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第130話 正義のヒーロー朱里夏

 ―――難波朱里夏視点―――


 五貴君の家に向かってバイクを走らせていると……。


「うん?」


 右へ左へふらふらと走っている自動車が目に入る。


「酔っ払い運転?」


 恐らくそうだろう。


 自動車は少しずつ幼稚園前の歩道のほうへ突っ込んで行き……。


「あぶない」


 歩道には幼稚園から出て来た母親らしき女性と女の子が歩いていた。


「きゃああっ!?」


 車が迫り、母親が叫ぶ。

 咄嗟にあたしはバイクから飛び降り、


 グワシャーンっ!!!


 親子へにぶつかる寸前で自動車を押して受け止めた。


 それからあたしはチンピラ風の女を運転席から引きずり降ろす。


「んあ……んだ、てめ……」

「酒臭い。やっぱり飲酒運転か」

「いぎゃっ!?」


 マニュキアを塗りたくったやたら長い爪を掴んで一気に引き剥がしてやる。


「な、なにを……ひぎゃああっ!!? はぎゃああっ!!?」


 次から次に爪を剥がす

 その度に女は悲鳴を上げた。


「酒飲んで運転なんて二度とするな。次にやったら指ごと引っこ抜くからな」

「は……はひ。すびばぜん……」


 憔悴した女を放したあたしは倒れているバイクを起こす。


「あ、あの、ありがとうございました」

「別に。たまたま通りかかっただけだし」


 礼を言う母親を尻目にあたしはバイクへ跨る。


「なにかお礼を……」

「いらない」


 そう言ってあたしはバイクを走らせた。



 ―――助けられた女の子視点―――



「あの人は……もしかして」


 バイクで走り去っていく女の人。

 あの人はもしかして……。


「け、怪我はなかった?」

「うんっ。それよりあのバイクを追ってママっ!」

「けどお礼はいらないって……」

「あの人にお話があるのっ!」

「そうなの? ……そうね。やっぱりお礼はしないといけないし」


 そう言ってわたしを車道に停めてある自家用車の後部座席に乗せたママは、急いで運転席に乗ってバイクを追う。


 あの強さ。そして正義漢。

 間違い無くあの人は……。


 わたしが憧れている正義のヒロイン。

 その人に違いないと確信していた。



 ―――久我島五貴視点―――



「おいコラてめえっ! 赤甲羅投げるなっ!」

「投げない理由がない」


 赤甲羅を投げられて兎極のカートがスピンする。


 今日は3人でゲームだ。

 和気あいあいという雰囲気でやりたいものだが、兎極と朱里夏さんは相変わらずだった。


「ああもうっ! 1位だったのにっ!」

「あたしが1位。五貴君の1番もあたし」

「どさくさに紛れていいかげんなこと言ってんじゃねーっ!」

「紛れもない事実」

「そもそも1番も2番もねーのっ! おにいはあたしだけなんだよっ! ねっ、おにいっ?」

「えっ? あ、まあうん……」

「口ではこう言ってるけど、本当はあたしなの、ペロ」

「うわぁっ!?」


 朱里夏に頬をペロリと舐められる。


「てめえっ! おにいを舐めるなって言ってるだろっ!」

「五貴君はあたしに舐められたいの。本当はあたしとペロペロあっちこっち舐め合いたいけど、お前がいるからできない」

「そんなわけあるかこの野郎っ! てか、おにいを守るためとか言って毎日毎日来やがってっ! あたしがいれば十分なんだからてめえはもう来るなっ!」

「あたしがいないと五貴君が寂しがる。そうだよね?」

「えっ? あ、まあ……そうですね」

「おにいっ!」

「い、いやだってさ……」


 最近はいるのが当たり前になっているので急にいなくなるのは寂しいかも。

 それに金翔会に狙われているなら、朱里夏さんが一緒にいたほうが安心だ。


「五貴君はあたしの大人な魅力にメロメロなの。認めるべき」

「てめえのどこに大人があるんだよっ! てめえにくらべたら中学生のほうがまだ大人だろうがっ!」

「中身に大人の魅力が詰まってるの。五貴君ならわかる」

「えっ? あーいやその……」


 朱里夏さんは悪い人じゃないけど、中身に大人の魅力があるかのどうかはなんとも……。少なくとも外見は完全に子供である。


「わからない? じゃあエッチしようか。そしたらわたしが大人だってわかる」


 そう言って朱里夏さんは俺の身体へ抱きついてくる。


「コラっ! おにいに抱きつくなっ!」

「嫌だ。今日こそは五貴君とエッチするの」

「させるかっ! この離れろーっ!」

「いや」


 兎極がぐいぐい引っ張るも朱里夏さんは俺から離れない。


 今日は3人で仲良く楽しくゲームをできるかなと思ったけど、結局はいつも通りの展開になりそうだった。


 ピンポーン。


 と、そのときインターホンが鳴る。


「あ、誰か来たみたい」

「まさか金翔会……っ」

「たぶん違う」


 朱里夏さんが窓から外を見下ろしながらそう言う。

 俺も外を見ると家の前に停まる乗用車が見えた。


「なんか普通の車っぽい。でも警戒はしてね」

「は、はい」


 念のため俺たちは3人で1階へ行き、インターホンのカメラで客を確かめた。


「どちら様ですか?」

「はい。急なご訪問、失礼いたします。こちらに娘の命を救ってくださった方がいらっしゃると思うのですが、その方へお礼の品を持って参りました」

「は?」


 なんの話だろう。


 見知らぬ女性に妙なことを言われて俺は首を傾げる。


「あの、なにかの間違いでは?」

「いえ、間違いありません。バイクに乗った背の低い女性です」

「バイクに乗った背の低い女性って……」


 俺と兎極は朱里夏を見る。


「なにか心当たりありますか?」

「うん? うーん……あっ」


 どうやらなにか心当たりがあるようだ。


「ハーティンっ!」

「えっ?」


 インターホンの先で小さな女の子の声がした。

 見ると、女性の前には幼稚園児ほどの女の子が立っていた。


「ハーティンに助けてもらったのっ! ハーティンに会いたいっ!」

「ハ、ハーティン?」


 ハーティンとは確か日曜日の朝にやっている子供向けアニメの主人公だったか。


 この子が言うハーティンとはまさか朱里夏さんのことだろうか?

 しかしなぜそうなっているのかはさっぱりだった。

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