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第105話 野々原さんパパを不審に思う義妹

 次の日曜日、俺と兎極は野々原さんと一緒に空港へと向かう。


 どうやらお父さんは海外に住んでいるようだ。

 野々原さんと会うため、今日の飛行機で日本へとやって来るらしい。


「お父さんってもしかして外国人?」

「ううん。日本人って聞いたよ。なんか世界中を飛び回って仕事をしてるんだって」

「世界中を? 仕事はパイロットとか?」

「うーん、わからないの。なにをやってる人かは教えてくれなかったから」

「そうなんだ」


 教えられないような仕事ってことはもしかしてどこかの国の秘密諜報員とか?


 そんな中二的な妄想をしてみた。


「おにい、勉強はちゃんとしてる?」

「し、してるよ。自分なりに」


 ジトっとした目で兎極に見られ、俺はややしどろもどろで答える。


 実はまったくやっていない。

 昨日の夜は覇緒ちゃんとずっとネトゲをやっていた。


 やがて空港に着き、野々原さんのお父さんが乗っている予定の飛行機が到着するのを待つ。

 写真を見せてもらったので、お父さんが来ればすぐにわかるだろう。


 そして予定の飛行機が到着する時間となる。

 乗っていた乗客が次々に降りて来て、その中から野々原さんのお父さんを探す。


「あっ!」


 やや肌の白い、黒い手袋をした背が高い黒髪オールバックの男性を見つけて俺は声を上げる。


「あれ。あの人じゃないかな?」

「あ、う、うん……」


 緊張した表情の野々原さんを伴い、俺たちはその男性へと近づく。


「あ、あのすいません」

「うん? 君は?」


 男性は俺を見下ろして不思議そうな表情をする。


「えっと……野々原さん」

「うん」


 俺の背後に隠れていた野々原さんが前に進み出る。


「き、君は……もしかして」

「は、はい。野々原楓です。あの、徳岡育光とくおかいくみつさん……ですか?」

「あ、ああっ」


 驚いたような表情をし、それから男性は嬉しそうな笑顔を見せた。


「君がその……か、楓……さんか」

「は、はい」


 親子だがまだぎこちない様子だ。

 それもしかたないだろう。初めて会う親子なのだから。


「あ、あのこちらの2人はわたしの友達です」

「友達か。徳岡育光だ。よろしく」

「久我島五貴です」

「獅子真兎極です。よろしく」


 野々原さんのお父さんと握手をする。


「……」

「うん?」


 黒い手袋に包まれた徳岡さんの手を握りながら兎極は表情をやや歪める。


 手袋をつけたまま握手をすることに違和感を覚えたのだろうか?

 しかしそれほど気にすることでもないと思うが。


「少し不安でその……一緒について来てもらったんです。もしかしたら気を悪くさせてしまったかもしれないですけど……」

「そんなことはないよ。不安に思うのは当然だからね。彼女のために一緒について来てくれてありがとう2人とも」


 徳岡さんは笑顔で俺たちへ礼を言う。


 すごく良い人そうだ。

 野々原さん同様、俺も少し不安だったが、やさしそうな人でよかった。


「2人はいじめられていたわたしを助けてくれた大切な友達なの。2人がいなかったら、わたしは今ごろどうなっていたか……」

「そうなのか。楓さん……いや、娘を助けてくれてありがとう。感謝するよ。それじゃあお礼も兼ねて、このあと一緒にみんなで食事でも行こうか」

「あ、いえ……」


 俺は野々原さんのほうへ視線を向ける。


「野々原さん」

「あ、う、うんっ」


 俺の意図を理解しただろう野々原さんは、意を決したような表情で頷く。


「俺たちは帰ります。徳岡さんは野々原さんと2人でお食事に行ったほうがいいと思いますし」

「いやでも……」

「いいんです。ね、野々原さん?」

「う、うん。徳岡……いえお父さん。食事には2人で行きましょう」

「そうかい? いや、気を使ってもらって悪いね2人とも。けど娘が受けた恩は必ず返すからね」

「いえ、その件は気にしないでください。俺たちが野々原さんを助けたくてしたことですから」

「いや、そういうわけにもいかないよ。私の代わりに大切な娘を助けてくれたんだ。恩は必ず返すよ。必ずね」

「あ、はい」


 真剣な目で言われ、受け入れるしかないと思った俺はそのまま返事をした。


「それじゃあ行こうか。その……楓」

「うん。お、お父さん」


 2人は俺たちへ別れを言って去って行く。

 残された俺は笑顔で見送った。


「じゃあ俺たちは帰ろうか」

「……」

「兎極?」


 見下ろすと、なにやら怖い顔で2人の背を見ていた。


「どうかした?」

「ん? うんその……野々原さんのお母さんは徳岡さんを良い人って言ってたんだよね? 2人で会わせても大丈夫なくらい」

「もともとひとりで行かせるつもりだったみたいだし、そうでしょ? なんで?」

「いや……うん。野々原さんのお母さんがそう思うなら大丈夫かな」

「?」


 なんだろう?


 気になった俺は理由を聞こうと思ったが……。


「そんなことよりおにい。これから行くよ」

「えっ? どこへ?」

「勉強を教えてくれる人のところへ」

「い、いやでも、それは来週じゃ……」

「予定が早く終わったし、今からでも行けるでしょ?」

「そりゃまあ……」


 なんかあぶなそうな人だったら最後まで付き合うつもりだった。しかし良い人そうだったのですぐに俺たちは帰ることになり、時間はだいぶ余ったが……。


「じゃあ行こうか」

「いやでも、今日は勉強って気分じゃ……」

「行くの」

「はい……」


 圧をかけられるように言われ、俺はしかたなく了承することに。


 勉強なんてしたくない。

 そんな思いを抱きつつ、背中を丸めて俺は兎極へついて行った。

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