奥の手
「なんで!こんな!ことに!」
俺は必死に避けながら愚痴る。
「……………」
ダリューンはまだ一度も口を開かない。ホントにこいつ無口だな。
「ほんとに!余裕ない!」
さっきまで俺がいた場所を剣が通り過ぎる。当たったら確実に致命傷だ。俺の背中に冷や汗が伝う。
「い、今なら!」
ダリューンの後ろにいた五体の魔族が抜け出す。おそらく狙いは後ろの四人だろう。しかもリーゼは負傷していてリリアは回復している。魔族五体に対処できるのはフィリアとティーベルの二人だけ。だがティーベルは今、心ここにあらずという感じだ。不安だ。
「クソ!」
悪態をつくが今俺は動けない。少しでも隙を見せれば斬って捨てられるだろう。それだけは阻止しなければならない。二人を信じるしかない。
「どうしてこんなことに?」
俺の問いかけにダリューンは答えない。
俺は聞きたいことが山ほどある。どうしてダリューンが魔力暴走を引き起こしているのか?どうして人類と敵対しているのか?どうしてそんなに理性的な判断ができているのか?どうして聖剣を持っているのか?どうしてその状況で聖剣を扱えているのか?どうして、世界はこうなってしまったのか?
そのすべての疑問が今のひとつの問いかけに収束した。
「………今はまだ言えない」
「っ!」
そこでようやく初めてダリューンが口を開いた。
「くっ!」
それに意識を向けてしまう。その隙をこの男が見逃すわけがない。
聖剣が俺の頬を掠る。
「ったく、相変わらず性能ぶっ壊れてんだろ……」
普通であれば軽く躱すことができる隙。その隙とも言えないものを隙にしてしまう。
それを皮切りに傷がつき始める。
「はっ!ふっ!」
致命傷を負わないように避ける。それでも着実に傷は増えていく。
「「「「ぎゃああああああああああ!」」」」
突然魔族たちの絶叫が後ろから聞こえた。これはティーベルたちが魔族を倒したのだろうか?随分と成長したものだな。
「よっと」
俺は大きく後退する。
「少しは俺も何とかするか……」
奥の手はあまり使いたくなかった。今の俺は前世と同じくらいの強さを持つ。しかし魂は未だ未成熟だ。それは魂に莫大な負荷がかかる。今の俺はもって五分といったとこか。
「『炎鳥』!『氷狼』!」
炎の鳥と氷の狼がダリューンに向かって放つ。
ダリューンは一瞬足を止めて炎の鳥と氷の狼をかき消す。そして俺に迫る。しかしダリューンは一瞬足を止めた。それだけで十分だ。
俺とダリューンの間に莫大なエネルギーが発生し雷が現出した。その際に爆風が発生した。その風にあおられてダリューンとの距離が空く。
現出した雷はだんだんと何かの形に収束していく。それは剣に似た形になったがきれいな形になっていない。
俺はその柄らしき部分を握る。
すると途端に膨大に光が町全体を包み込む。
「な、なに!?」
これには思わずといった感じでリリアも一時的にリーゼの治癒を止めてしまう。
「『現出』」
光がだんだんと収束していく。そして光が収まったときには一本の剣があった。
「きれい……」
ティーベルが呆然として呟く。
その剣は黒く、光が反射して輝いていた。剣の周囲にはバチバチと雷が光っている。
「……いやどうやって出したんですの!?」
「そんなこと今は後だ!」
俺はダリューンと向き合う。ダリューンは黒い剣を危険と判断していたのか、あるいは《《覚えていたのか》》。ダリューンは聖剣を改めて握りなおす。
俺とダリューンは動かない。ただその時をじっと待つ。
…………………来た!
「「剣技『朧雷閃』」」
俺とダリューン霞のように消える。二人が通った後は砂埃が舞い、小さな雷が発生する。そして光速の速さで移動しいつの間にかぶつかり合っている。
「………これでも互角、いや以下かよ……」
始めの方は互角の鍔迫り合いをしていたがだんだんと押され始める。
「唸れ!『雷轟』!」
俺は一旦後退する。そして生まれたダリューンの間に俺の剣から雷が発せられる。雷は一直線にダリューンへ飛ぶ。
「はあ!」
ダリューンはエクスカリバーで雷を打ち消す。しかし手が痺れたのか追撃してくる様子はない。
「今だ!剣技『静波断皇』」
音もなく近づき静かに剣を振るう。
「くっ……」
ダリューンは始めて苦悶の声を上げる。
ダリューンの肩が大きく斬られていた。
「いやいや、あれをギリギリで避けるのかよ」
俺は確実に首を狙ったがそれを察知して致命傷を避けたのだ。
別にダリューンを殺したいわけじゃない。ただ、殺す気でなければ確実に殺される。
「……………」
「……………」
二人でまた無言で向き合う。
正直今の一撃で倒せなかったのはキツい。そろそろタイムリミットも近づいてきている。
内心で焦っているとダリューンは剣を降ろした。
疑問に思い、警戒を強める。
「………いずれ、また」
「は?」
それだけ言い残すとダリューンは飛び去ってしまった。
「…………な、何だったんだ?」
ダリューンが去ってしまって呆然としてしまう。さっきまで死闘を繰り広げていたのに突然相手がいなくなってしまったのだ。
「ど、とりあえず勝ちでいいかなー」
あははと苦笑いが零れる。
「ふぅ」
一息ついて黒い剣を消す。
「ッ!ゴボッガハッ!」
俺は力が抜けて膝をつき、血を吐き出す。
「ガルさん!」
ティーベルが駆け寄ってくるのが視界の端でうっすらと見える。
視界がぼやける。意識もだんだん――――
そうして俺は意識を手放した。




