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第143話 朱里夏を圧倒する瑠奈という少女

 強そうにはまったく見えない。

 しかし不気味で異様な雰囲気があった。


「全員、殺していいですよ瑠奈さん。遠慮はいりません」


 瑠奈と呼ばれた女は朱里夏さんの前に立つ。


「やる気? 死にたいの?」

「……」


 朱里夏さんの言葉に瑠奈は反応しない。

 人形のような無表情で朱里夏さんを見下ろしていた……。


「えっ?」


 瞬きの直後、俺の目に映ったのは瑠奈に殴られた朱里夏さんが地面に顔面を打ち付けている姿であった。


「な、なにが起こったんだ?」


 一瞬の出来事だ。


 直前まで立っていた朱里夏さんが、一撃を食らって今はうつ伏せに倒れている。


 まさかあの朱里夏さんが一撃で?


 そんなはずはない。

 そう思うも、俺は瑠奈という女が放つ異様なオーラに危機感を覚えていた。


「ぐ……うっ」


 地面に膝をつきながら朱里夏さんが立ち上がる。

 しかしフラフラだ。兎極に殴られても平気なほど頑丈な朱里夏さんが、たった一撃であそこまでのダメージを受けるなんて信じられなかった。


「ほお、瑠奈の一撃を食らって立ち上がるとは頑丈ですねぇ。灯さんの娘は」

「ええ。けど、瑠奈には勝てませんよ」


 灯さんは朱里夏さんがどれほど強いかはある程度わかっているはず。

 それでも勝てないと断言できるのは、あの瑠奈という女が朱里夏さんを超えるほどの恐ろしい強さを持っていると確信しているからだろう。


「これは……マズいね。あのチビ女じゃ勝てないかも」

「そんなに差があるのか?」

「パワーもスピードもおかしい。人間が出せるものじゃないよ」

「け、けど、朱里夏さんだって人間離れした強さだし……」


 そんなことを話しているあいだにふたたび瑠奈が動く。


「がはっ!?」


 また一瞬だ。

 一瞬で殴り飛ばされた朱里夏さんが吹っ飛ばされて壁へと身体を打ち付ける。


「姉ちゃんっ!」

「お嬢っ!」

「ハーティンっ!」


 幸隆と水木さん、優実ちゃんが叫ぶ。


 俺はまさかの事態に言葉を失っていた。


「が……はっ」


 ふたたびうつ伏せとなった朱里夏さんへ瑠奈が近づいて行く。


「マズいっ! このままじゃ本当に殺されるっ!」


 そう言った兎極がパチンコ玉を手にし、瑠奈へ狙いを定める。

 そして高速でパチンコ玉を放つ。……が、


「なっ!?」


 放たれたパチンコ玉を瑠奈は振り返ること無く掴み取った。


「くそっ!」


 何発も連続で撃ち込む。

 しかし尽く、瑠奈に掴み取られてしまう。


「な、なんだあいつ……」


 絶句の表情で兎極は瑠奈を見下ろしていた。


「ほお、他に誰かいるようですね。しかしここに何人、あなたがたの味方が隠れていようと無駄ですよ。瑠奈に勝つことはできない」


 ボスの男ががそう言うと、瑠奈はパチンコ玉を掴んだ拳をこちらへと向けた。


「はっ!? おにいあぶないっ!」

「えっ? うわっ!?」


 兎極が俺を担いで走り出す。

 瞬間、さっきまで俺たちがいた場所へパチンコ玉がマシンガンのような速さで撃ち込まれた。


「なんて奴っ!?」


 冷酷にただ攻撃を行う。

 まるで戦闘マシンであった。


「あれはヤバいよおにい。人間じゃない」

「人間じゃないなんて、まさかそんなこと……」


 本当に戦闘マシンだとでも言うのか?

 そんなSFじゃあるまいし……。


 しかしあの強さは尋常では無い。

 兎極や朱里夏さんもかなり人間離れした強さを持っているが、あの瑠奈という女はそれ以上に思えた。


「瑠奈、上の奴らはあとでいい。まずはその女を殺しなさい」

「はい」


 抑揚の無い声で短く返事をした瑠奈がふたたび朱里夏さんへ向かう。


「お、お嬢を守れっ!」


 そう声を上げた水木さんと難波組の男たちが一斉に瑠奈へ向かって拳銃を発砲する。しかし銃弾は瑠奈の打ち出す両手ですべて掴み取られた。


「マ、マジかよ……がはっ!?」


 掴んだ銃弾を瑠奈は親指を弾いて打ち出す。

 水木さんや難波組の組員はそれを食らって倒れた。


 人間じゃない。


 ついさっき兎極の言った言葉はそのまま瑠奈というあの女に当てはまるものだった。


「はははっ! 無駄ですよっ! 瑠奈は無敵だっ! 瑠奈の前では銃なんて玩具っ! いくら撃ったって、傷ひとつつけることはできませんよっ!」


 ボスと灯さんが余裕でいられるはずだ。

 あれは強過ぎる。大袈裟な表現ではなく怪物だ。


「殺される。このままじゃ朱里夏さんが……」


 そう思った俺は下へ降りて行こうとする。

 が、俺の肩を掴んでそれを止めた兎極が先に下へと飛び降りた。


「兎極っ!?」


 俺がそう叫んだときには、すでに兎極が瑠奈の前に立ちはだかっていた。


 これは本当にマズい。

 もっと早くに判断すべきだったと思いつつ、俺はある人に電話をかけた。


「ふっ……どんな者が隠れているかと思えば、かわいらしいお嬢さんでしたか。逃げればいいものをわざわざ死にに出て来るなんて、よっぽどそこにいる連中が大切でしたか?」

「別に。そこに倒れてるチビ女とか難波組の連中なんてどうでもいいよ。けど、子供と両親を殺すってのは気に入らない。黙っては見過ごせねーな」

「ならあなたも死ぬだけです」


 兎極が瑠奈と対峙する。


 ……勝てない。

 そう直感した俺は急いで下へ向かう。


「兎極っ!」

「おにいは下がってて」

「そういうわけには……」

「……そう。五貴君は下がってて」

「あ……」


 倒れていた朱里夏さんが立ち上がり、兎極の隣へと立つ。

 そして2人が瑠奈と対峙する状況となった。

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