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第141話 正義の味方、ハーティン現る

 ―――難波灯視点―――


 廃工場へとやって来たあたしは中華マフィアと合流する。

 それから母親に命令して、父親へ電話をさせた。


「さあて、あとはここで待つだけだね」


 他に用があると言って幸隆と水木はここへ到着してすぐに帰った。


 裏切ったか。たぶん朱里夏に脅されて向こうへ寝返ったのだろう。

 ウェイを倒せるほどの怪物に脅されてはしかたないか。ここに残っている難波組の連中も、朱里夏に脅されればすぐに寝返ってしまうと思う。


 幸隆と水木が裏切ってこの場所を伝えたのならば、朱里夏はここへ来る。しかしここには銃を持ったマフィアが十数人ほどいるんだ。

 来ればハチの巣になるだけ。それはあの子も予想しているはず。


 それでも来るだろうか?

 ……いやきっと来る。あの子は本当にお義父さんそっくりだから。


「灯さん、男が来ました」

「うん」


 廃工場の入り口からこちらへ男が駆けて来る。


「シュウランっ! 優実っ!」

「パパっ!」

「重文さんっ!」

「そこで止まりな」


 そう言ってあたしは男へ銃口を向ける。


「用件はわかっているだろう? 薬の製造方法を教えな」

「お、教えれば妻と娘は解放してくれるのか?」

「それを決めるのはあたしじゃない。まもなくここへボスが来る。ボスが来たら聞いてみるんだね。けど、薬の製造方法を教えないんじゃ、死ぬのは確実だよ」

「くっ……。わかった」


 男はアタッシュケースからUSBメモリーを取り出す。


「製造方法はここにすべて入っている」

「寄こしな」


 投げ渡されたそれをあたしは受け取る。


「本物かどうか確認しろ」

「はい」


 同じ製薬会社で働いていた研究員はUSBメモリーを受け取ると、それをノートパソコンへと接続すした。


「……間違いありません。これがあれば薬物を作ることができます」

「よし」


 あとは生産体制が整えば大量に薬物が手に入る。

 薬物が手に入ったら、中華マフィアを後ろ盾に難波組を使って日本中へ売り捌く。そうすれば何十億、いや、何百億もの金が稼げるはずだ。


 懸念があるとすれば、やはり朱里夏だけど……。


「俺はここに残るっ! だから妻と娘は解放してくれっ!」

「だからそれを決めるのはあたしじゃないの。まあ、ボスの機嫌が良ければあんたの命だけで済むかも……」

「―――あなたたちの悪事もそこまで……だよっ!」

「あん?」


 誰かの声がした。

 聞き覚えがあるようなその声が聞こえたほうへ目を向ける。と、


「あんた……」


 廃工場の2階部分にピンク色の変な服を纏った子供が立っている。背中のマントをはためかせ、腕を組んでこちらを向いていた。


「ハーティンっ!」


 ガキがそう叫ぶ。


「ハーティン? いやあれは……」

「ハートの形は愛の形。世界をハートで満たす愛の戦士。ハーティン。ハートを汚す悪に愛を教えるため、ハートに導かれ今ここに見参」

「しゅ、朱里夏……」


 あれは間違い無く朱里夏だ。

 珍妙な格好をしているが、親のあたしが間違えるはずは無い。


 やはり来たか。

 いやでも、一体なにを考えてあんな珍妙な格好を……。


「とう」


 2階から1階へ朱里夏が飛び降りる。


「その人たちを解放しなさい。えーっと……血も涙もないアバズレクソ女デヒモス」

「親に向かってアバズレとはなんだ。この親不孝な娘が」

「あんたの口から親不孝なんて言葉を聞くとは思わなかった。まあそれよりも3人を解放しなさい。正義の鉄拳を食らいたくなかったらね」

「解放するわけないだろ」


 あたしが銃口を朱里夏へ向けると、中華マフィアの連中も一斉にそちらへ銃口を向ける。


「ウェイを倒したのはたいしたもんだ。けど、これだけの銃を前にしちゃ、いくら喧嘩が強くたってなにもできないだろ?」

「さてそれはどうかな」


 と、朱里夏は右手を掲げた。


「ハーティン、パチンコアタック」

「は? ……あがっ!?」


 朱里夏が妙なことを言った直後、あたしの手を強い衝撃が襲い銃を落とす。


「ぐあっ!?」

「がっ!?」


 銃を持っている中華マフィアの連中も次々と銃を落としていく。


「い、一体なにを……」

「ハーティン、威圧アタック」

「なに……?」


 ふたたび妙なことを口走った朱里夏がものすごい形相へと変わる。

 母親のあたしでも恐ろしいと思ってしまうほどの……。


「ひいいっ!」


 と、そのとき側にいた難波組の連中が悲鳴を上げる。そして銃を落とした中華マフィアたちと乱闘を始めた。


「あ、あんたらっ!」

「無駄だよ」


 そう言って朱里夏はニッと笑う。


「難波組の人間はあんたよりあたしを怖がってるからね。あたしがちょっと睨みをきかせれば簡単に言うことを聞いてくれるの。さて……」


 朱里夏がこちらへと歩いて来る。


 このままでは娘に殺されてしまう。


 そう思ったあたしは、側にいたガキの首を捕まえて顔にナイフを当てた。


「近づくんじゃないよ。ガキを殺されたくなかったらね」

「ハ、ハーティン……」


 ガキが泣きそうな顔で朱里夏を見つめる。


「ゆ、優実っ!」

「優実っ!」

「自分の子供を殺されたくなかったら静かにしてな。朱里夏、ママからの一生の頼みだ。その場で自害しな。そうしたらガキの命は保証するよ」

「つくづくあんたは……」


 心底に呆れた。

 朱里夏は表情でそう語っていた。

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