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第114話 パパを殺しに来たのは……

「ま、まずいことになった……」


 テレビのニュースを前に俺は頭を抱える。


 俺が金を渡した組織犯罪対策の部長が逮捕された。

 理由はもちろん俺との関わりだ。


「おい竜三郎、もしかしたらセルゲイが出てくるんじゃないか?」

「わかってるっ!」


 セルゲイの違法行為は間違いの無い事実だ。

 しかし奴を起訴させるのに重要な大きな駒を失った。


 こうなると不起訴で出てくる可能性があった。


「まずい……これはマジでまずいぞ兄貴。セルゲイが出てきたら終わりだ。俺は絶縁……いや、殺されたっておかしくねぇ。一体どうすれば……」


 ……と、そのとき電話が鳴る。

 相手は仁共会の若頭、鳴海達夫なるみたつおだった。


「俺だ兄弟。どうやらまずいことになったようやな」

「ああ」


 鳴海は軽い声音だが、俺は心のままに重い声を返す。


「たぶんセルゲイは出てくるやろうな。出てきたら兄弟は十中八九、絶縁やろ」

「だろうな。なあ兄弟、なんとかならないか? このままじゃ俺は終わりだ」

「方法はある」

「ほ、本当か?」

「ああ。けど安くはない。金は用意できるか?」

「もちろんだ。いくら必要か教えてくれ」

「1億やな」

「い、1億か……」


 確かに安くはない。

 しかしそれでなんとかなるなら安いものだ。


「わかった。1億用意する。それで、1億でどうする気だ?」

「留置所から出てくる前にセルゲイを始末するんや」

「りゅ、留置所から出てくる前に始末だと? そんなことどうやって……」

「少し前に入った情報なんやけどな、世界一と言われる殺し屋が今、日本におるんや。そいつに頼めば留置所にいようと刑務所にいようとターゲットを始末してくれる」

「そんなすごい野郎が……」

「1億はとりあえず立替といたるからな。依頼は出しておく。今度おうたときに色でも付けて返してくれたらええ」

「わかった。恩に着るぜ兄弟」


 通話を終え、俺は一息つく。


「どうやらなんとかなりそうだな」

「ああ……」


 セルゲイが始末されれば入れ札もすぐに行うことができる。

 1億は痛いが、俺が会を乗っ取ればすぐに稼げる額だ。


 あとは殺し屋がセルゲイの始末に成功したという朗報を待つのみ。


 焦っていた心が穏やかとなり、俺の表情は自然に笑みへと変わっていた。



 ―――セルゲイ・ストロホフ視点―――



 今日の昼に話した弁護士によれば、不起訴にできる公算が高くなったようだ。俺を逮捕させたサツのお偉いさんが汚職で失脚したことで、状況が大きく変わったらしい。


「これも柚樹のおかげだな」


 士郎曰く、柚樹がそのお偉いさんと工藤の繋がりを暴いたらしい。

 上司にヤクザとの繋がりがあるのは気に入らないって言っていたらしいが……。


「照れやがって。やっぱりあいつ、まだ俺のこと……」


 小さな窓から覗く夜空を見上げながらそんなことを考えていると……。


「うん?」


 誰かがこちらへ近づいて来る足音が聞こえる。


 見張りの警官……いや、なにか違うような気がした。


「……セルゲイ・ストロホフだな」


 色白の男が檻の前でそう言う。


 格好は警官だ。

 しかし纏う空気が、明らかに堅気の人間ではなかった。


「誰だてめえ?」

「こういう者だ」


 男はサプレッサーのついた拳銃をこちらへ向けてくる。


「殺し屋か」


 工藤が送って来やがったのだろう。

 留置所にまで来れるってことはかなりの凄腕だ。これほどの野郎を雇えるほどの伝手が、工藤にあるってことか……。


 銃の引き金に置かれた殺し屋の指に力が込められていく。


 年貢の納めどきか。


 俺の視線は自然と壁に貼られた写真へと向いた。


「……その写真」


 殺し屋の野郎は写真へと目を向けて呟く。


「もしかしてその子はお前の娘か?」

「ああ。それがどうかしたか?」

「そうか……」


 なにを思ったのか、殺し屋は銃を懐へと収める。


「どうした? 俺をやるんじゃねーのか?」

「……やめだ。俺にあんたは殺せない」

「どういうことだ?」

「あんたに義理は無い。だが、俺の娘があんたの娘に義理があってな」

「兎極がてめえの娘に?」

「ああ」


 殺し屋は帽子を取り、オールバックの頭を見せる。


「あんたの娘は俺の娘をいじめから救ってくれた。ここで俺があの子の父親を殺したら、義理を欠いたことになる」

「お前……」

「俺は極道じゃないが、裏社会の人間だ。裏社会の人間が義理や人情を欠けば、単なる外道に堕ちる。俺にその気はないんでな」

「ふっ、たいした男だ」

「最低の男さ。娘の成長も見守ってやれないな」

「……」

「あんたは娘と過ごせているのか?」

「まあ……それなりにな」

「羨ましいよ。けど、あんたは極道だ。余計なお世話かもしれないが、娘の安全を考えるなら距離を置いたほうがいい」

「……」


 最後に苦笑する顔を見せて殺し屋の男は去って行った。

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