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第118話 クソ女が謝りたいらしい

 健康ランドからみんなと一緒に家へ帰って来た俺は部屋に戻って一休みする。


 覇緒ちゃんの誘いで野々原さんも誘って健康ランドに行ったが、なんだか偉い目に遭ってしまった。


「あの人、なんだったんだろう?」


 浴場で声をかけてきたときは金翔会の人間かと警戒して、兎極からもらった閃光弾を使って逃げようとしたが……。


 俺は右手に持った閃光弾を見下ろす。


「これ、本当に使っても大丈夫なものなのか?」


 見た目は完全に爆弾だ。

 浴場ではこれをタオルで巻いて腰に括りつけていたり、湯船に入るときはタオルと一緒に頭へ載せていたが、爆発するんじゃないかとずっとヒヤヒヤしていた。


「緊急事態ならしかたないでしょ?」

「いやまあ……けど、どこでこんなもの手に入れたんだ?」

「ずっと前に護身用に持ってなさいってパパからもらったの」

「そ、そう」


 あのパパなら平気でこんなものを娘に渡しそうである。


「他にもスタンガンとか持って来たんだけどね。象も一撃で気絶させられるくらい強力なやつ。やっぱこっちのほうがよかった?」

「そんなの風呂場に持って行けないだろ……」


 下手すりゃ俺も他の客もみんな感電死だ。


「こんなものを持たなくても、あたしが水着を着て一緒に入ればよかったと思う」

「てめえが一緒のほうがよっぽど危険だよ」

「そんなことないし。五貴君もあたしと一緒がよかったよね?」

「えっ? そ、その……」


 朱里夏が俺に抱きつきながらじっと見上げてくる。


「おにいに触るな淫売女っ!」

「淫売じゃないし。あたしは五貴君だけ」

「この……っ」

「ま、まあまあ。喧嘩はしないで。朱里夏さんも喧嘩になるから離れてくださいね」

「むう……五貴君がそう言うなら」


 不満そうに朱里夏は俺から離れた。


「け、喧嘩なんてダメだよ。ほら、模試もあるんだし勉強しよ」


 兎極と朱里夏が睨み合う剣呑な空気を裂くように野々原さんがそう言う。


「そうっスよっ! せっかく健康ランドでリフレッシュして、勉強に身を入れようって話だったのに、喧嘩なんかしちゃダメっスっ!」

「う……うん」


 覇緒ちゃんの言葉に兎極は申し訳なそうに頷く。


「あたし勉強、関係無いし」

「そうだよっ! なんで関係無いてめえがついて来たんだっ!」

「あたしがいないと五貴君が寂しがる。ね?」

「えっ? ああ、はあ……」

「てめえなんかいなくても……」


 バァン!


 そのとき銃声らしき音が鳴る。


「おにいっ! みんな伏せてっ!」

「えっ? えっ?」

「なんすかっ?」


 兎極が俺を抱えて伏せるのと同時に、覇緒ちゃんと野々原さんも伏せる。


「ま、まさか金翔会……?」


 俺はそう思って、朱里夏のほうへ目をやる。


「いや、あたしのスマホの通知音」

「紛らわしい音にすんなっ!」


 兎極が朱里夏の頭をひっぱたく。


「どんな通知音にしようとあたしの勝手じゃん」

「うるせえっ!」


 ゴンゴンと兎極は朱里夏を殴る。

 朱里夏は意に介さず、自分のスマホを眺めていた。


「……天菜からメッセージだ」

「なに?」


 兎極が殴るのをやめて朱里夏のスマホを覗き見る。


「なんだ? おにいとあたしに謝りたいからてめえに仲介してほしいって? なんだよこれ?」

「書いてある通りじゃん?」

「あのクソ女があたしたちに謝罪なんてするわけねーだろ。なんか企んでんだよ」


 俺もそう思う。

 天菜は兎極を殺したいくらいに恨んでいる。俺のことも同じように嫌っているだろうし、謝罪なんてしてくるとは思えない。


「一応、こいつあたしの妹分だからさ。あたしの顔を立ててほしいんだけど」

「てめえの顔なんて知ったことか。こんなの無視だ無視だ」

「まあそうするべきだな」


 姉貴分として仲介を頼まれた朱里夏には悪いが、嫌な予感しかしない。


「ちょ、ちょっと待って」


 と、そこで野々原さんが声を上げる。


「工藤ってさ、ものすごく執念深いよ。自分の思い通りにならないとすごく機嫌が悪くなるしさ。ここで無視しても、あとできっとなにかしてくるんじゃないかな?」

「まあ、それはそうかもしれない……」


 天菜はそういう奴だ。

 野々原さんの言う通り、ここで無視してもあとでまたなにかしてくるだろう。


「なにかしてきたらそのときはそのときで、わたしが返り討ちにするし」

「この女はどうでもいいけど、五貴君はあたしが守るから大丈夫」

「う、うん……」


 ……どうやっても天菜がこの2人に勝てるとは思えない。

 しかし不安だ。あいつは完全にキレているので、なにをしてくるかわからない。


「じゃあ罠にかかった振りをして、ガチガチに対策して行くっていうのはどうすか?」

「えっ? いやでも……」


 覇緒ちゃんの考えもありだと思う。

 だがなにをしてくるかわからないのに、対策もなにもないだろう。


「確かに、罠にかかった振りをして、シメておとなしくさせとくってのは手かも」

「け、けどなにをしてくるかわからないんだぞ? 対策のしようもない」

「それもそうだけど……」

「わかった。それじゃあ、あたしがひとりで行って、天菜の真意を確かめてみる。とりあえずはそれでいいよね?」

「あ、はい。じゃあそうしてもらえますか」


 とりあえずは朱里夏に様子見してもらうのが無難だろう。

 謝罪する気があるなんてとても思えないけど。


 ピンポーン。


「うん? 誰か来たみたい」

「ちょっと待っておにい」

「あ、うん。もしかして金翔会かもしれないな」

「それもあるけど、万が一も考えてさ」

「うん?」

「あのね……」


 兎極の懸念を聞き、俺はまさかと思いつつも念のため言う通りにしようと思った。

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