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第119話 2人の工藤にまさかの……

 兎極と朱里夏を連れて1階へ行く。

 それからインターホンのカメラを確認すると……。


「あのクソ女……っ」


 来客は天菜だ。

 以前と変わらない頬に傷をつけた顔がそこにあった。


「どうしよう?」

「あたしが出るよ」


 と、朱里夏がひとりで玄関へ向かって扉を開く。


「あ、朱里夏姉さん……」

「天菜」


 申し訳なさそうな表情が朱里夏を見下ろしていた。


「謝りに来たの?」

「は、はい。朱里夏姉さんも一緒だったんですね。間に入ってもらおうと思ってたんですけど、やっぱりひとりで謝ろうと思って……」

「そう」


 ……顔は申し訳なさそうに見える。

 しかし腹の中ではなにを考えているのか?


 俺は遠目から警戒していた。


「五貴、獅子真、許してもらえるとは思ってないけど、本当にごめんなさい。この通りだから」

「えっ?」


 天菜はその場で膝をつき、両手を地面について土下座をする。


 まさかあの天菜が土下座をするなんて……。


 ありえない光景が目の前にあり、俺は困惑を極めた。


「許してなんて言えない。けどこれがわたしの気持ちだから」

「あ、いや……」


 こんなものを見せられて俺はなんと言ったらいいのか……。


 もしかしたら本当に謝罪の気持ちが?

 しかし天菜は兎極を殺そうとしたのだ。許すことなんて……。


「う……」

「えっ?」


 不意に、天菜の前で朱里夏が倒れる。


 なにが起こったのか?

 俺の目に映ったのは、土下座しつつ妙な形の拳銃を握る天菜の右手だった。


「天菜っ!」


 俺がそう叫んだとき、


「う……あっ……」

「と、兎極っ!?」


 兎極が隣でうつ伏せに倒れる。


「ごめんね五貴君。これもあなたのためだから」

「お前は……っ」


 健康ランドで会ったガタイのいい男だ。

 男は天菜と同じ妙な拳銃を持って2階から降りて来ていた。


「仲間だったのか……」


 そういえばこいつも名字は工藤だったか。

 もしかしたら親戚かなにか? だがそんなことはどうでもいい。


「ええ。悪いけどガラスを割って2階から入らせてもらったわ。音を出さずにガラスを割る方法なんていくらでもあるから、防犯には気をつけることね」

「と、兎極っ!」


 それよりも俺は兎極を抱き起こす。


 銃撃された傷は無い。

 代わりになにか注射器に似たものが肩に刺さっていた。


「安心しなよ。これは麻酔銃だから。ふふ、でもこれで猛獣2匹は動けない。あんたは2つの麻酔銃に狙われている。どっちが勝者か一目瞭然」

「……なにが目的だ?」

「朱里夏はどうでもいい。そこのオカマがあんたと獅子真に用があるみたい。あたしはそのクソ女がひどい目に遭えばなんだっていいけど」

「誰がオカマよっ! 失礼ね。あたしは女よ。そこに倒れてるメスとは違う本物の女。さあ五貴君こっちへ来なさい。あなたに本物の女を教えてあげる」

「ふざけるな」


 俺は立ち上がって男を睨む。


「おとなしくしなよ。いくらあんたがブチ切れたって、こいつには敵わない」


 天菜が麻酔銃を向けたまま俺へ近づいて来る。


「こいつで眠って、そのオカマに掘られちゃいな。ぎゃははっ!」

「……」

「あら? 五貴君どうしたの? 両手で顔を覆ったりして……」


 そのとき、コツンとなにかが地面に落ちる音がした。


「えっ? なんの音かしら……」


 瞬間、バシュっという大きな音とともにものすごい閃光が家中に走る。


「ぎゃあっ!!?」

「ふぎゃっ!!?」


 目を潰すようなその閃光を浴びて、天菜と男が叫び声を上げる。

 ものすごい爆発音に俺も耳がほぼ聞こえなくなり、周囲で起こっていることがわからなくなる。


「な、なにが起こって……うぎゃああああっ!!!」


 天を突くような天菜の叫び声。そして……。


「えっ? な、なに……うんぎゃあああああっ!!!」


 今度は男の叫び声が響く。

 そして2人の倒れる音が、俺の耳に鈍く聞こえた。



 ……



 それからしばらくして兎極と朱里夏が目を覚ます。

 俺も耳の状態が回復して気持ちを落ち着けていた。


「それで、こいつらどうしてくれようか?」


 ダクトテープで縛り上げた天菜の頭を兎極がぐりぐりと踏みつける。


「あたしに仲介を頼んでおいて、よくもこんなことしてくれたね。お前は絶縁。このままサメのいる海に放り込む」


 朱里夏は天菜へ向かって無表情でそう言い放つ。


「ど、どうして……?」


 それに対して天菜は疑問を口にする。


「どうしてじゃねーだろ? てめえなんてサメのエサで……」

「そ、そうじゃない。わたしらが麻酔銃を持って来るってわかってたの? わかってなかったらこんなこと……」

「銃を持って何人かで来るんじゃねーかとは思ってたよ。まあ実際は麻酔銃だったし、人数も2人だったから想定よりはマシだったけどよ」


 1階へ行く前に兎極は俺に言った。

 万が一を考えて、覇緒ちゃんに閃光弾。野々原さんへ強力スタンガンを渡して1階に隠れてもらおうと。それでもしも兎極と朱里夏が倒れたら、その閃光弾で目をくらまして、野々原さんがスタンガンで倒せる敵を倒して警察を呼ぶ。それが万一が起こったときの兎極の考えであった。


 しかし敵が金翔会かこの連中かはわからなかった。

 もしも金翔会だったら2人を巻き込むのは危険だ。金翔会だった場合は2階の窓から逃げて警察だけ呼んでもらうよう頼んだ。天菜だった場合は、閃光弾とスタンガンでの助けを求めたわけである。


「ほ、本当に警察は呼ばなくていいのかな?」


 野々原さんが不安そうに聞いてくる。


「あたしは警察呼んで、ムショにぶち込んでもらったほうがいいと思うけどよぉ」


 そう言いながら兎極は朱里夏へ目をやる。


「こいつは姉貴分のあたしの顔に泥を塗った。制裁はあたしがやる」

「こいつがこう言うんだよ」

「お、おお、ヤキを入れるってやつっすか? 根性焼きとか……」

「根性焼き? 目に?」

「ひえ……」


 朱里夏の言葉を聞いて覇緒ちゃんは短く悲鳴を上げる。


 普通の女の子である覇緒ちゃんが入れる世界ではない。

 朱里夏の考えは理解できないだろうし、理解する必要もないと思う。


「本当だったら全身の骨を砕いてサメのいる海にでも放り込んでやりたいけど、こいつはこれでも堅気。堅気には堅気らしい落とし前のつけかたがある」

「堅気らしいって、朱里夏さん、もしかして……」

「丁度、男もいるし」

「へっ?」


 天菜の隣で同じように縛られている男を見て朱里夏はニヤリと笑う。


「な、なによ? あたしになにする気なの?」

「お前は堅気か? 堅気でないなら……」

「か、堅気よっ! パパは極道だけど、あたしは堅気なのっ! 信じてっ!」

「ふん。まあ、それなら堅気らしいけじめを取ってもらう」

「こ、殺さないわよね」

「肉体的にはね」

「に、肉体的には?」


 その意味を俺は理解できる。

 しかし朱里夏はきっと、俺が考えるよりも数段上のことをやろうとしているのではと思った。



 ……



「早く始めろ」

「か、勘弁して頂戴……」


 朱里夏はまず2人を全裸にして恒例の落ち武者カットに。

 それから2人に交尾をしろと命じたのだ。それを動画で撮るらしい。


 天菜のほうは完全に諦めていたが、男のほうはものすごく嫌がっていた。


 ちなみに覇緒ちゃんと野々原さんには帰ってもらった。

 純真な女の子である2人が見るにはあまりにエグイ光景なので……。


「やらないなら耳を削ぎ落す」

「ひーっ! そ、それも勘弁してっ! あの、五貴君とだったら喜んでするけど……。それじゃダメ?」

「ダメに決まってんだろっ! この野郎っ!」


 兎極が男を足蹴にする。


 もちろん俺は嫌である。


「ちょっと早くしてくれる? とっとと済ませて帰りたいんだけど?」


 もうこんなことくらいなんでもないのか、制裁なのに天菜は余裕そうだ。


「おい、これくらいじゃこのクソ女は痛くも痒くもないぞ?」

「ん? そうかも。じゃあ下剤でも飲ませて排泄するとこ撮ろうか」

「いやちょ……しゅ、朱里夏姉さんそれはちょっときついです……」

「そうでもない。あたしはお前の指を全部、犬に食わせたいくらいキレてるし、排泄を撮るくらいで勘弁してやるのはだいぶやさしいよ。だから排泄しろ」

「ひーっ!」

「あのすいません朱里夏さん、ここうちなんでそういうのやめてもらえますか……」


 ……その後、兎極と朱里夏が珍しく仲良く相談して、口では言えないような2人の恥ずかしい動画を撮った。そして今度ふざけたことをしたら撮った動画を拡散した上、ヤクザとしての制裁を加えてやると脅して裸で外へ放り出した。

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