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第14話 おにいを困らせる電車の悪者におしおき

 ホームに降りて電車へ乗る。

 平日の朝ほどでは無いが、電車内はまあまあ混んでいる。イスはすべて埋まっていて座ることはできないほどだ。


「映画館に行くのなんてひさしぶりー。おにいは?」

「俺もひさしぶりだな」


 ずいぶん前にひとりで見に行ったきりだ。

 何度か天菜を誘ったことはあるが、一緒に行ってくれたことはなかった。


「あ、席空いたよ」


 と、俺は兎極に座ることを勧める。


「わたしはいいからおにい座っていいよ」

「女の子を立たせて俺が座るわけにはいかないだろ」

「そういうの気にしなくてもいいけど……うん。おにいがそう言うなら座らせてもらうね」


 兎極が座り、俺はその前に立つ。


 大きな繁華街のある駅に近づくほど、電車内が混んでいく。満員というほどでもないが、移動は少し難しいというくらいの混みようだった。


 目的の駅まではあと20分くらいかな。


 ぼんやりそんなことを考えていると、


「おいお前」

「えっ?」


 不意に背後から声をかけられ振り返ると、そこにはオムレツを頭に乗せたみたいな髪型のチンピラ風な男がスマホをこちらへ向けながら立っていた。


「な、なんですか?」

「なんですかじゃねーよ。お前、痴漢してただろ?」

「は?」


 急になにを言ってるんだこの男は?


 わけがわからないまま俺はオムレツチンピラ男に視線を向け続ける。


「この人を痴漢してたんだろ?」


 と、隣に立っているケバイ女を指差す。


「は? えっ? いやしてな……」

「はーい。あたしこの人に痴漢されましたー」

「は? な、なに言って……」

「次の駅で降りっぞ。警察に突き出してやる」

「そ、そんな……」


 オムレツ男が俺の腕を掴む。と、


「いだだだだだっ!!!」


 その手を兎極が掴み、オムレツは悲鳴を上げる。


「汚ねー手でおにいに触ってんじゃねーよ、オムレツ頭」

「えっ? あ、な、なんだお嬢ちゃ……いだだだっ!!!」

「おにいは痴漢なんかしてねーよ。目の前に座ってたあたしが見てたんだから間違いねー。と言うか、おにいがこんな気色の悪いババアなんか触るわけねーだろ」

「き、気色の悪いババアだってっ! つとむ、こいつ……っ」

「馬鹿っ! 名前を呼ぶんじゃねーよっ!」

「ははん」


 ニッと笑った兎極が女の腕も掴む。


「次の駅で降りるんだよな? よーし降りてやろうじゃん。来いよほらっ!」


 丁度、電車が駅に止まり、扉が開く。

 俺たちは周囲から注目される中、オム男とケバ女を連れて電車を降りた。


「は、離せよっ! 離せって……クソっ! ちょ、ま……っ」

「ちょっと離してよっ! 勤っ、こいつなんとかしてってっ!」


 車にでも繋がれているように2人は無理やり連れて行かれる。


 引きづるように2人を連れてやってきたのは駅の多目的トイレだ。そこへオム男とケバ女を連れ込んだ兎極は、扉を施錠して2人の腕を放す。


「て、てめえこんなところに連れ……おごぉっ!?」


 しゃべろうとするオムの腹に兎極が蹴りを入れる。


「誰がしゃべっていいって言ったてめえ? あ? 殺すぞ」

「ひいい……」


 かわいらしい見た目からは想像もできないようなドスのきいた声に、オムの身体が震え上がった。


「おいスマホ出せ」

「えっ?」

「さっきのスマホだよ。ロックはずして出せ」

「いや……」

「出せよ」

「ひっ……」


 有無を言わせぬよう兎極の低い声を聞いてふたたび震えたオムが、慌てた様子でスマホを取り出して渡す。兎極はそれを受け取り、タップして眺める。


「てめえら私人逮捕とかやってるユーチューバーってやつだな」

「えっ? 私人逮捕って……」


 そんな活動をしているユーチューバーがいるとは聞いたことあるが……。


「しかもヤラセかよ。女と組んで痴漢をでっち上げるとか、見た目通りのクズ野郎だな」

「あ、あたしはこんな男と知り合いじゃ……」

「馬鹿かてめえ? スマホにてめえらが2人で映った写真があるじゃねーか」

「う……」

「あ、あの、謝るんでスマホを返してもらえますか?」

「ふん」


 スマホから俺が写っている動画を消した兎極はオムにスマホを返す。


「今日のところは勘弁してやるよ」


 そう言って兎極が背を見せる。と、


「……おらぁっ!」

「兎極っ!」


 背後から襲い掛かるオム。しかし、


「はん」


 瞬時に振り返った兎極は飛び掛かって来るオムの腕を掴み、


「うらっ!」

「ぐあっ!?」


 投げ飛ばして壁に叩きつけた。


「が、あああ……」

「てめえみてーな下衆の考えることなんてお見通しなんだよ」


 倒れ伏す男の側に屈んだ兎極は、男からスマホを取り上げる。


「てめえら脱げ」

「な……なんで……んぎゃあっ!!?」


 兎極は躊躇なく男の小指を折る。


「脱げ」

「う、うう……は、はいぃぃ……」


 立ち上がった男はしぶしぶといった様子で服を脱いでいく。


「てめえもだよ」

「な、なんであたしも……」

「脱がねーならてめえの髪の毛を全部毟り取って、こいつのオムレツ頭を縫い付けてやんぞこらっ!」

「ひいいっ、わ、わかりました……」


 恐れをなした女のほうもしぶしぶ脱いでいく。


 やがて二人は全裸になり、便器の前に立たされる。


「よーし。てめえら便器舐めろ」

「は? そんなの……」

「嫌ならてめえらの指ジャンケンで勝てねーようにしてやろーか? お?」

「わ、わかりました……」


 ジャンケンで勝てない指ってどんなだろう?

 想像する俺の前でオムとケバは屈み、震える舌を便器に近づけ舐める。


「そのまま舐め続けろ。……へっへ、なかなかいい絵が撮れたぜ」

「えっ? ちょ、と、撮らないでよっ!」

「うるせえよ。おいオムレツ。今までのこと謝罪しろよ。でっち上げの私人逮捕やって申し訳ありませんでしたってな」

「いやあのそれは……」

「ああん? てめえの手首から先、ドラ〇もんにしてやってもいいんだぞ?」

「ひいいっ!」


 ジャンケンで勝てないとはそういう意味か。そりゃ怖い。


「で……でっち上げの私人逮捕をやってすいませんでした……」

「よーし。これをてめえのアカウントでアップロードしてやるぜ」

「そ、それはちょっと待って……」

「もうアップロードしちまったよ」


 それを聞いたオムの顔が見るからに青くなる。


「まあ安心しろよ。すぐ消されるだろうからよ。けど何人かは見るだろうな。けっけ」


 実際すぐ消されるだろう。しかしこんな動画を見られては今後もユーチューバーとして活動するのは難しいだろう。それ以前に外を出歩くのも難しくなってしまうかも……。


「ほらスマホは返してやるよ」


 と、兎極は持っているスマホを両手で掴み、


 グシャグシャ


 潰してしまう。まるで紙屑でも丸めるようにスマホを潰して球形にした兎極は、それを便器へと投げ入れた。


「てめえら二度とあたしとおにいの前に顔見せんじゃねーぞ。次にツラ見せやがったら、そのツラがそこのスマホみてーになるからな」

「ひぃ……す、すみませんでしたっ!」


 丸めて潰されたスマホを見て呆然としていた2人は、ハッと顔を上げて大声で謝罪の言葉を口にしながら土下座した。


「けっ……じゃあ行こっかおにい」

「あ、うん」


 ようやく笑顔になった兎極を連れ、俺は多目的トイレを出た。

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