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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
死の森編
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内心

 俺は夢から覚めたように意識がはっきりしていた。先ほどまでとは違って身体も軽く感じられた。

「……え?」

 そして正面から重いものが覆いかぶさってくる感覚があった。慌てて抱きとめるとそれは意識を失ったガルだった。

「おい、ガル!しっかりしろ!」

「う……ぐ……」

 大声で呼びかけると苦しそうに唸る。

「が、ガルくん!」

 ガルの異変に気付きすぐさま駆け寄ってきたのはガルの婚約者の一人、リリア嬢だ。

「ガルくん!しっかりして!」

 リリア嬢は涙目になりながら必死に光系統魔術を施している。ガルのことが心から心配しているのがわかる。

 俺も将来、シャルとこんな関係になりたいものだ。

 いや怪我したいわけじゃないけどね!お互いを大切にしてるって意味でね!

 さて、俺はニクレマンを倒してくるか。



 戦況は悪くないようだが決定打に欠けているようだった。

 すると突然フィリア嬢が苦しみだした。あれには見覚えがある。俺を先程まで苦しめていた元凶、『心闇』だ。ニクレマンは同士討ちをさせるつもりなのかもしれない。戦術的にも数的不利なニクレマンにとって良策であるのは間違いない。

 だが忌避感があるのは『心闇』が人の弱みに付け込んで洗脳じみた効果を持つからなのか。はたまた、俺が『心闇』に囚われてしまったからなのかはわからない。

 ただ一つ言えることはニクレマンは悪趣味だということだ。

 俺は仕方ないとばかりに助太刀しようとした。

 しかしあろうことかフィリア嬢は立ち上がったのだ。しかもニクレマンを睨みつけて。

 それにはどれだけの強さが必要なのだろう。

 俺はその強さを羨ましいと思った。そして同時に己を強く恥じた。

 俺はまた特別になろうとしていた。苦しむ者たちを助ける英雄になろうと。

 俺にはそんな才能も器もないことはさっき嫌と言うほど思い知らされたはずだろ。そんな役割はガルの物だろ。

 俺は傲慢で強欲な第一王子。それでもって英雄の道を助ける!

「全員、道を開けろ!」

 これがジークロット・フォン・ランバルトの第二の人生の始まりだ。









「な、なぜお前が俺に歯向かっているんだ!?」

 ニクレマンはジークロットが自分に剣を向けていることに理解が及ばなかった。

 ニクレマンは『心闇』が第三者の介入によって解除されることを知らなかった。これもまたニクレマンの慢心が招いた失態だ。

「どうしてか、その身で確かめてみるといい」

 ジークロットは静かに剣を構える。

「っ!調子に乗るなよ!このクソガキ!」

 この時のニクレマンは混乱を極めていて正常な思考をしていなかった。

 冷静だったならば逃げの一手を選択していただろう。

 もし、ニクレマンが己の強さに奢れず研鑽を積んでいれば結果は違ったかもしれない。

『心闇』を突破されたことで動揺することがなかったかもしれない。

『心闇』を乗り越えた人物は別人のように強くなっていることを知っていたかもしれない。

 ジークロットから放たれる気迫に気付いていたかもしれない。

 だが所詮それはかもしれない、仮定の話だ。

「死ねやああああああああああああああああああああああ!」

 ニクレマンのフェイントもくそもない単なる突進。魔族としての能力でゴリ押すことしか考えていない。そんなもの、今のジークロットの前では意味をなさなかった。

「秘剣『虎爪鋭牙こしょうえいが』」

 勝負は一瞬だった。たった一度の交錯。その間にジークロットの剣はニクレマンの首を切り落としていた。

「は?………なに、が?………」

 一瞬で首を切り落とされたことにより死を迎えるまでわずかなタイムラグが発生した。

 そのせいでニクレマンは自分が死ぬ直前に意識を保つこととなった。

「い、今のは?」

 さすがのティーベルも目で追うことが難しかったのか疑問をうかべる。他の面々も一様に唖然としていた。

 その中で一人、面白そうに笑う人物がいた。

「秘剣『虎爪鋭牙』か。すばらしい腕だ」

 あの剣帝の娘であり自身も規格外の剣の腕を持つリーゼロッテだ。

「リーゼ、今のを知っていますの?」

「あぁ。秘剣とは剣術を修める者にとっての到達点だ。言わば各剣術の奥義に属する。今の『虎爪鋭牙』は主流であるダリューン剣術の秘剣の一つだ。私も使えるがあの王子も綺麗な太刀筋だった。一度手合わせをしてみたいものだ」

「手加減はしてくださいね。お兄様は人間ですから」

 ティーベルたちが呑気に話している間にも刻一刻とニクレマンの死は近づいていた。

(俺は死ぬのか?いやだ!俺はまだ死にたくない!せっかく《《不老》》の力を手に入れたんだ!こんなところで死ぬなんて――――)

 そしてニクレマンに近づく影があった。ジークロットだ。

 彼の手には剣がありニクレマンの返り血がついていた。それを高くまで上げ、勢いよく突き刺す。

 ニクレマンは閉じていた目を開けると真横の地面に剣が突き刺さっていた。

「……………」

 ニクレマンにはジークロットがなぜすぐに自分を殺さなかったのか理解できなかった。

 ジークロットはニクレマンの首のそばにドカリと座る。

「うわ……血でベトベトじゃん。最悪」

「………………」

「………ニクレマン、お前は本当は何がしたかったんだ?」

「……は?」

「きっと俺は、今のお前になる前だったはずだ。いやそうなんだ。そして今ここにいるのはお前がたどり着かなかったもう一つの選択肢だ」

「何を言っているのか、わからないな」

 ニクレマンの意識はだんだんと薄れていく。死がもう目の前まできている。

「お前の『心闇』で気付いたことなんだが、あの叫びは確かに俺に向けられたものだった。でも俺だけではなかった。あの中にはお前の心の叫びがあったんじゃないか?」

「……………」

「誰かを救う英雄になりたかった。だがそれはお前の役目じゃないと誰かに言われたわけじゃないのに言われた気がして、諦めようとしても諦められなくて。板挟みになってたんだ。俺もそうだったから」

「………………」

「でももういいや。結局のところ、僕には英雄なんて大層なものにはなれないんだ。器の小さい俺には英雄の雑用でちょうどいいんだよ」

「………………」

「お前の本当の心の声を聞かせてくれ。ただのニクレマンではなく、ニクレマン・フォン・ランバルトとしての心を。」

「おれ、さまは―――――――」

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