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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
死の森編
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心意

「何のことかな?」

 ジークは何も知らないというように首をかしげる。

「そもそもおかしいと思ったんだ。確かに俺は異常な強さを持っている。でもだからと言って王家の重大な秘密を教える理由にならない。下手をすればこの王家のスキャンダルは国を混乱に陥れる劇薬になりかねない。それを王家の婚約者になったからということで教えていいわけがない。もし俺がそれを脅しに使えば国を乗っ取ることだって可能だ」

「ガルはそんなことをしないだろ。なんていったってめんどくさいから貴族になりたくないと国王にまで言い放ったんだから」

「それが本心なのかは俺にしかわからない。そんなあやふやなことで王家を危険にさらすほどジークはバカじゃない」

「………………」

「加えて、『心闇』に囚われていた時、お前の心の叫びを聞いた。その時のお前の言っていた状況、あの秘密の話とそっくりじゃないか。これで完全に疑いは確信に変わった。過去の第一王子が殺されない道が一つだけあった。それは、第二王子を殺すこと。そしてそれを今の状況に落とし込めば俺が死ぬことでジークの身は守られる」

「――――っ!」

「ジークがあの話をしたのは俺を第一王子に同情させたかったからだろ。そうすることでジークが俺を殺す時に有利に立ち回ろうとした。すこしでも俺が隙を見せれば勝ち目があると思ったんだろうな。どうだ?俺の言っていることは間違っているか?」

「……………まったく。ガルは何もかも見透かすな」

 それは遠回しな肯定だった。





 そしてジークは語りだす。己の真意を。己の意思で。己の口から。

「きっかけは些細なことだった。ある日俺は聞いたんだ。次の王を俺ではなくガルにした方がいいという声を。最初のころは何を言っているんだと気にも留めなかった。王家は血がすべてだ。たかが一般貴族が王になれるわけがないと。それにそのころはまだガルが貴族たちに知れ渡ったばかりだったから尚更な」

 春のころか。話が出るにしては早すぎる。そもそも俺が王になってメリットがあるのかわからないのに、その貴族はちょっと危ないかもな。

「しかしその後もガルは数々の手柄を上げていった。それはかつての伝説、アルス・マグナ殿と重ねて見えてしまった。だからかもしれないが急激に不安になってしまった。このままでは本当にガルの方が王になってしまうのではないか、と。それでも俺の方が王家の嫡流で歳も上だと心のどこかで安心していた。そんな俺の安心を奪い去ったのがあの話だ。ずっと昔に聞かされていたから忘れていたがそれを思い出してからは怖くて仕方なかった。そしてしばらくしてティーベルがガルに嫁ぐことになった。本当は心から喜びたかった。ティーベルのことを本心から祝福したかった。でも、ティーベルが嫁ぐことでガルが王を継ぐ最低限の資格を持ってしまったんだ。それが俺には何よりも恐ろしかった。今までのすべてがガルに奪い取られると思ってた。そんな時、この任務が俺のもとに転がり込んできたんだ。その任務は国王になるものの試練みたいなものだと言われた。どうやらあそこ一帯は各代に一回は瘴気に満たされるみたいなのだ。それを聞いて俺は安堵した。お父様は俺を次の王だと認めてくれているのだと。そしたらその任務にガルもついてくるとなった。これでは俺が王位を継ぐことができるのかわからない。そしてふと思ったんだ。ガルさえいなくなれば俺は安泰なのではないか、と。別に真っ向から殺すことはしない。そんなことをしてしまえばティーベルに嫌われてしまうし何より帝国との関係を崩してしまう。だから事故として片づけられるようにいろいろと模索した」

「それが任務中の事故か?」

「まあその通りだ。俺の予定では最後の地点でガルを連れ出し油断させたとこで殺すはずだったんだが。ニクレマンのせいで全部失敗したさ。そのうえガルに計画がバレるし、おまけにそのガルに助けられたんだ。そして最終的にはガルを殺す決心ができなかった。カッコ悪すぎるな。どうか笑ってくれ」

 ジークは俯く。その表情をうかがうことはできない。

「そんなことしなくてもあの国王がジークを廃嫡になんてしないだろ」

「だろうな。お父様が俺たちのことを思っているのは分かっている。でも他の貴族までも信用はできん。特に俺を廃嫡にすればいいと言った奴はな」

「そんなことを言う貴族って国にいてもいいのか?てか誰なんだよ」

 それがめっちゃ気になる。

「ヴィヘルマ……ヴィヘルマ・ホクシー伯爵だよ」

「ホクシー伯爵……どっかで聞いたことあるな」

「そりゃそうだろ。ホクシー伯爵家は君の母、エイミネ・エルミットの実家だ。ヴィヘルマはエイミネの実兄だ。お前にとっては叔父にあたる」

「へー…………え?マジ?」

「大マジだ。ガルが王になることでホクシー伯爵は大きな力を持つことになる。メリットが大きすぎるんだ。だからヴィヘルマは俺ではなくガルを推すんだろう。さらに厄介なのはその意見に少しではあるが賛成派がいることだ。これでは迂闊に手を出せん。下手をすれば国が割れる」

「難儀なものだな、政治というのは。これだから嫌なんだよ」

「まあガルが俺に正式に仕えるならば話が変わってくるんだがな」

「その手には乗らんぞ。俺は国に仕える気はないと言っているはずだ」

 ちゃっかり勧誘してくるな。

「とにかくこれからは変な気は起こさないことだな。俺がいる限りジークを暗殺させることはないから安心しろ」

「それは頼もしいが、どうしてここまでしてくれるんだ?」

 ジークは真剣な顔をして俺を見る。

「それは…………」

 俺はある日のことを思い出していた。かつて俺の死に際まで傍にいた彼女のことを。

『君の力はもっと大勢の人のために使われるべきよ』

 あれから俺の進むべき道は決まっている。

「誰かの大切を守るため、かな」

 今頃彼女はどこで何をしているのだろうか。




「それとジークの勘違いを正していくとしよう」

 俺は話の最後だというように立ち上がる。

「今回は手が付けられたから助けたに過ぎない。もし本当に俺の敵になるならば容赦はしない。たとえどんなに親しい間柄であっても俺の敵に回るなら迷わず殺す。それを覚えておいた方がいい。同情でくれてやるほどこの命は軽くないぞ」

 俺はそれだけ言い放つとジークに背を向ける。振り返ることはしなかった。









 バルマント領を発つ日。見送りはバルマント家総出で行われた。

「ジーク様、王都までの道もどうかお気を付けて」

「あぁ。レナルドも元気でな」

 ジークとレナルドは仲良く男同士の友情を確かめ合っている。

「リリア元気でね。手紙は定期的に送るのよ」

「お母さん、心配しすぎ。私なら大丈夫だよ」

「ティーベル様、リーゼロッテ様、フィリアちゃん。またいつでも遊びにおいで」

「必ず伺いますわ」

「約束しよう」

「また来ます!」

 女性陣はいつの間にか仲良くなってるし。

「あ、あの。お姉ちゃん!」

 するとリチャルドがリーゼに話しかけていた。

「どうした?」

 リーゼはリチャルドと話しやすいようにしゃがんで目線を合わせる。

「ぼ、僕と結婚してください!」

 リチャルドは精一杯叫ぶと手に持っていた花をリーゼに差し出す。

「…………」

 それにはいかにリーゼといえど驚いてしまっている。リーゼだけではない。リチャルドの告白を聞いていた人全員固まってしまっている。

「すまない。私は君と結婚はできない」

「ど、どうして!?」

「私には運命の人がいるからだよ」

 リーゼは俺の腕をつかむと思いっきり引っ張る。

「私はこの人と結婚するんだ」

「ぼ、僕もこの人みたいにでっかくなる!カッコよくなるから!」

 この人呼ばわりって……

「それでも、だ」

 リーゼは優しくリチャルドの頭を撫でる。

「私はこの人と一緒に生きたいと思った。だからこの人と一緒にいる。きっと君にもそう思える相手が見つかる。それまでの辛抱だ。君の運命の人が見つかったら、大切にしてあげるといい」

 リーゼはそういうと立ち上がる。

「ガル殿、そろそろ行こう。早く行かなければ到着が遅れてしまう」

 数分程度関係ない、というツッコミは引っ込めてリーゼの後を追う。

 リーゼの耳が赤くなっていたのは可愛いから俺だけが知っておくとしよう。

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