バルマント公爵家、全員集合
「ようやく面と向かって話ができるな」
「そ、そうですね……」
部屋にいるのは俺とバルマント公爵家の皆様のみ。
「ふふふ。緊張してるわね」
「そんなにかしこまる必要はないよ」
「そうですか?」
ふっ。そんなことできたら苦労しないぜ。
「ガルくん……」
「そんな目で見るな……」
リリアのその目はいい加減慣れろという無言のメッセージだ。
「では改めて自己紹介をしよう」
そう言ってリュークは佇まいを直した。
「私はリリアの父、リューク・バルマントだ」
ここで国の宰相と名乗らないのはこの話が公的なものではなく私的なものだと印象付けるものだ。しかしそれだけではない。リュークは今、一人の父親としてこの場にいるということを明確にしたのだ。
「私はリリアの母、エルナー・バルマントよ。昨日ぶりね」
「僕はレナルド・バルマント。リリアの兄です。お会いできて光栄ですよ、ガーリング・エルミット騎士爵殿」
「こちらこそ。レナルド殿」
俺とレナルドは握手をする。
「こちらが僕の妻、オリメス・バルマントと弟の……」
「リチャルド・バルマントです!」
女性の方はペコリとお辞儀をして男の子の方は元気よく自己紹介をした。
「どうも、はじめまして。お二人とも」
俺は二人に向かってお辞儀をする。
「みなお互いのことを把握したな」
そしてリュークは話を進めていく。
「早速だがガーリングくん。君はリリアのことが好きなのか?」
「っ!」
「直球ですね……」
何も包み隠さない言葉にリリアは身を震わせ、俺は苦笑いをする。
「でもそれは私も気になるわ」
まさかのエルナーがリュークの援護に回ってしまった。
それもそうか。娘には相思相愛の相手と結ばれてほしいと思うのは当然だ。これは正直に答えないとな。
「それが恋愛感情について聞かれているならば、答えは否です」
「「っ!」」
俺の返答に今度はエルナーとレナルドが息を呑む。
「ではリリアとの婚約は不服か?」
しかしリュークはその答えを想定していたのか冷静に次の言葉を口にした。リリアも動揺した様子がない。
「そんなわけありませんよ」
俺は肩をすくめる。
「俺はリリアと婚約してよかったと思っていますよ」
「ほう……」
リュークは軽く促す。
「確かに俺はまだリリアに恋愛感情は抱いていません。ですが、彼女のことは大切だと思っています。この言葉は本心であり、噓偽りはありません」
「君はリリアのことを大事にしてくれるのか?」
「それはもちろんですよ」
俺はリリアを見て微笑む。
「な、なに?」
その視線を受けてリリアは恥ずかしそうに身じろぎをする。
「リリアは俺のことを好きだと言ってくれました。婚約者になってほしいと俺の目を見て言ってくれました。そんな子を大事にするのは当たり前ですよ。俺はリリアとちゃんと向き合います」
「ガルくん……」
リリアは俺を熱のこもった目で見つめる。
「つまり、リリアのことは恋愛的に見ていないと?」
確認するようにレナルドは尋ねてくる。
「はい」
俺はレナルドの目を見る。決してそらさない。
「君はリリアを幸せにする覚悟があるのか?」
「ありますよ」
俺とレナルドの問答に緊張感が増していく。
「その辺にしたらどうですか?レナルド様」
すると予想外の方向から援護射撃が飛んできた。
「オリメス……」
「オリメスさん?」
なんと口をはさんだのはレナルドの妻のオリメスだった。
「なんで、急に?」
「リリアちゃん。ガーリングくんと一緒で嬉しいかしら?」
「は、はい!」
「ならそれでいいじゃないですか。お義父様もお義母様もわかっていますよ」
オリメスの発言にリュークとエルナーは無言で頷く。
「何をわかっていると言うんだい?」
「リリアちゃんの気持ちですよ」
「リリアの、気持ち……」
オリメスはリリアを見る。
「王侯貴族は基本、結婚に自由はありません。望まぬ結婚を強いられることが多くあります。その中でリリアちゃんは意中の相手と婚約を結ぶことができました。それだけでも嬉しいはずなのに、その相手が自分を見ると言ってくれたのです。これほど嬉しいことはないでしょう。ですよね、リリアちゃん?」
「はい!レナルド兄さん、私、ガーリングくんと結婚する!」
リリアはレナルドを見つめ毅然と言い放つ。
「これは他の誰でもない私が決めたこと。いくらレナルド兄さんが反対しても私はこの人と結婚する!」
リリアは興奮しているのか無意識に立ち上がっている。
リリアのその様子に驚いているのか、バルマント家のみなさまは目を見張っている。
「り、リリア?」
「……ハッ!」
俺が優しく声をかけると今の自分の状況を理解したのか静かに椅子に座りなおして縮こまってしまった。
そしてしばらく静寂に包まれる。
「ぷ、あはははははははははは!」
その静寂を切り裂くような笑い声を上げたのはレナルドだった。
「り、リリアは僕がガーリングくんとの結婚を反対していると思ってたのか?」
「え?違うの?」
リリアは拍子抜けしたように声をもらす。
「僕はただガーリングくんの思いが知りたかっただけだよ。リリアの結婚にケチをつけるつもりなんて毛頭ない」
「そ、そうなんだー。あははははは……」
「……自爆だな」
「なあ!言わないでよ!」
俺のつぶやきをリリアはちゃんと拾う。
そして空気は一気に和やかになった。
「私としても無責任に好きと言わない子よりは安心できるわ。ね、リューク?」
「そもそもこの婚約は私がリリアに持ち掛けたもの。反対するはずがないであろう」
「じゃ、じゃあ!」
「ああ。リリアとガーリングくんの婚約をバルマント家は全面的にバックアップしよう」
「あ、ありがとう……」
リリアは感激のあまり涙を零してしまう。
「ん?これなんのはなし?」
リチャルドくんにはまだ早かったかな?
「これで一件落着だね」
「そうだな」
俺とリリアは一息つく。
「あら、何を言ってるの?まだまだあるわよ?」
「「へ?」」
エルナーの発言に俺とリリアは素っ頓狂な声を出してしまう。
「どうぞ、お入りください」
エルナーの声と同時に扉が開く。そして入ってきたのはティーベル、リーゼロッテ、フィリアの三人。
「きれいなひと、いっぱい……」
リチャルドは新たに入ってきた三人の美貌に見惚れてしまっている。
「これからは恋バナをしましょう!」
エルナーは今日一元気な声でそう言い放った。




