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第106話 命懸けの勉強に挑むおにい

 勉強を教えてくれる人のいるところへ電車で向かう。


 お腹痛いから帰るって言おうかな。

 そんなことを考えながら俺は電車に乗っていた。


 ……お腹が痛いから帰りたいという嘘は兎極に通じず、結局は目的地へと到着してしまう。


「こ、ここは……」


 大きなビルの前。

 入り口には沼倉組と書いてあった。


「と、兎極、なんで沼倉組に来るんだ?」

「勉強は沼倉さんに教えてもらうの」


 それを聞いてますます俺は帰りたくなる


「沼倉さんって海外の有名な大学を出てるみたいなの。すごく頭良いんだよ。おにいに厳しく勉強を教えてほしいってお願いしたら、むしろぜひって言ってくれてね」


 海外の有名な大学を出ていてなんでヤクザなんだ……?


 沼倉さんは不思議がいっぱいの人であった。


「い、いやでも、組と関わっちゃダメだって父さんと母さんに言われたし……」

「組と関わるんじゃなくて、沼倉さんに個人的なお願いをするだけだから大丈夫だよ。ほら行こ」

「いやそれは屁理屈……わっ!?」


 腕を引かれてビルへ連れ込まれる。


 もう逃げられない。


 俺は諦めてそのまま引かれて行った。


「沼倉さんっ!」

「お嬢、お待ちしていましたよ。五貴さんも」


 ビルの一番高いところにある部屋で沼倉さんに会う。


「ど、どうも。おひさしぶりです」

「ええ。ではさっそく勉強をしましょうか」

「けど、沼倉さんもお忙しいんじゃないですか? 俺なんかの勉強を見させては悪いような気がするんですけど……」

「とんでもない。将来有望な極道を育てると思えば、これも自分の役目だと思いますし、俺のことなんて気にしなくていいですよ」


 沼倉さんの中では俺が極道になるともう決まっているようだった……。


「けど俺は厳しいですからね。覚悟してください」

「お、お手柔らかに……」

「はっはっは、あの合宿をやり遂げた五貴さんなら大丈夫ですよ。じゃあまずどれくらいできるのか知りたいので、簡単なテスト受けてもらっていいですか?」

「あ、はい」


 テスト用紙を何枚か机に置かれ、俺はイスに座ってペンを持った。

 ……それから数時間。俺はようやくとテストをすべて終える。


「それじゃあ採点しますね」


 沼倉さんが赤ペンを持って俺のテストを採点する。

 朗らかな表情で採点を始めた沼倉さんだが、次第にその表情は険しくなっていく。


「これは……ひどいですね」


 火の玉ストレートの正直な感想であった。


「いやすいません。お嬢から事前に聞いてはいましたけど、いや……これは想像以上にひどいですね。よく今の高校に入ることができましたね。奇跡ですよ」

「ははは……」


 そう言われるのもしかたない。

 受けたテストはほとんどわからなかったのだから。


「お嬢、五貴さんを全国模試で一桁順位にするのは相当に難しいですよ。採点する人間を買収するか、カンニングの技術を学んでもらったほうが簡単なくらい」

「そんな卑怯なことはダメ。ね、おにい?」

「そ、それはもちろんだけど……」


 しかしテストを受けてみて改めてわかった。

 俺は馬鹿だ。全国模試で一桁順位なんて無理に決まっている。


「わかりました。やれるだけは……いえ、五貴さんを必ず全国模試で一桁順位に入れて見せましょう。できなかったら俺は指を詰めます」

「い、いや俺のためにそこまでしなくても……」

「さあ時間がもったいないですよ。まずは基礎から叩き込みますからね」

「はい……」


 なにかものすごいプレッシャーをかけられてしまった。


 しかし俺も男だ。

 やると決めた以上はやるだけやってやろうと、やけくそ気味に気合を入れた。


「じゃあ始めるのでそこへ座ってください」


 促されて俺はテーブルの前に座る。

 そして目の前にはホワイトボードが用意された。


「これから授業を始めます。終わったら授業の内容を理解したか確認するためにテスト受けてもらいますからね」

「わかりました」


 なんだ思ったより普通じゃないか。

 俺はてっきり、鞭で打たれながら教えられるんじゃないかと思っていた。


 それから沼倉さんの行う数学の授業を聞く。

 馬鹿な俺でも、沼倉さんの授業が正確でわかりやすいと理解できる。とは言え俺は馬鹿だ。授業が素晴らしいからと言って、一回ですべて頭に入るわけはない。


「ではこれで授業は終わりです。じゃあこのテスト問題を解いてください」


 俺はテーブルに置かれたテストの問題を解いていく。

 しかしほとんどわからん。思った通り、俺の頭は1回の授業じゃ理解してくれなかったようだ。


「終わりました」


 とは言え、半分以上はわからなかった。

 30点くらいだろうかと予想する。


「それじゃあこれから採点をするのでこれをつけてください」

「えっ? なんですかこれ?」


 細い線が繋がったなにかを身体中に貼られる。


「その線はすべてここにあるボタンへ繋がっています。もしもテストの問題が間違っていた場合、このボタンを押します」


 押すとなにが起こるのだろう?


 嫌な予感しかしなかった。


「最初の問題は……間違ってますね」


 ポチ


「あんぎゃあああっ!!!」


 瞬間、身体中にものすごい衝撃が走る。


 電気ショックなんて生易しいものじゃない。

 電撃が俺の身体中を駆け巡った。


「次の問題は……また間違えてますね」


 ポチ


「うんぎゃああっ!!!」


 ふたたび電撃が走る。


 ……その後、何度も電撃を食らい、俺の身体からは煙が上がっていた。


「19点。基礎的な問題のテストでこれじゃあ全然ダメですよ。次はがんばってくださいね。それじゃあ次は物理の授業を始めます」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! こんなの何度も食らってたら死んじゃいますよっ!」


 あれだけの電撃を食らって生きている自分が不思議であった。


「全国模試まであと3か月も無いんですよ。死ぬ気でやらなきゃ無理なんです。文字通りの意味で」

「いやでも……」

「おにいがんばってっ!」

「いやでも……」

「電撃を食らいたくなければ死ぬ気で授業内容を頭に叩き込んでください。それじゃあ始めますよ」


 ……やるしかない。


 俺はもう命懸けな気持ちで授業へ臨んだ。

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