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第116話 工藤竜三郎の息子

 ―――工藤竜三郎視点―――


「はあ……」


 電話を切った俺はため息をつく。


 鳴海の兄弟がうまく誘き出してくれれば、あとは兄貴がうまくやってくれるはず。


 とは言え、絶対にうまくいくという保証も無い。

 うまくいかなければ終わりだ。


 俺はげっそりとした心地で煙草に火をつけた。


「パパ」

「ああ?」


 と、そこへガタイの良い男が現れる。


「なんだ純也?」


 こいつは俺の息子の純也じゅんやだ。

 身体が大きく、喧嘩も強いので将来を期待できる男なのだが、ひとつだけ心配な部分があった。


「なんか大変みたいね。あたしが手伝ってあげようかしら?」

「別にお前の手を借りる必要はねーよ」

「遠慮しないでパパ。あたしパパのためならなんだってしちゃうから」

「そ、そうか」


 ウインクをして見せる純也。


 見た目に反してどうもこいつは女っぽいと言うかなんというか……。

 まあ心配とはつまりこういうことだ。


「その兎極って女を誘拐すればいいんでしょ? あたしにかかれば簡単よ」

「ただの女じゃねぇんだよ。恐ろしく喧嘩が強い」

「わかってるわ。けど好きな男の子がいるそうじゃない?」

「よく知ってるな」


 以前にセルゲイが酔ってそんな話をしていた。

 なんでも義理の兄に執心しているとか……。


「あたしが面倒を見てる半グレが、別のチームの半グレに聞いたのよ。好きな男の子に暴力を振るおうとした半グレのチーム数十人を全員ボコボコにしたって」

「そうか。まあ、お前も知っての通りあの女は並みじゃない。手を出せばお前のチームだってボコボコにされるぞ?」

「わかってるわよ。だからその男の子を使うの。女は好きな男の子には弱い者よ。あたしも女だからわかるの」

「う、うん。まあ、なにか考えがあるみてぇだけど、てめえはまだ大学生だ。極道じゃねぇ。組のことに手出しは……」

「パパが困っているのをただ見てるだけなんて、娘としてそんなことはできないわ。お願い手伝わせてパパっ!」

「う、ううん……」


 輝くような視線で見つめられる。


 これが娘からのおねだりなら、なんでも買ってやりたくなってしまうのだが……。


「き、危険なことはするなよ?」

「ありがとうパパ。任せて。必ず兎極って子を誘拐してあげるから」


 そう言って、純也は腰をくねらせながら部屋を出て行く。


「……竜三郎、お前の息子、ずいぶん変わってるな?」


 兄貴が珍しいものでも見るような視線で純也を見送る。


「まあうん……そうだな」


 あれは見た目通り喧嘩が強いし、大学も良いところに通っている。しかしどういうわけか男らしさとは逆方向に育ってしまった。


「任せて大丈夫なのか?」

「うまくいけばそれでいいし、下手をしても鳴海の兄弟がうまくやってくれる。まあ、保険とでも思えばいいだろ」

「そうだな」


 いずれはあれに組を継がせるつもりだ。

 多少の修羅場は潜らせてもいいだろうと、そんな思いであった。



 ―――工藤純也視点―――



 パパの事務所を出たあたしはチームメンバーに電話をかける。


「あたしよ。五貴って子の動向はちゃんと調べてるかしら?」

「はい。怪しまれないように普通の女、何人かに金を渡して交代でつけさせてます。場所はいつでも特定できますよ」

「OKよ」


 すでにメンバーを使ってつけさせている。

 いつでも目的を実行できる状態だ。


「で、五貴ってガキは今はどこにいるの?」

「はい。繁華街にある健康ランドに女を4人連れて入ったところです」

「女を4人?」


 ひとりは兎極という女だろう。

 あとの3人はわからなかった。


「ふん。どうやらずいぶんな女たらしのようね」


 女好きの男は大嫌いだ。


 どんな男かは知らないが、教育のし甲斐がありそうだとあたしはほくそ笑む。


「そこへ行くわ。メンバーを集めてあんたたちも来なさい」

「わかりました。その健康ランドの場所は……」

「わかったわ」


 場所を聞いて電話を切ったあたしは自分のバイクへ跨り、目的地へと向かった。



 ……



 やがて目的地へと到着する。

 例の健康ランドの前にはチームメンバーが数十人が待っていた。


「男と女たちはまだ中にいるわね?」

「はい。出てきたのは確認してませんので、まだ中にいます」

「いいわ。ついて来なさい」


 あたしは全員を引き連れて中へと入る。


 あたしたちを目にした客たちはゾッとしたような表情で避けていく。店員も震えながら対応をしていた。


「あ、純也さん、そっちは女湯です……」

「あら? おほほ、そうね。身体はまだ男だったわ」


 女湯へ向かう足を男湯へと向け直す。


 心は女のあたしが男湯へ入るのは抵抗がある。しかし悪いことばかりではない。だって良い男の裸体を好きなだけ見れるのだから。


 目的がありつつも、あたしはウキウキした気持ちで男湯へ向かう。


「さて、目的の男はどこかしら?」


 もちろん素敵な身体をした良い男のことではない。

 五貴とかいう男のことだ。女を複数侍らせているような男だし、どうせヒョロヒョロした租チンのチャラ男だろう。

 そいつをあたしたちで人質にとって、兎極という女をおとなしくさせる。


 完璧な作戦だわ。


 ヒョロヒョロ租チン男なんて、あたしのビンタ一発で気絶させてやるわ。


 そう考え、あたしは脱衣所で裸になって浴場へと向かう。


「五貴って奴はどの男?」

「はい。えーっと……あ、あいつです」


 メンバーの男が指を差す。


 シャワーで身体を洗っているが、湯気でよく見えない。


「あの男ね」


 軽く脅して、ビンタを見舞ってやれば簡単に言うことを聞くだろう。


 あたしはシャワーを浴びてる男のもとへ歩いて行く。

 そしてうしろに立った。


「ねえあなた」

「えっ?」


 男が振り返る。


「え……」


 その瞬間、あたしの胸をズキューンとした感覚が貫いた。

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