第146話 お宝をゲットするおにい
2人の美少女に犯されそうになったあの日から数日経つ。
あのときはなんとか説得できたけど、次はどうなるかわからない。
「どうしようかな……」
今日から冬休み。
俺は自室のベッドで寝転がりながら2人のことを考える。
「俺が好きなのは兎極だ。それは間違い無い。けど……」
朱里夏さんの想いは本物だ。嘘偽りなど一切なく、真剣な想いを俺へとぶつけてきてくれる。その強い想いはそう簡単に断れるものではない。
「だからって、じゃあ2人ともってわけにはいかないしなぁ」
しかし兎極と結婚しても、朱里夏さんは諦めそうにないのがなんとも……。
「あの人、法律とかどうでもいいだろうし」
結婚しても今と変わらず、俺のところへ来そうだった。
「まあ俺も朱里夏さんのことは……うーん」
恋愛感情がまったく無いと言えば嘘になる。
兎極のほうが好きというだけで、朱里夏さんへの想いが無いわけでもない。
「けどこういうのはダメだよな。不誠実だし」
兎極のことを愛しているなら、朱里夏さんにははっきりと厳しく言って突き放さなければならない。……まあそれができたらこうはなっていないんだが。
「うん?」
スマホが鳴ったので画面へ目をやる。
「兎極? どうしたんだ?」
相手は兎極だ。
毎日のように会っているので電話をしてくるのは珍しい。
「あ、おにい、あのね……その、しばらく会えないと思うの」
「えっ? どうしてだ?」
もしかして先日の件でまだ怒っているんじゃ……。
確かにここのところ口数が少なかったので、気になってはいた。
「うん。冬休みだし、ちょっと修業をしようと思って」
「しゅ、修業?」
想定外のワードが飛び出し、俺はなんと言っていいかわからなくなる。
「このあいださ、あの瑠奈って女に手も足も出なかったじゃん? こんなんじゃダメだって、どうしようかずっと考えてたの」
「そうだったのか……」
口数が少なかったのは、瑠奈に負けたときのことを悔やんでいたからか。
「けど修業ってどうするんだ?」
山にでも籠るんだろうか?
「わたしより強い人に鍛えてもらうの」
「兎極より強い人?」
そんな人は多くなさそうだが……。
「次に会うときには、わたしすごく強くなってるから。金翔会のことは不安だけど、そのことはママに頼んでおいたから。あ、わたしに会えなくて寂しくなったら机の一番下の引き出しを開けてみてね。それじゃ」
そう言って兎極は通話を切った。
兎極は狙われることも多い。
俺を守るとかはともかく、強くなるのはいいと思う。
「あんまりあぶないことはしないでほしいけど……うん?」
またしても電話が鳴る。
今度は朱里夏さんだった。
「はい。どうしたんですか?」
朱里夏さんも毎日のように家へ来るので電話してくるのは珍しい。
「うん。しばらく会えないから電話したの」
「えっ? 朱里夏さんも」
「も、って?」
「兎極もしばらく会えないって電話がありまして」
「そう。まああいつのことはどうでもいいよ。あたしもしばらく会えないからさ。寂しいだろうけど我慢してね」
「は、はあ。朱里夏さんはどうしてですか?」
「修業の旅に出る」
「朱里夏さんも修業ですか……」
「あいつもそうなんだ。……うん。あいつもあの女にあっさりやられたことを気にしていたんだろうね」
「まあそういうことです」
あいつも、と言うことは、朱里夏さんも気にしていたということだろう。
「修業の旅って、朱里夏さんはどこへ行くんですか?」
「どこだろう? 自分より強い奴と会って喧嘩できたら、良い修行になりそうだけど」
「自分より強い奴ですか……」
「うん。そういうことだから。金翔会のことは心配だけど、難波組の人間に警戒するよう言っておいたから。あ、あたしがいなくて寂しくなったらベッドの下を探してみてね。それじゃ」
「あ……」
通話が切られる。
「2人とも同じようなことを言っていたな」
てか、寂しくなったら机の一番下の引き出しを開けるのと、ベッドの下を捜せってなんだろう? なにかあるのかな?
と、俺は机の一番下の引き出しを開けてみる。
「こ、これはっ!?」
見つけたのは女の子用の白いパンツであった。
「これってまさか兎極の……」
いや、他の誰かのパンツであるはずはない。
ちょっと汚れていることからして、洗濯したもので無いことは明らかだった。
「あいつなに考えて……はっ! まさかっ!」
俺はまさかとベッドの下も探る。
見つけたのは、意外にもかわいい水色のパンツだった。
「これは……もしかしなくても朱里夏さんのだな」
こちらもちょっと汚れていた。
「なに考えてんだあの2人は……」
まさか2人ともパンツを置いて行くとは。
普段いがみ合っているくせに、考えていることは一緒である。
「寂しくなったら、これをどうしろって言うんだ?」
いや、わからなくもないけど……。
「ゴクリ……」
兎極が穿いていたパンツと、朱里夏さんが穿いていたパンツ……。
俺も男だ。興奮しないはずがない。
「ちょ、ちょっとくらい……」
と、俺がズボンを脱ごうとしたとき、
ピンポーン
「ひゃあっ!?」
インターホンが鳴って驚く。
「だ、誰だこんなタイミングで……」
一気に興奮が冷めた俺は1階へ降りてインターホンのカメラを覗く。
そこに見えたのは仁共会の大島真仁だった。