第108話 おにいをすっきりさせたい朱里夏
「おい柚樹、どういうことなんだ?」
俺は取調室で柚樹に問う。
俺はヤクザだ。サツに持っていかれる覚悟は常にできている。しかし今回の逮捕は妙だ。銃刀法違反なんてしょぼい罪状で俺を持って行くなら、それなりの理由があるはず。しかしそれがなんなのかわからなかった。
「上からの命令。とにかくあんたを逮捕拘留しろってね」
「だからなんか理由があるんだろ?」
「あったとしてもあんたに話すわけないでしょ。あんたはクソヤクザ。あたしは警察。敵同士なんだからね」
「そんなこと言うなよ柚樹。一度は愛し合った仲だろ?」
「それ、もう一度言ったらこの場で射殺してやるからね」
柚樹に睨まれ、俺はゾッとして黙る。
まさか本当に撃つことはないだろう。
しかし本気で怒っているのだけは伝わってきた。
「あんたのほうが心当たりあるんじゃないの? なにか大きな犯罪を計画してるとか、もしくはその大きな犯罪をやっている途中とか」
「そんなことしてねーよ。……今はな」
「それを信じたとして、あんたを拘留する理由が上の連中にはなにかあるんでしょうね。それがなんなのかはわからなけど」
「俺はいつ出られるんだ?」
「拳銃の所持だから、普通なら刑務所行きね。まあ、あんたんとこの弁護士は有能みたいだから、うまくやれば不起訴で出られるんじゃない?」
「はあ……」
それでもだいぶ長く拘留はされそうだ。
「あたしもあんたの顔なんか見たくないし、とっとと出て行ってもらいたいけどね」
「そんなに嫌うなよ。別れたって言っても、今でも少しくらいは……」
「無い。あんたのことなんかこれっぽっちも想ってない」
「あ、そ……」
ばっさりと言われて傷つく。
娘には好かれているのに、元嫁にここまで嫌われているとは……。
「じゃ、しばらく留置所でおとなしくしてなさい。あたしは帰るから」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。聞いておきたい大事なことがある」
「大事なこと?」
「ああ」
俺は真剣な目で柚樹の目を見つめる。
「俺と……俺と士郎、どっちのことが好きだ?」
「はあ? なにそれ?」
「いや、気になるだろ? やっぱ」
「士郎さん」
「な、なんでっ!? あいつより俺のほうが男らしいだろっ!」
「ヤクザは嫌いなの」
そう言い残して柚樹は取調室から出て行ってしまった。
―――久我島五貴視点―――
日曜日の朝。今日は沼倉さんが忙しいとのことで、俺はもらった問題集を使って自宅で勉強をしていた。
以前までは教科書や問題集を見るだけで眠くなった。
しかし今はどうだ? 問題集を使って黙々と勉強ができている。
これも電撃の効果か?
そうなのかどうかはわからないが、答え合わせで問題を間違えると電撃を思い出して身体が痺れるような感覚がした。
「勉強してるの?」
「えっ? あ、朱里夏さん」
窓から入ってきた朱里夏がこちらへ来て問題集を覗く。
「ええ。事情があって全国模試で一桁順位に入らなきゃいけなくなりまして」
「ふぅん。見てていい?」
「構いませんよ。って、えっ?」
近寄ってきた朱里夏は俺の脚のあいだに座る。
朱里夏は小さいので邪魔にはならないが、なんか良い匂いがするので少し緊張した。
見た目は完全に小学生なのに、大人な女性の匂いがする。
それがなんとも不思議であった。
「なんか腰に固いのが当たってる」
「えっ? いやあの……」
「あたしにくっつかれて興奮してるんだ?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「ちょっと息抜きする?」
そう言って朱里夏がこちらを向き、右手を俺の下半身へ……。
「いやちょっ!? ダメですよっ!」
「溜まったものは抜いてスッキリすべき」
「そ、それは今じゃないですっ」
「あたしも溜まってるから、一緒にスッキリしよ?」
「ダメですよっ!」
「そんなに強く拒否されたら傷つく……」
「す、すいません」
しかししょんぼりしつつ、朱里夏は俺のズボンを脱がそうとしてくる。
「ダ、ダメですって」
「じゃああたしがひとりでするから、五貴君はそれを見てひとりでしていいよ」
「いや、そういうことじゃ……」
「五貴君のデカチン〇を知ってから、あたし他のチン〇は踏めなくなってすごいムラムラが溜まっちゃってるの。これは五貴君が責任を取るべき」
「そ、そんなこと言われましても……」
「もう我慢できない。いただきます」
「うああっ!?」
朱里夏の手がパンツの上から俺のアレに触れた。……そのとき、
「こんの淫売チビガキがぁぁぁっ!!!」
窓から飛び込んできた兎極が朱里夏へ襲い掛かる。
朱里夏は咄嗟に避け、俺の背へと抱きついた。
「インターホン押しても出ないと思ったら……」
そういえばインターホンが鳴っていたような気がする。
朱里夏にズボンを脱がされそうになって慌てていたので気付かなかった。
「おにいから離れろクソチビ女っ!」
「嫌だ。五貴君はあたしの男」
「おにいはあたしの男だっ!」
「五貴君はあたしのほうが好き。あたしに興奮してチン〇でかくしたし」
「んぐぐぐっ! おにいっ! どういうことっ!」
「いや、その……せ、生理げんしょ……ぐえーっ」
兎極に首を絞められ呻く。
「わたしというものがありながらーっ!」
「ちょ、ちょっどまっで……死んじゃうがら……」
「キーッ!」
「ぐえー……」
……その後、なんとか兎極を宥めてようやく場が落ち着いた。
「はあ……」
とりあえず俺は生きている。
しかし電撃を食らったときよりも苦しくて死ぬかと思った……。
「そいつ追い出して」
「いや、そんなこと言われても……」
朱里夏は俺の背にがっしりと抱きついて離れない。
と言うか、いつの間にか寝息を立てて眠っていた。
「この……引き剥がしてやるっ!」
眠っているのにものすごい力で抱きついており、兎極が引っ張っても離れない。叩いたり蹴ったりしているが、朱里夏は平気な様子だった。
「こ、このバケモノ……こうなったらなにか鈍器でぶん殴って……」
「い、いや、そこまで乱暴なことは……。起きたら離れてもらうからさ」
「むうう……」
「あ、そ、それよりも北極会は大丈夫なの? セルゲイさんが逮捕されちゃって」
兎極の怒りを少しでも逸らそうと、俺は話題を変えることに。
「えっ? ああうん。しばらくは沼倉さんが仕切ることになるって。なんか変な逮捕だったらしいけど、わたしたちには関係無いことだよ」
「そ、そうなんだ」
ヤクザ組織だし今回のように警察と揉めることは多々あるのだろう。
兎極の言う通り、俺たちには関係の無いことだ。
「けど沼倉さんが今までよりも少し忙しくなっちゃってさ。沼倉さんがいないときは代わりにわたしが教えるから覚悟してね」
「それは……電撃的な意味で」
「もちろん。けど、正解が多ければ……キスもあるからね」
「そ、そうだな」
結局、前回は間違いが多くてキスには至らなかった。
しかし次こそはと、俺はその日までに学力を上げようと気合を入れた。