剣聖と聖剣
ダリューン・ランバルト。
『英雄騎士』アルス・マグナの右腕にして『剣聖』や『千剣』だの呼ばれていた。すべての剣を自在に操るその姿は圧巻、あの『英雄騎士』に天才とまで言わせた唯一の男だ。
他にも容姿が整っていたため女性人気も凄まじかった。組織の中でも金髪は珍しく目立っていた。あとは極端に口数が少ない。基本的には事務的なことしか話さない。心を許した相手には少し話すようにはなる。それでも口数は少ないことに変わりはない。多くを語らず本質だけを的確に見分ける。
しかし、彼と言えばアルス・マグナに対する絶対の忠誠だろう。もしアルス・マグナが殺せと命じれば殺し、死ねと命じれば死ぬことも厭わない。最も忠実な人間。
そして、ダリューンをダリューンたらしめていたものは剣だった。
ダリューンはアルスが設立した組織の中では珍しく属性魔術や系統魔術を苦手としていた。アルスの設立した組織は魔術師を中心に構成されていた。魔術師以外にも組織にはいた。だが魔術をまともに使えない人たちはそこまで重要人物になることはできなかった。
その理由は魔術の優位性にある。
魔術は扱えるなら扱えるだけ優位に立てる。それは超常現象を意のままに操ることができるからだ。身体強化した人間としていない人間では明らかに身体強化した人間の方が優位に立てる。身体強化した人間であっても手数が多ければ多いほど行動パターンが多くなる。当時は魔術師の方が圧倒的に強かった。
そんな魔術を得意とする者たちの中でダリューンがナンバー2の地位を確立させていたのは圧倒的なまでの剣の才能だった。一を知れば百を習得してしまう。身体強化との相性が良かったこともあるだろう。常人ではなしえないほど緻密で繊細な、けれど芯のある身体強化によって繰り出される速く、強く、硬く、重い剣技。その技量は他の魔術師や剣士さえも震え上がらせるほど。剣だけの技量だけならば『英雄騎士』にも届きうるとも言われた。実際のところ、誰も知らないが。
彼の子孫は国を興し、大陸一の国にまで成長した。遺伝子も優秀。完璧超人だ。
そんな彼が今持っている剣、それこそ最も有名な聖剣『エクスカリバー』だ。
聖剣『エクスカリバー』
この世界に存在する唯一の聖剣。一切の汚れを知らないような純白の刀身、鍔、柄、鞘。それはアルス伝に出てくる二本の剣のうちの白い方によく似ている。
そもそも聖剣とは何か。なぜ魔剣とは違う呼び方なのか?
聖剣は魔剣とは全く異なる概念である。魔剣や魔杖、魔甲といったものは魔装と呼ばれる。それに対し聖剣は聖装と呼ばれる。武具にランク付けがあるとするなら聖装は魔装より上位に位置する。つまり聖剣に対抗しうるものは聖剣以上のランクの武器でなければまともに戦えない。
そして聖剣にも権能が存在する。そもそも魔装以上の武具には権能が存在する。『エクスカリバー』の権能、それはあらゆる魔を打ち消すもの。
あらゆる魔、それは魔力でさえも例外ではない。そのため剣を握ることさえも困難だ。生きとし生けるすべての物質には魔力が流れる。そして例外なく無意識に少なからず体外に魔力が溢れる。意識すれば極限まで減らすことはできる、がなくすことはほぼ不可能だ。アルスに次ぐ魔力制御を誇っていたハルバートですらできなかった。魔力が体外に溢れていると『エクスカリバー』にはじかれる。
ダリューンの魔力制御はあまり上手とは言えない。しかし『エクスカリバー』を使えていた。それはなぜか?答えは簡単、剣だから。いくら聖剣と言えどそれは剣なのだ。ダリューンが扱えない道理はない。
ランバルト王国の王族に伝わるとされる『エクスカリバー』。それを俺が偽物だと一瞬で気付いたのには『エクスカリバー』による権能のおかげだ。
『エクスカリバー』はこの権能のため一切の魔力を持たない。
この世に存在する武具には少なからず魔力が宿っている。それは武具となる材料に必ず魔力が含まれているから。鍛冶職人はそれを鍛え上げて武具にする。その過程で物質に宿る魔力量が減ったり増えたりする。しかし決して魔力が失われることはない。これは全ての武具に共通し、市販の武具にも魔力は宿っている。だから身体強化の応用で武器の強化も可能となる。その魔力量によって武具の良し悪しが変わる。
魔剣は魔力を膨大に含む。魔剣も魔力量で優劣があるが、魔剣が魔剣であるのは魔力量だけでなく権能にある。ガーリングの持っている二本の魔剣はそれぞれ炎と氷を操る。バルザムークの魔剣は伸びる。リーゼロッテの魔剣は重力操作。魔剣には固有の権能がある。
『エクスカリバー(偽)』は膨大な魔力を持っていた。それこそ昔でも稀に見るほどだ。『エクスカリバー(偽)』がどんな権能を持っているかわからない。しかし魔剣は魔剣。決して聖剣にはなりえない、紛い物の剣なのだ。
この二つを合わせてしまえば勝てる者などそうそういないだろう。今の俺でも勝てるかどうか……そんな二つが揃って俺の前に立ちはだかっている。いったいどうしてこんなことになっているのか。




