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第134話 狙われる優実ちゃん

「よ、弱い者に暴力を振るう非道な悪にっ!」

「わたしたちプリティエンジェルズが裁きを与えてあげるっす!」


 そう言って2人はそれっぽいポーズを決める。


「てやーっ!」

「せいやーっ!」

「えっ? あ、う、うあーやられたーっ!」


 朱里夏さんを夢中で叩いていた幸隆は、気付いたように棒演技な呻き声を上げ、そのまま公園から駆け出て行った。


「正義は勝つっす!」

「か、勝つっ!」


 ノリノリな覇緒ちゃんに対し、少し恥ずかしそうに野々原さんが勝利のポーズを決める。


 今さらだけど変なこと頼んじゃったなぁと後悔。

 けど、どちらも美人なのですごく様にはなっていた。


「プリティエンジェルズさん助かりました。ありがとうございます」

「いいえ。悪を倒すのがわたしたちの役目っスから」

「ぶ、無事でよかったです」


 覇緒ちゃんは正義のヒロインになり切っているのか上手に演じているが、他のみんなは棒演技だ。

 しかしこれで朱里夏さんが弱いということを優実ちゃんがわかってくれれば……。


「おっぱいのおばけが増えたっ!」

「えっ?」

「あれはおっぱいのおばけっ! おっぱいのおばけだから偽物っ! 正義のヒロインじゃないのっ!」

「け、けどほら、朱里夏さんは強くないでしょ? だからハーティンじゃ……」

「ハーティンは立派な正義の味方だから、自分のためには戦わないのっ」

「そ、そう……」


 どうやらまたうまくいかなかったようだ。



 ……



「困ったなぁ……」


 公園を出た俺たちは、ファミレスに集まってどうしようか考える。

 優実ちゃんは朱里夏さんと遊んでいたら眠ってしまい、今はファミレスのイスで横になって寝ていた。


 朱里夏さんに恨みを持つ人間は多い。側にいさせたら優実ちゃんが巻き込まれるかもしれないし、なんとか近づかないようにしないといけないのだけど……。


「ケーキ1個くらいで怒るなんて、男として小さい。だからチン〇も小さい」

「そ、それはかんけーねーだろっ」


 当の朱里夏さんはあとから戻って来た幸隆ともめていた。


「1個ってワンホールじゃねーかっ。食い過ぎなんだよっ」

「育ち盛りだから」

「嘘吐くなっ!」

「うるさいな。ケーキくらい帰りに買って行くよ」

「絶対だぞっ。じゃあ俺は先に帰るからな。……あとさっきはマジに叩いてごめん」

「別に気にしてないよ。痛くなかったし」

「うん。じゃあ」


 そう言って幸隆は帰った。


「まったくケーキくらいで怒るなんて子供なんだから」

「弟の買ってきたケーキを黙ってワンホール全部を食べちゃう朱里夏さんも大概じゃないですかね……」


 まったくどうでもいい話だが。


「弟のものは姉のもの。姉のものも姉のもの」

「それはともかく、優実ちゃんのことは困りましたね」


 優実ちゃんに朱里夏さんがハーティンではないということをわかってもらうのはどうしたらいいかを考えるために集まったが、良い方法は出ていなかった。


「あ、それじゃあ姉御がハーティンに出てくる悪者の格好をして、朱里夏さんと戦えばいいんじゃないッスかね? それで朱里夏さんが負けるところを見せたらいいと思うッス」

「ああ、それがいい。おうてめえ、かかって来い。ぶっ殺してやる」

「いいよ。あたしが勝ったら五貴君はもらう」

「いや、ダメダメっ! この2人は本気になっちゃうからっ!」


 なんかもうすでに演技なんかする気がない様子だし。


「獅子真さんに負けるのは演技でも、朱里夏さんはやらなそうだしね」

「う、うん……」


 野々原さんの言う通りだろう。

 本気になってしまい、子供には見せられない戦いを始めてしまいそうだ。


「じゃあ、わたしたちがハーティンの悪者役になって、朱里夏さんを倒すっス」

「うん……。けど、今までの感じからして、優実ちゃんは朱里夏さんがハーティンだって信じ切っているからね。それくらいじゃダメかも」

「確かにそうかもしれないっスね……」


 他になにか良い方法はないか?

 俺は考える……。


「うーん……あ、じゃあさ、いっそ朱里夏さんがハーティンになるってのはどうかな?」

「どういうこと?」


 俺の提案に朱里夏さんは首を傾げる。


「ハーティンになって、自分に近づかないよう言うんですよ。優実ちゃんはハーティンが大好きですし、ハーティンの言葉なら聞くと思いますし」

「なるほど。でもなんて言えばいいかな?」

「それは……うーん……。下手をすればもっと強くハーティンだと思われてしまうかもしれないので、言うことは慎重に考えたほうがいいですね」


 良い方法だと思うが、逆効果になる可能性もある。

 安易には実行せず、じっくり考えてからということになった。



 ……



 覇緒ちゃん、野々原さんと別れ、俺たちは優実ちゃんを家まで送ることにする。優実ちゃんはまだ眠っており、俺の背中で寝息を立てていた。


「優実ちゃんを送り届けたら今度はあたしをおぶって。あたしも五貴君の背中で眠りたい」

「眠けりゃてめえはその辺にでも転がってろ」

「五貴君もあたしを背負いたいの。あたしのことが好きだから」

「おにいが好きなのはあたしだ。てめえは単なるストーカーだろ」

「ストーカーはお前」

「ああ? やっぱてめえぶっ殺してやろうか?」

「やってみろ」

「まあまあ……」


 お互いに噛みつきそうな2人を止めつつ、俺は歩く。


 そろそろ優実ちゃんの家に着くかな?

 そう思ったとき、


「うん?」


 目の前に黒塗りの車が止まる。

 俺たちの行く手を阻むように停まったので、嫌な予感しかしなかった。


 車からはすぐに、いかにもな人たちが降りて来る。


「そのガキを渡せ」


 現れた連中のひとりがやや片言でそう言う。


 中国とかそっちの人だろうか?


 片言の日本語をしゃべるのでそう思った。


「そのガキって……」


 俺は朱里夏さんへ目をやる。


 恨みを多く買っている人なので、朱里夏さんに用かと思ったが、


「そいつじゃない。お前が背負っているそのガキだ」

「この子を? なんでだ?」

「そんなのはお前に関係無い。おとなしく渡さなければ痛い目に遭う」

「渡す気は無い」


 事情は知らないが、優実ちゃんをこいつらに渡すなんてするはずはなかった。


「だったら力ずくだ」


 俺たちの周囲を怪しい連中が囲む。


「おにい、こいつらはやっちゃっていいよね?」

「ああ」


 ……俺がそう答えてから、終わるまでは一瞬だった。


「あがが……」

「はが、が……」

「んが……」


 兎極と朱里夏さんによって怪しい連中はあっという間に倒される。

 時間にして瞬き3回くらいだ。


「く……くそっ! なんだこいつら……っ!」


 男は車に駆け込んで慌てて逃げて行く。

 倒れていた他の連中もよろよろと立ち上がり、駆け去って行った。


「なんだったんだあいつら?」


 朱里夏さんが狙われるならともかく、なんで優実ちゃんが?


 意味の分からない状況に俺は困惑をしていた。

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