王家兄妹の戦い
「ティーベル!何があった!?」
「そ、それがニクレマンが何かの魔術を使ったらしいのですが、急にお兄様の力が抜けたように倒れてしまいましたわ!」
ふむ……意識が飛ぶ、何されたかわからない魔術……
「闇系統魔術じゃないか?」
「闇系統魔術ですか?」
「よく考えてみれば私、闇系統魔術のことよく知らないかも」
そういえば闇系統魔術について詳しく教えたことなかったな。
「い、今はそんなことよりティーベルを助けないと!」
「そ、そうだな!」
「待ってください!」
助けに入ろうとするとティーベルに止められる。
「もう少し、もう少しだけチャンスをください!これは王族の問題ですわ!お兄様は必ず立ち上がりますわ!ですからどうか!」
ティーベルがここまで言うのは珍しい。
「わかった。あと少しだけな」
「ガル殿!?」
「これもティーベルの成長につながるさ」
時は少し遡る。ガーリングたちが魔物討伐し始めと同じころ。
「俺様の相手はぁ、お前らかぁ?」
「そうだ!俺はランバルト王国第一王子ジークロット・フォン・ランバルトだ!」
「わたくしはランバルト王国第一王女ティーベル・フォン・ランバルトですわ!」
「ほぉ……俺様に王族が対抗するのかぁ。いひひひひひ…殺すぅ、殺してやるぅ!男は四肢引き千切ってぇ、皮を剥いでぇ、悲鳴を聞きながら殺してやるぅ!女は犯して使い物にならなくなるまで使ってから捨ててやるぅ!」
「下衆め!」
「最低ですわ!」
ニクレマンの言葉にジークロットとティーベルは憤慨する。
「お前はここで倒す!」
「やれるものならやってみろよぉ!」
ジークロットとニクレマンは同時に駆けだす。
「やああああああああああ!」
ジークロットは剣を振るう。しかしニクレマンの腕の硬さが尋常じゃなかったのかあっさりと弾かれる。
「なに!?」
「もらったぁ!」
ニクレマンの手がジークロットに伸びる。
「させませんわ!『雷槍』!」
ジークロットとニクレマンの間に雷の槍が落ちる。
「くそ!」
ニクレマンはたまらず距離を取る。
「めんどくせぇめんどくせぇめんどくせぇ!テメェからヤッてやろうかぁ!」
ニクレマンはキレたようにティーベルに狙いを定める。
しかしティーベルは接近してくるニクレマンに対して不敵に笑う。
「何を……?」
「剣技『風背豪剣』!」
「なあ!?」
ジークロットは疾風のようにニクレマンの背後に現れ背中を斬る。
「ぐうぅ!」
ニクレマンは痛みに唸る。
「貴様らぁ!俺様が手を抜いてるからと言って調子に乗るなよぉ!」
ニクレマンはブチギレる。そして本能のまま、ジークロットに攻撃を仕掛ける。
しかしフェイントも何もない単調な攻撃など剣術を修めたジークロットに届くはずもない。
「どうして俺様の攻撃が当たらないんだぁ!」
「それはお前が弱いからだ、よ!」
「グハッ!」
ジークロットの剣がニクレマンの腹部に直撃する。
ニクレマンはその痛みに耐えかね、腹を押さえながら顔をしかめる。
「チッ!至近距離戦はやめだぁ!」
ニクレマンはジークロットから大きく離れて距離を取る。
「何をするつもりだ!」
「魔法はわたくしには通用しませんわ!」
「それはどうかなぁ?」
ニクレマンは不気味に笑うと魔力を練り上げる。
「『心闇』!」
ニクレマンは魔術を発動させる。しかし――――
「何も起こらない……?」
「違和感もありませんわ」
ジークロットとティーベルは拍子抜けしたように脱力する。
「それがお前の実力か!ならばここでお前を討ち取る!」
ジークロットはそう宣言しニクレマンに迫る。
「剣技『朧雷せ――――』」
ドクン
ジークロットの心臓が大きく揺らいだ。
「お、お兄様?」
ティーベルは心配そうに兄を呼ぶ。それもそのはず。ジークロットは急に立ち止まってしまったのだ。そして―――――
「あ、、、あああああああああああああああああああ!」
苦しそうな悲鳴を上げる。
「お兄様!?……あなた、お兄様にいったい何をしたのですか!?」
「別にぃ?ちょこぉっと苦しんでもらうだけだよぉ?」
「そんな魔術、聞いたことありませんわ!」
二人が問答している間にジークロットは意識が途切れたように急に項垂れる。
「お兄様!」
ティーベルはジークロットに駆け寄ろうとする。
「させると思うぅ?」
ニクレマンはそれを『風渦』で防ぐ。
「きゃあ!」
ティーベルに直撃したわけではないが直前の地面に衝突したため砂埃が派手に舞う。
「前衛が機能しないなら余裕だなぁ!」
ニクレマンはジークロットが動かないことをいいことにジークロットへ迫る。
「くっ!『豪炎』!」
ティーベルは『豪炎』をジークロットの周囲に展開してジークロットを守る炎の壁を作り出す。それは以前、ティーベルがフィリアとの模擬戦で使った技だ。
「おぉ。危ない危ない」
ニクレマンは飄々としながらジークロットから離れる。
「お兄様を傷つけたりさせませんわ!」
「そっかぁ……じゃあ先に貴様を倒そうかぁ!」
ニクレマンはティーベルに狙いを定めた。
ティーベルは次の手を考える。
あの炎の壁は莫大な集中力を要する。そのためティーベルは現在、魔術をまともに扱えない。それはニクレマンにもわかっているのだろう。
「殺す前に楽しませてもらうけどなぁ!」
ニクレマンは全速力でティーベルに迫る。ティーベルに防ぐ手段はない。以前までのティーベルだったならば。
「『雷槍』!」
「なあ!?」
ニクレマンは咄嗟に雷の槍を避ける。
「ど、どうして魔術が使える!?あの壁に割いているのではないのか!?」
ニクレマンは動揺しているのか口調が崩れてしまっている。
「わたくしを舐めないでくださいまし!」
ティーベルは自信満々に言い放つが内心冷や汗をかいている。
(わたくし一人だけならまだ反撃はできますがお兄様を守りながらだと攻めの一手がありませんわ)
このままではお互いが決め手をなくしたまま時間と魔力だけが減っていく。そして先に魔力が尽きるのはティーベルの方だ。
そんな時にガーリングに声を掛けられたのだった。