壁を超える
「ダリューン……」
俺の目の前にはダリューンが聖剣を持って立ちはだかっている。
脳内で警鐘が鳴り響く。こいつだけはダメだ。今の俺では、勝てない。
一方後ろにいるティーベルたちはダリューンの持っている剣に見蕩れていた。
「綺麗……」
「純白の剣……」
「まるで『エクスカリバー』みたいな……」
いや本物だよ。
「逃げろ!こいつは勝てない!」
魔剣はエクスカリバーとまともに打ち合えない。それは膨大な力を持っているヴィルヘルムやフェニゲールでも例外では無い。
ダリューンは無言で一気に俺との距離を詰める。
「反則…だろ!」
俺はギリギリのところで躱す。
「速い!」
「とにかく逃げろ!」
俺は『豪炎』と『氷華』を放つがすべて聖剣によって打ち消される。
「な、なんですか、あれ?」
あまりにも現実離れした光景にフィリアは声を震わせる。
「くっ!」
なんとか避け続けてはいるが逃げに徹してようやく避けられている状況だ。
これまで以上に感じたことのないほどの命の危険を感じている。
「う、ああああああああああああ!」
「バカ!よせ!」
俺の制止も聞かずにリーゼがダリューンに突っ込む。
エクスカリバーとグランが交錯する。本来であればグランの権能によって重い一撃になっていたのだろう。しかし現実は違った。
「な!?」
グランは刀身が折れ、魔甲の優れた防御力を無視してリーゼの腹部が斬られた。エクスカリバーの前では魔装はただの武具に成り下がってしまう。
「カ……ハッ……ッ」
「「「「リーゼ(さん)!」」」」
リーゼは倒れ、起き上がる様子がない。腹部からは血が溢れ出している。
「…『快復』!」
リリアはすぐに駆けつけ光系統魔術の中級魔術をかける。リーゼは光に包まれる。しかし――――
「っ!なんで!なんで効かないの!?」
リーゼの傷が一向に癒える様子がない。血はずっと溢れている。
「あの剣のせいだ!」
エクスカリバーはすべての魔を払う聖なる剣。そのため、魔剣であっても魔甲であっても聖剣の前ではただの剣と化してしまう。それだけでなくエクスカリバーで受けた傷は魔術の効きが悪くなる。
「全く効いてないわけじゃない!かけ続けろ!」
「は、はい!」
リリアは泣きながらリーゼに魔術をかけ続ける。
「う、そ……」
「ティーベルさん!しっかりしてください!」
フィリアの声が聞こえる。ティーベルはリーゼを見て呆然としていた。
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「いや、いや!死んじゃいや!」
ティーベルは呆然としたが突然堰を切ったように叫び始めた。
ティーベルは今までにないほど取り乱している。リーゼから流れる血を見てウェインの死がフラッシュバックしてしまったのだ。
ウェインのことを好いていたわけではない。それでもティーベルの人生において重要人物であったことには間違いない。しかも被害者はウェインの妹。不幸にも、その時の光景をフラッシュバックするだけの材料が揃ってしまっていたのだ。
「ティーベルさん!落ち着いてください!」
フィリアの必死の叫びも今のティーベルには届かない。
「い、今なら!」
そしてダリューンの後ろに隠れていた魔族たちは今が好機と攻撃を仕掛けてきた。
「くっ!『風渦』!」
フィリアは自身が使える最上級の魔術で対抗するが相手は五体、多勢に無勢で押し負ける。
「きゃああああああああああああ!」
「ハッ!ふぃ、フィリア!」
ティーベルはフィリアに駆け寄る。
「ティー、ベルさん……に、げて……」
フィリアは身体強化で防御を固めていたが大きなダメージを負っている。それも無理もない。素で受けたらオーバーキルのところをなんとか凌ぎきっただけに過ぎない。むしろまだ息をしているのを褒めてもいいくらいだ。
「そ、そうですわ!ガルさん……」
しかしガーリングはダリューンと戦っている。いや、それも戦闘とよべるのかわからない。ただ一方的にダリューンがガーリングに攻撃しているだけだ。
「そんな……」
頼みの綱であるガーリングに頼れない今、まともに戦えるのはティーベルのみ。その状況にティーベルは頭が真っ白になってしまう。
きっと今までだった立ち上がっていただろう。しかしティーベルはもう死を知ってしまった。死という恐怖がティーベルの体に絡みつく。
「「「「死ねぇ!」」」」
魔族たちの魔術がティーベルとフィリアに迫る。しかしガーリングは手を離せない。ここで何もしなければ二人とも死んでしまう。
「あ……う……」
ティーベルは恐怖で目を瞑る。すると誰かに手を握られた。
「ふぃ、りあ?」
ティーベルの手を握ったのは倒れているフィリアだった。
「だい、じょうぶ……ですよ……てぃー、べるさん、の、強さは……知って、ますから……」
フィリアは瀕死の体を必死に動かす。
「む、無理しないでくださ――――」
フィリアはティーベルを抱きしめる。
「貴方なら、できます……」
「……はい、はい」
それを言ってフィリアは気を失ってしまった。
ティーベルの目が潤むが涙はこぼさない。
(涙は、流しませんわ!)
ティーベルは気を失ったフィリアを抱きしめながら魔力を練り上げる。
そして手に握っている極深の魔杖に魔力を伝わせる。
「わたくしの最高の魔術を喰らいなさいな!『炎鳥』!」
それは火属性の上級魔術。ティーベルが越えられなかった壁。それをこの危機的状況でぶち壊したのだ。
炎の鳥は魔族たちの魔術を飲み込みと魔族たちさえも飲み込む。
「「「「ぎゃああああああああああ!」」」」
魔族たちの絶叫が響き渡る。
それでも魔族たちは諦めていないようで『水渦』で鎮火させようとしていた。
(わたくしも視えます。魔力が)
ティーベルはさらに魔力を視ることもできるようになっていた。死への克服がティーベルの成長に繋がっていた。
「これで、終わりですわ。『雷槍』」
雷の槍は燃える魔族たちに突き刺さり、絶命させた。
それを見届けるとすぐにフィリアの治療にとりかかった。
「フィリア、すぐに助けますから」
ティーベルは属性魔術を得意としているが系統魔術が使えないわけではない。ただ光系統魔術はリリアが得意としているため使う機会がないのだ。
「『回復』」
ティーベルは系統魔術に関してはあまり練習していないため初級魔術しか使えない。それでもフィリアの重症でも応急処置程度には効果がある。
「これで、よし。あとはガルさんですが……」
ティーベルはガーリングを見るがそこには目を疑う光景が広がっていた。
「あのガルさんが、押されている?」
ガーリングは余裕のない表情で逃げ、傷をかなり負っている。
今までもガーリングが傷を負うことはあった。しかしそれは制限がかかっていたであって万全の状態ではなかった。そうでなくとも特に焦っている様子はなかった。だが今のガーリングは余裕がなさすぎる。
「っ……」
ティーベルは極深の魔杖を持ち上げ、降ろす。ガーリングの魔術があっさりと無効化されたのならばティーベルが手助けすることは無意味だ。むしろ邪魔になる可能性すらある。
一人で魔族五体を倒せたがガーリングが困っている時に助けることができない。そんな無力感に苛まれる。
今はただ、ガーリングを信じることしかできないのだ。




