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第109話 危機一髪の沼倉さん

 今日は沼倉さんに時間があるとのことで、沼倉組の事務所で授業を受けている。

 相変わらず電撃は食らっているが、頻度は減っているような気はした。


「じゃあ今日のところは終わりましょうか」

「はあ……」


 夜になってようやく電撃地獄のヤクザ式授業が終わる。

 疲れ切った俺はテーブルへ突っ伏し、ため息を吐く。


「だいぶ成績が良くなりましたね五貴さん。電撃もほとんど受けなくなったからか、いつもより終わったあとの顔色がいいですよ」

「そ、それはどうも……」


 たぶんいつもは死にそうな顔をしていたんだろうなぁ。

 実際、死んでいても不思議じゃないくらい電撃は食らっていたが。


「次回は今までの復習をテストしますからね。自宅で勉強をしてきてください」

「わかりました」


 学力が以前よりも上がっているのは自分でもわかる。

 なので次の復習テストは少し自信があった。


「じゃあ帰ろうかおにい。あ、お夕飯の買い物もしなきゃ」

「うん」


 兎極に言われ、俺は帰ろうと立ち上がる。


「あ、じゃあ一緒に飯を食いに行きませんか? もちろん俺の金で」

「いいんですか?」

「ええ。未来の大物極道に飯を奢れるなんて、俺も嬉しいですし」

「はは……」


 いかん。本当に極道にされてしまうかもしれない……。


「じゃあ行きましょう。寿司でいいですか? 良い店を知ってるんですよ」

「あ、はい。寿司は大好きです」


 回転寿司ではないだろう。

 とんでもなく高い寿司屋に連れて行かれそうでドキドキした。


 俺と兎極は沼倉さんと一緒に建物の外へと出る……。


「……!? 伏せろ沼倉っ!」

「えっ? うわっ!?」


 俺は兎極に頭を掴まれ、無理やりその場に伏せさせられた。瞬間、


 ズキューンっ!!


 銃声が鳴る。


 隣では沼倉さんも伏せており、もし兎極が叫ばなかったら……。


「て、鉄砲玉かっ! どこの野郎が……」


 伏せた状態から顔を上げると、逃げて行こうとする何者かの姿が見えた。


「待てこのっ!」


 兎極が叫ぶ。そして、


「あがっ!?」


 兎極の弾いたパチンコ玉が逃げて行く者の後頭部に直撃した。

 そのままうつ伏せに倒れた者を、沼倉さんが抑え込む。


「てめえどこの鉄砲玉だっ!」


 沼倉さんに胸ぐらを掴まれているのは半グレ風の男だ。

 ヤクザかどうかはわからなかった。


「てめえ俺が北極会のカシラだってわかってて狙ったんだろうな? ああ?」

「し、知らねえよっ! 俺は銃と金を渡されてあんたを殺せって言われただけだっ!」

「そんなの信じるわけねーだろっ! てめえどこの誰に雇われた鉄砲玉か絶対に吐かせてやるからなっ! 来いこの野郎っ!」


 男は沼倉さんに掴まれて事務所へと連れて行かれる。


「すいませんお嬢。今日の食事は一緒に行けそうもありません」


 そう言って沼倉さんは兎極に財布を渡す。


「これで好きなものを食ってください。あと、今日の礼は必ずします」

「うん」


 兎極に向かって深く頭を下げ、沼倉さんは事務所へ戻って行った。


「それじゃおにい、お寿司屋さんでも焼き肉屋さんでも好きなところ行こう」

「えっ? あ、うん……」


 銃撃があっても平然としている。

 俺も普通の人よりは銃声に慣れたものだが、さすが兎極はたいした丹力であった。



 ―――沼倉克己視点―――



 鉄砲玉に襲撃された次の日、俺は竜宮一家の事務所へと訪れていた。


「おいてめえ工藤っ! どういうことだっ!」


 子分を何人か連れて事務所へ押し込み、一家の総長である工藤の顔を見た瞬間に怒鳴りつけた。


「これはどうもカシラ。どうしました? 穏やかじゃありませんね」

「どうしたじゃねーぞこらっ! てめえ俺に鉄砲玉なんて送りやがってっ!」


 一緒に連れて来た鉄砲玉の男を工藤の前へと蹴り出す。


「う、うう……」


 口を割らせるために拷問された男が、呻きながら工藤を見上げていた。


「どういうことか説明しやがれ」


 工藤竜三郎。

 北極会ができる前、俺はセルゲイ親分の組でカシラを務めさせてもらっていて、こいつの組とはよく争った。身内となった今でも俺とこいつは馬が合わず、よく意見を意見を対立させている。

 もともと反目だったこともあり、俺はこいつを信用していない。極道と言うにはセコイ奴だが、金を集めるのがうまいため幹部としては重宝されていた。


「はて? なんですかこの男は? 俺はこんな男、知りませんが?」

「しらばっくれてんじゃねーぞっ! こいつがてめえに指示されたって吐きやがったんだよっ!」

「こんなどこの誰ともわからねーチンピラの言うことなんかを信じるんですか? 俺たちを嵌めようとしていい加減なことを言ってるだけですよ」

「だったらなんでてめえの名前を出しやがった?」

「俺も北極会じゃカシラ補佐をやらせてもらってますからね。会長がいない今、俺たちを仲違いさせて内部から潰そうってどこかの馬鹿が考えたんじゃないですかね」

「ああ? じゃあこいつが嘘を吐いてやがるって言うんだな?」


 と、俺は男の背を踏みつける。


「い、いい、いや嘘なんて言ってないっ! お、俺は確かに工藤さんから……」


 バァンっ!!


「が……」


 工藤が懐から抜いた拳銃がチンピラの額を撃ち抜く。


「てめえ……工藤……っ」

「十分に痛めつけて吐かせたんでしょう? だったらそれ以上やっても本当のことなんかしゃべりゃしませんよ。死体の処理はうちでやっておきますんで」

「……もしてめえじゃなかったんなら、詫びはきっちり入れる。けどもしもてめえだったらわかってるんだろうな?」

「もちろん。すいませんがこのあと予定があるんで、お引き取り願えますか?」

「……ちっ」


 確かな証拠があるわけじゃない。

 しかたなしと、俺は子分どもを連れて竜宮一家の事務所をあとにした。

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