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第135話 朱里夏の部屋へ連れ込まれるおにい

 それからは何事もなく、優実ちゃんの家へと到着する。


「まあすいません」


 玄関から出て来たお母さんは、寝ている優実ちゃんを俺から受け取って腕に抱いた。


「毎日のように伺ってしまっているようで、ご迷惑ではありませんか?」

「いえ、すごく良い子なのでそんなことはありませんよ」


 優実ちゃんはすごく良い子なので、迷惑ということはない。

 ただ、やっぱり朱里夏さんの側は危険なので、来ても良いとは言えなかった。


「あの」


 と、そこで朱里夏さんがなにか真剣な表情でお母さんを見上げた。


「さっきそこで中国人っぽい集団に優実ちゃんを渡せって言われました。なにか優実ちゃんが攫われるような心当たりはありませんか?」

「えっ? あ、そ、その……」


 優実ちゃんのお母さんは明らかに動揺していた。


「こ、心当たりは無いですね」

「そうですか。またあるかもしれないので警察へ通報してください」

「はい。その、また優実を助けていただいたようで、本当にありがとうございます。後日、お礼を致しますので、それでは」


 そう言ってお母さんは玄関の扉を閉めた。


「やっぱりなんかありそう」

「そうですね」


 けど優実ちゃんもお母さんも普通の人だ。

 危険な連中に襲われるような人たちには見えない。


「身代金目的じゃないかなおにい?」

「かもしれないけど、お母さんの様子がなにか変な気もするし……」


 中国人の集団に優実ちゃんを誘拐されるような心当たりがあるんじゃ……。


「さっきの連中さ、中華マフィアとかじゃないの?」

「中華マフィア……か」


 相手は中国人の集団だった。

 俺も兎極と同じく、そういう組織の連中ではないかと疑っていた。


「けどなんでそんな連中が優実ちゃんを?」

「それはわかんないけど……」


 優実ちゃん本人が中華マフィアともめるなんてあり得ない。

 お母さんの様子からして、両親に中華マフィアとの関わりがあるのでは……。


「あたしたちは関わらないほうがいい」

「えっ?」


 どういう理由で優実ちゃんが狙われたのか?

 それを考える俺を制するように朱里夏さんは言った。


「あたしたちには関係の無いことだよ。中華マフィアなんかと深く関わったら面倒なことになるだろうし、首を突っ込まないほうがいい」

「け、けど……」

「ただでさえ金翔会に狙われているかもしれないのに、この上、中華マフィアにも狙われたくないでしょ? あたしだって面倒はごめん」

「……」


 確かに中華マフィアと関わるのは危険だ。なにかとんでもなく大きな犯罪があるのかもしれないし、俺たちが関わるべきでは無いのだろう。


「そもそも本当に中華マフィアかもわからない。でも危険な連中なのは確か。あんなのと関わったら自分だけじゃなく、自分の側にいる人間も危険に晒す」

「けど優実ちゃんが俺たちの側にいたらどうしても……」

「あたしはしばらく五貴君の家に行かないから、優実ちゃんが来たらもう来ないって言っておいて。そうすれば諦めるでしょ」

「あ、はい……」


 しかし本当にそれでいいのだろうか?


 朱里夏さんの言うことはもっともだが、どこからしく無いような気もしていた。



 ……



 それから朱里夏さんはうちに来なくなった。

 誘拐されそうになった件があったからか、優実ちゃんも来なくなり、なんとなくうちの中は寂しい感じとなっていた。


「あいつ本当に来なくなったね」

「うん。けど、いつまでだろう?」

「来ないほうがいいんだけど……なんか変なんだよね」

「変って?」

「中華マフィアに狙われるのなんて面倒って言ってたこと。あいつってそんなの気にするタイプだったかな? 狙われるのなんて気にしないで、喧嘩を売られたらどこにでも平気で突っ込んで行く馬鹿じゃなかった?」

「いやまあ……そうかも」


 北極会やら金翔会やら、大きな組織にでも平気で喧嘩を売るのが朱里夏さんだ。兎極の言う通り、中華マフィアに狙われるのが面倒なんて思わない気がする。


「もしかして朱里夏さん、ひとりでなにかやろうとしてるんじゃ……」

「おにいを関わらせないためにああ言ったのかもね」

「……」

「おにいが優実ちゃんを心配してるのはわかるけど、相手が中華マフィアだったらあたしたちだけでなんとかするのは難しいよ」

「わかってるけど、うーん……」


 しかしこのまま放って置くのも……。


「お父さんに相談してみたら?」

「うん。そうだな」


 警察には優実ちゃんのお母さんが通報しているかもしれないが、父さんにも話をしてみようと思った。



 ……



 その日の夜、父さんが家に帰って来たので優実ちゃんが誘拐されそうになったときのことを話した。


「そんなことがあったのか」

「うん。だから警察のほうで優実ちゃんを守ってもらいたくて。たぶん優実ちゃんのお母さんからも警察へ通報はあったかもしれないけど」

「少なくとも俺はそんな通報があったって話は聞いてないな。まあ誘拐未遂事件なら、担当部署が違うから俺が知らなくても変じゃないけど、通報されていたらお前たちに事情聴取をするはずだぞ」

「じゃあ通報してないのかな?」

「たぶんな」


 どうして通報しなかったのだろう?

 子供が誘拐されそうになったのだ。それなのに通報しないなんておかしい。


「担当じゃないけど、俺のほうで調べておくよ。お前はあんまり気にするな。子供が関わるようなことじゃないからな」

「う、うん」


 俺がなにかすると察したのだろう。

 父さんは釘を刺すようにそう言った。


 父さんに任せておけば大丈夫だろう。

 このことは朱里夏さんにも伝えておこうと思った。



 ……



 日曜日、俺は早朝から朱里夏さんの家に向かっていた。

 用事はもちろん父さんとした話を伝えるためだ。


 兎極がうちへ来てから一緒にでもよかったのだが、そうできない理由がひとつあった。それは朱里夏さんがうちへ忘れていった、あるものを届けるという用もあったからである。


「兎極に言ったら捨てちまえって言うだろうけど……」


 捨てるわけにもいかないので、ついでに届けに向かっていた。


 朱里夏さんの家……つまり難波組の本家に着いた俺は、朱里夏さんに用があって来たと伝えたらあっさりと中へ入れてもらえた。


「あ、五貴君っ」

「しゅ、朱里夏さんダメですってっ」


 玄関で出迎えてくれた朱里夏さんが俺へと抱きついてくる。


「だってもう1週間も会ってなかったし、寂しかった」

「だからって抱きつくのは……」

「そうだね。ここじゃ落ちつかないし、あたしの部屋に行こうか」

「えっ? 朱里夏さんの部屋に? いやでも……」


 女性の部屋に入るなんて躊躇してしまう。

 それになんか嫌な予感が……。


「早く」

「あ、はい」


 朱里夏さんが行ってしまうので、しかたなく靴を脱いでついて行った。

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