 そう思ってここへ来た。


 今のままじゃ五貴君を守れない。

 強くならなければ。しかし生まれてこのかた、強くなる努力をしたことがない。どうしたら喧嘩が強くなれるのか? 強い奴と喧嘩すれば強くなれるような気はする。しかしあたしと喧嘩してくれそうな強い奴には心当たりが無く、藁にも縋る思いでここへ来たのだが。


「こんなところで生活して強くなれるような気がしない」


 無駄足だったかも。そう思った。


「……こんなところたぁ、ひでぇじゃねーか」

「えっ?」


 人の声。

 まさかまだここに住んでいる人間が?


 驚きつつ、声のしたほうへ目をやる。


「あっ!」


 そこに見えた身体の大きな筋骨隆々の白髪男性。

 それは見覚えのある人物だった。


「じいちゃんっ!」

「じいちゃん? ううん? もしかしておめえ……朱里夏か?」

「そうだよっ!」


 難波豪十郎なんばごうじゅうろう

 極道を引退し、喧嘩最強を目指す旅へと出たあたしの尊敬するじいちゃんがそこにいた。

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