バルマント家、再び
帰りもバルマント公爵領へ寄ることになっている。
「またあそこに行くのか……」
「ガル様、げんなりしていますね。そこまで嫌ですか?」
「嫌っていうわけじゃないよ。でも……」
俺は行きの時のことを思い出す。
「疲れるんだよなぁ」
「それって私の実家が嫌なの?」
「だから嫌とは言ってないだろ」
さすがに婚約者の実家に行くのを嫌というわけにはいかないしな。
「まぁあそこは特に家族を大切にしているからな。娘を家から出すのは心配で仕方ないのだろう」
俺たちの会話にジークも混ざってくる。ここは一つジークに聞いてみるか。
「ジークはシャルロッテ嬢の実家に行ったとき、どうなんだ?」
「俺か?そうだな……特に何にもないぞ」
「………まじ?」
「ヘルサル公爵家が放任主義という事でもないのだが貴族であれば普通だ。特に俺の場合は次期国王だ。断る理由がない。それどころか向こうが乗り気なくらいだ」
「でもお兄様、シャルお姉さまとの婚姻を大層喜んでいらっしゃったではありませんか」
「んな!?」
ジークは思わぬ伏兵に赤面を余儀なくされる。
「つまり向こうが乗り気だったがジーク《《も》》乗り気だったと。ジークも可愛いところがあるじゃないか」
「それにヘルサル公爵様との顔合わせでは緊張で顔色が悪かったですわよ」
「ぐはっ……」
さらなる追撃にジークが瀕死状態になる。
「そういえばジークが心の弱さに向き合えたのって大切な人を思い浮かべたからなんだよな。もしかしてその人ってティーベルじゃなくてシャルロッテ嬢だったりして」
「………っ!そうだよ!何か悪いか!」
追い詰められたジークは自暴自棄になったように開き直った。
「そこで妹のティーベルさんではなくシャルロッテ様を思い浮かべるなんて……ジークロット様はシャルロッテ様のことを本当に大切に想っていらっしゃるのですね。素敵です!」
「………フィリア、もうやめてくれ………」
ジークはこれまでにないくらい顔を赤く染めて顔を隠してしまった。
「これはフィリアがとどめを刺したな……」
「そうですわね……」
「恐ろしい子……」
「容赦がないな……」
「ええ!?なんでですか!?」
このようなものは不純なものより純粋なものの方が心に来るらしい。もはや無垢なフィリアにしかできない芸当だろう。
「あのー…僕が聞いててもいいんですか?」
するとカイが恐る恐る会話に入ってきた。実はカイはジークに乗せられる形で馬に乗っているのだ。つまりジークとの会話はカイに丸聞こえなのだ。
「問題ないよ。機密情報でもないしね」
「そ、そうですか……」
カイは居心地が悪そうに会釈するともう一度空気の戻ろうとする。しかしそうはジークが卸さない。
「そういうカイはどうなんだ?街に気になる子はいなかったのか?」
「俺、僕のことはどうでもいいでしょう!」
突然話が振られたことに驚いてカイは一瞬だけ素が出てしまう。
「その反応はもしかして?」
「好きな女の子でもいたの?」
ジークに続きリリアまでカイをいじりはじめる。
「な、なんなんだよ!」
「あ、顔が赤くなった。可愛い」
「~~~~っ!」
カイは耐えられなくなったのか顔を馬にうずめてしまう。
「はあ……リリア、ちゃんと謝っとけよ。ジークもな」
さすがにカイが可哀そうだからな。
そうしているうちにバルマント公爵領に帰ってきたのだ。
その間、リリアはジークと極力話さないようにしていた気がするが、大したことではないだろう。
「ジーク様、無事にお戻りになって何よりです」
出迎えてきたのは当主のリュークではなくその息子のレナルドだった。
「レナルド、出迎えご苦労だ。今回はリューク殿ではないのだな」
「えぇ。父はすでに王都におりますから」
「そうか。宰相は忙しいのだな」
「そのようですね」
「いずれレナルドも多忙になる。覚悟しておいた方がいい」
「はは……お手柔らかにお願いします、ジーク様」
二人のやり取りはとても親しげがあり普段から交流があることがうかがえる。
「リリアも。無事な姿を見てほっとしたよ」
「うん。ただいま、兄さん」
レナルドはジークとのやりとりが終わったタイミングを見計らってリリアに声をかける。ジークより後に声をかけたのはジークを立たせるためだろう。本当によく考えている。この一家は本当に政治向きだ。
「ここまでの道中、任務後ということもありお疲れでしたでしょう。ゆっくり疲れを癒してください」
「恩に着るよ、レナルド」
そして俺たちは再びバルマント公爵領に滞在することとなった。
「つっかれたーーーー!」
「リリア、はしたないですわよ」
「だが疲れたのは確かだ」
「荷ほどきは私がやっておきますからみなさんはお休みになってください」
俺は婚約者四人と大きな部屋一つに割り振られていた。
「なぜこうなった…………」
元凶は分かっている。リリアの母、エルナーだ。
屋敷に入った瞬間、玄関で出迎えられ即座に各部屋に案内させられた。俺がこの部屋割りに気付いたときにはすでに手遅れで荷物も全て運び込まれていた。
この短時間でそれを実行するとは……この屋敷の従者はプロだな。
とか変なことを考えてしまいそうになるから一回頭を冷やしてくるか。
俺は屋敷を出て庭に向かった。
庭には一人先客がいた。ジークだ。
「王子様がこんなところに護衛もなしでいてもいいのか」
「ガル、か」
ジークは俺に気付くとしずかに振り向いた。
「今は、そういう気分だったんだ」
「そうか」
それはちょうどいい。俺もジークと二人きりで話したかったとこだ。
「隣いいか?」
「いいぞ」
俺はジークの隣に座る。
「ジーク、お前――――――」
そして静かに告げる。
「もともと俺を殺すつもりだったんだろ?」




