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英雄騎士の最強魔道  作者: バニラ
死の森編
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失意の中で見つけた決意

「救いに来ただと?笑わせるな!」

「どうしてお前にそんなこと言われなくちゃならないんだ」

 俺はあまりにも理路整然としない発言に不快感をあらわにする。

「うるさい!やれ、ジークロット!」

 偽のジークロットが命令すると本物のジークロットは俺に向かって剣を突き刺してきた。一方の俺は丸腰。今はジークの意識の入り込んでいるため優先権はジークにある。いくら俺でも自由に何でもできるわけではない。それでも今のジーク相手なら素手でも十分だ。

 やがて剣は俺の元まで到達する。それを俺は避けずに剣を受けた。

「ガ、ハ………」

 ズブリと剣が俺の胸を貫通する。

 胸を中心に強烈な激痛が走る。口からは血らしき赤い液体も零れる。

「なぜ避けない?まさか死にに来たのか?」

「そんな、わけある、か………」

 俺は痛みに耐えながら言葉を発する。

 この空間は精神にしか干渉しない。だからここで剣で刺されたとしても実際に死ぬことはない。ただ死ぬほどの激痛がする。

 いやほんと痛い。正直叫びくらいだ。それもそうか。これは死ぬようなけがをしたまま意識を鮮明に保つのだから。ここでは治癒もジークにゆだねられる。だから是が非でもジークには元に戻ってもらわなければ。

「どうしてジークは俺を殺そうとする?」

「それはガーリングが俺を見下すから!」

「俺はお前のことを見下したことは一度もないぞ」

「心の底では嘲笑っていたんだろ!何もしていない無能だと!実績がないから無価値だと!」

「何言ってる?お前は次期国王としてがんばってるじゃないか」

「それで誰が救える!?」

 そしてジークは俺から剣を引き抜くともう一度俺に突き刺す。

「ぐっ!」

 口の端から血が滴り落ちる。

「ガーリングが羨ましい!妬ましい!ガーリングより俺が上だって証明する!」

「こんなことでジークが俺より上なんて証明できないだろ」

「俺にはそれしかできないんだ!」

 再びジークは俺から剣を引き抜き突き刺す。

「ゴボッ……」

 俺は思いっきり血を吐き出す。

「ガーリングが俺からすべて奪っていくから!」

「俺が、何を奪ったって言うんだ」

「地位や名声……」

「………は?」

 まさかの返答に呆気にとられる。

 俺が地位や名声をジークから奪った事実は存在しない。そもそも俺がジークから地位を奪ったらここにジークはいないはずだ。

「どうしてそんな風に思った?」

「お前は!才能を持ってる!だから手柄を上げられる!でも俺にそんな才能はない!今までみんな俺を讃えてくれた!剣の天才だと!それがお前が現れてからはあまり言われなくなった!俺は結局実績がない!それに比べてお前には多くの実績がある!お前は知っているか?俺ではなくガーリングが王子だったならば、と言う貴族が少なからずいることを」

「な!?」

 それは初耳だ。

「しかも噂ではお父様は俺を廃しお前を婿養子として王族に迎え入れるという話まである」

「それは、ないだろ。あの国王陛下だぞ。それに国のしきたりでは、長男が跡を継ぐんだろ?俺には無理だ……」

「その長男が死んだら話は別だろ?」

「それは、確かに」

 そこで俺はある違和感に気付く。そう。道中で聞いた話と同じなのだ。ジークが俺にあの話をしたのはもしかして――――

「考えてみればおかしかったんだ!いくらものすごい功績があるからと言ってたかが男爵家の次男が独立するのにわざわざ新しい爵位まで用意して!しかも国に負う義務がなく特権は公爵家並み!特権がそれだけあるなら王族に迎え入れることは可能になる。そしてティーベルとの結婚!確かに俺も賛成した。でもそれはティーベルが望んだからで俺の意志なんかじゃない!それなのにお父様もお母様もとても乗り気だった。まるでティーベルとガーリングが結婚することが目的のように!」

「考えすぎだ」

「そんなことない!お前だって満更じゃないんだろ!王族なら国のトップだ。そんなの断るやつなんていない」

「俺は嫌だけど」

「でも心のどこかでは喜んでるんだろ!それに妹だって、ティーベルだってお前が奪ったくせに!」

「はあ?」

 そのジークの言葉に低い声が出てしまう。それにジークはたじろぐように一歩下がってしまう。

「っ!……なんでお前が怒るんだよ!」

 それからジークは連続で俺をめった刺しにしてくる。

「だってそうだろ!ティーベルを救ったのが偶々お前だっただけで俺が救っていたら結果が違っていたはずだ!昔はあんなに俺の後ろにいついて来ていたのに今ではお前にばっかりべったりで!もう俺は用済みみたいじゃないか!」

「………………」

 俺の身体は血に濡れ、激痛で力が入らなくなってきた。

「これで、気が済んだか?」

「なんで………なんで反撃してこないんだよ!そんなに俺は滑稽か!?相手にする価値もないか!?答えろよ、ガーリング!」

 ジークは掴みかかる勢いで咆える。

「今のジーク、いいや。ジークロット・フォン・ランバルトは滑稽だし見苦しい。今のお前を見て他の者は何を思う?」

「い、今は分からなくても結果が出ればわかってくれる!」

「本当にそうか?俺の目を見て言ってみろ」

「そ、それは………」

 ジークは口ごもってしまう。それは心のどこかで褒められる行為でないとわかっているのだろう。

「チッ!そんな戯言に耳を貸すな!」

 今まで静かだった偽のジークロットが叫ぶ。

「これがジークの望んだことなのか?」

「あ、当たり前だ!これは俺が選んだことなんだ。そうじゃないと、ダメなんだ……」

 ジークはだんだんと意気消沈していく。

「俺はどうすればいいんだよ……誰か、教えてくれよ……」

「そんなもん――――」

「俺が教えてやる!手始めにガーリングを殺せ!」

 偽のジークロットが出しゃばってくる。

「そいつを殺せばすべてがお前のものだ!迷うな!」

「俺は……」

 ジークはゆっくりと剣を引き抜くと俺の首筋に当てる。

 さすがに首を切られれば現実に強制帰還させられる。しかもここで受けた痛みが直に身体に響くからまともに動けなくなる。つまり詰みだ。無理に体を動かして強制解除すればいいんだがやりたくないんだよなぁ。

「これはジークロットの選択か?」

「それは………」

「そうだと自信を持って言えるならこの首を切ってもいい。だが少しでも迷いがあるならばよく考えろ。お前がこれまで過ごしてきた時間を、大切な人たちを」

「俺の、大切な人たち……」

 ジークは目を瞑って考える。

 それでジークが何を思ったかはわからない。でもこれに賭けるしかない。

「お前は何も考えずに俺の言うことを聞いていればいいんだ!」

「うるせぇんだよ、偽物が」

「ひっ!」

 俺はドスの効いた声を出す。これにはたまらずうるさい偽物も黙るしかないようだ。そんな程度なら最初から黙っていろよ。

 そしてジークは目を開ける。

「答えは出たか?」

「あぁ」

 心なしかジークの顔がよくなった気がする。

「決めたよ。俺はお前を殺す」

「……………そうか」

 それは真のジークの言葉に聞こえた。それならもう何も言うことはない。

「やっぱり俺の言ってることが正しいんだ!」

 再び偽のジークが元気を取り戻したようにうるさくなる。もうどうでもいいけど。

「じゃあ、やれ」

 俺は全身の力を抜く。まあもともと入ってなかったんだけど。

 ジークは剣を持つ手の力を強める。その反動で剣の刃が首に少し食い込んで血が出る。そして――――――




 勢いよく後ろに跳躍する。

 そのまま反転する。その回転に乗せて剣を振るう。

 すると偽のジークの首が宙に舞う。

「…………へ?」

 偽のジークから血が流れることはない。しかし最期の時が来るようにだんだんと消えていく。

「な、なぜ!?どうして!?お前はガーリングを殺すと言ったはずだ!」

「確かに俺は殺すと言った。だがガルを殺すとは言ってない」

「どういう?確かにガーリングに向かって殺すと言っていたはずだ……」

「確かに俺はガルに向かって殺すと言った。でもその相手はガルだとは言ってない。つまり俺が殺すのはお前だ、偽物」

「な!?……そんな屁理屈、通用すると思うのか!?」

「するさ。なぜなら俺は傲慢で強欲の王子だからな。お前が言ったとおりになったな」

「クソ、クソ!クソがああああああああああああああああああああ!」

 それを最後に偽のジークは消え去った。

 それと同時に闇の空間は崩壊し始めた。ジークが『心闇』に打ち勝った証拠だ。

「ガル、悪かった。面倒をかけたな」

「本当だな」

 俺の身体は光に包まれ傷は徐々に治っていく。

「最後の仕上げは俺に任せてくれ」

「わかった。きっちりやってこい」

 そして俺は意識を手放した。

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