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第122話 謝罪に訪れる大島兄妹

 模試を明日に控えた日の夕方、俺は家で兎極と勉強をしており、その横では朱里夏が寝転がってゴロゴロしていた。


「おい、お前いつまでいるんだ? とっとと帰れ」


 兎極がペンを向けながら朱里夏へ言う。


「嫌だ。お前が帰れ」

「ああ?」

「まあまあ」


 このやり取りも5回目だ。

 別に邪魔をするわけでもないし、俺は朱里夏さんがいてもいいと思うけど。


「お前、目障りなんだよ」

「お互い様」

「ああ?」

「まあまあ……」


 しかしこれでもだいぶ仲良くなった気がする。

 以前は顔を合わせるだけで殴り合い寸前だったし。


「ふん。あ、そういえばパパもうすぐ出所できるんだって」

「へー」

「なんかパパを起訴しようと躍起になってた警察の偉い人が不祥事で失脚して、状況が変わったから出られるようになったとか」

「そうなんだ」


 それはよかった。

 これで沼倉さんも安心して身体を治せるだろう。


「たぶん工藤は破門……いや、絶縁になるんじゃないかな? もしかしたら行方不明とかになったりするかも」

「ゆ、行方不明って……」


 兎極を誘拐しようとしたのだ。セルゲイさんの怒りは凄まじいだろうし、行方不明という建前の死は十分にあり得た。


「けど工藤がいなくなっても、あいつが仁共会と組んでた事実もあるから、話はもっとややこしくなるかもね」

「それって……」


 ピンポーン。


「うん?」


 来客だ。


 誰だろうと思って俺は立ち上がる。


「ちょっと待って」

「うん?」


 兎極に腕を掴まれる。


「このあいだのこともあるし、ちょっと警戒したほうがいいかも」

「そうだな」


 俺もそれは考えていた。


 まだセルゲイさんは出てきていない。兎極を誘拐しようと工藤や仁共会の連中がここへ来る可能性もなくはなかった。


「ママがわたしたちの側に警官をつけてくれたみたいだけど、油断はあぶないよ」

「うん。あいつらの狙いは兎極だ。だからとりあえず俺ひとりで行って……」

「ダメ」


 そう言って兎極は俺の腕を掴む手に力を込める。


「あいつらおにいにだってなにするかわからないよ。だから一緒に行く」

「けど……」

「大丈夫。工藤とか仁共会の奴らだったらわたしのパチンコ玉ですぐに倒すから」

「う、うん」


 インターホンのカメラで確認して、それっぽい連中なら警察に通報しよう。もしも無理やり入って来たら兎極のパチンコ玉に頼ることになるだろう。


「あたしも行く。金翔会の連中かもしれないし」

「そうですね」


 金翔会の可能性もあるのだ。

 考えてみれば俺たちはずいぶん危険な状況を生きている気がする……。


「安心して。どんな敵が来ても五貴君はあたしが守るから」


 そう言って朱里夏は俺の手をぎゅっと握る。


「おにいに触るな」

「お前こそ触るな」

「ああ?」

「まあまあ」


 睨み合う2人を連れて俺は1階へ行き、インターホンのカメラを確認する。


「あれ?」


 しかしそこに映っているのは意外な人物たちだった。


「大島真仁と、妹の仁魅……?」


 仁共会の人間には違いない。

 だが2人で一体なにをしに来たのか……。


「どうするのおにい?」

「うん……」


 俺はとりあえずインターホンに応答する。


「あーえっと……なんの用で来たの?」

「あ、うん……。謝りに来たんだ」

「えっ?」


 謝りに。


 そう言う大島真仁の表情はとても悪事を働きに来たようには見えず、ただただ申し訳なさそうであった。


「昨日、妹がうちの若頭と話しているのを聞いて知ったんや。君たちには大変な迷惑をかけてしまった。だから謝らせてほしいんや」

「……」


 俺はどうしようか迷う。

 大島の隣にいるのは俺たちを騙した妹の仁魅だ。もしもまた騙す気でいる可能性を考えるならば、ここは会わずに追い返すべきなのだが。


「君たちが望むならここでこいつの顔をぶん殴ってもええ。君たちの気が済むまで、俺はこいつの顔をぶん殴る」

「えっ? いや……」


 大島の目は本気だ。


 大島妹に対して恨む気持ちが無いと言えば嘘になる。

 しかし別に殴られているところなんて見たくはなかった。


「どうしよう? やっぱりとりあえず帰ってもらったほうが……」

「いや、会おう」

「えっ?」


 意外にも兎極は2人に会おうと言った。


「けど罠かも」

「おにいとわたしになにかあったらすぐに警察が動くようになってる。少しでも怪しい動きをしたらパチンコ玉を撃ち込んでやるから大丈夫」

「そ、そうか」


 兎極がそう言うならと、俺は会うことにして玄関を開く。

 そこには変わらず申し訳なさそうな大島と、バツが悪そうな表情の妹がいた。


「あ……えっ?」


 瞬間、大島はその場に膝をついて土下座をする。

 妹の頭も掴んで、無理やり地面すれすれまで下げさせていた。

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