硝子戸を透かして
縁側に文机を出して、
陽の光を浴びながら
草案を練る、
晩年の文士
心の中を覗き込んでも
すべてが淡い
冬、吐く息のように
白く広がり、
弱い熱を残してすぐ消える思惑は
鋭く硬い言葉へと結晶化しない
終わった、と思う
光る手鏡を拾って、
自分の塵埃のような色をした顔を映した
己の意志で昏い階段を下り、
着いた底は意想外に浅く、
戸惑った
五尺六寸の肉体と、
脳髄で爆ぜる閃きを
娑婆にまみれさせながら、
過剰なほど活写した
書かずとも支障はないが、
どれ、ひとつやるかと始めた生業が、
気付くと随分と長い付き合いになっていた
やめても特段の問題もないが、
それも億劫であり、
所詮は強い精神のなさが
今このなまぬるい縁側にまで
私を漂着させたのであろう
憧憬というものが、
其処へ到達した途端
無慈悲に姿を消してしまう
砂漠のオアシスのようなものであると、
教養としては知っていたが、
最期の居場所が
このような光にあふれた
縁側なのだとしたら、
それもいくらか悪くないと
薄く肯定しつつ、
頬杖をついて微笑むのである