英雄の今後②
「話もまとまったし今後の対策についてじゃ」
「魔物、についてですね」
「そうじゃ。リーゼロッテ皇女、帝国の助力は得られそうかのう?」
「父上も喜んで力を貸すと思うよ」
「それならよかった。安心できるというものじゃ」
「あ、あの~……」
俺は恐る恐る手を上げる。
「どうした?」
「えっと、魔物の発生、もうすぐで収まるはずですよ」
「「「「はあああああああああああ!?」」」」
王国側の人が全員叫ぶ。
「そ、そういえば帝国でもそのようなことを言っていましたわよね!説明してください!」
「そうだな。ティーベル王女を救出する際に王都の外の森を通ったんですけど魔素濃度が低かったんですよ」
「魔素とな?それはどのようなものなのだ?」
「知らないんですか!?」
これはかなり重大事項だな。もしかしたら多くの知識が失伝しているのかもしれない。
「魔素とは簡単に言えば空間に存在する魔力のことですね」
「それは、魔力とはどう違うのかしら?」
「一番の違いは人間が扱えるかどうか、ですね」
「なるほどのう。しかしそれが魔物の発生に何の関係が?」
「以前、魔物の観察をしたことがあるのですがその時に分かったことがあったのです。魔物は魔素を養分としているようです」
「「「なっ!?」」」
「これは完全に予測になのですが飢餓状態になった魔物が人を襲うことで栄養を得ようとしていたのではないでしょうか?」
「ううむ…いろいろと聞きたいことがあるがまずは一つ。どうしてそれで収まると思うぞじゃ?むしろより警戒しなければならないと思うが…」
「魔素は魔力が心臓を中心に循環しているのと同様に世界を神を中心として循環しています。ですのでそのうちに魔素濃度は元に戻ると思いますよ」
「なるほど。ではその信憑性はどれほどのものか?」
「俺の今までの功績から信じてもらえればと」
俺は頭を下げる。
「わたくしもガルさんは信じてもいいと思いますわ」
「……ティーベルが言うなら信じよう。ではもう一つ、お主のその知識はいったいどこで身につけたのじゃ?」
「っ!」
やっぱそれを聞いてくるよな。俺が転生者であることを話すべきか?いや時期早々か。今はまだ信じてもらえないだろう。
「……過去の文献を読みました」
「それは不思議じゃな、のうリューク」
「はい。そのような有益な情報、必ず私たちの耳に入っていなければならない」
「しかしワシらにも知らない情報がある。おかしいと思わぬか?」
「それはっ」
まずいまずいまずいまずい。完全にしくじった。
「……………………」
「……答えぬか」
「申し訳ありません。今はまだ開示できるものではありません。いずれ、その時が来たならば必ず」
「「「「………………………………」」」」
誰も何も言わない静寂ってつらいよね。
「わたくしは待ちますわよ」
「ティーベル……」
「私も待つよ!ガルくんの婚約者だし!」
「わ、私も待つぞ!」
「リリア……リーゼまで……」
まさか俺をここまで信用してくれる人がいるとはな。いつか俺のことを話す時がきたらみんなには一番先に話すとしよう。
「はぁ。これでは聞きにくくなってしまったではないか……」
「お父様、ここはティーベルたちを信じましょう。それに俺は今後国王としてガルと接することが役目です。ここは俺に任せてくれませんか?」
「それは次期国王としての発言か?」
「はい」
「ならばその責任をとれ。よいな?」
「はい!」
ジークロットは一歩前に出る。
「ガーリング・エルミットよ。俺は君のことに深く詮索はしない。しかしこれだけは約束してくれ。その力で大切なものを見失わないようにな」
「はっ!陛下のお心遣いに感謝を」
この人きっと立派な王になる。
「ガルさん、少しよろしいですか?」
「何か用か?」
話が終わり王城の門近くでティーベルに呼び止められた。リリアやリーゼもついてきている。
「今日のこと、フィリアにも言いますわよね?」
「そうだな。いろいろ俺の境遇も変わってしまったし」
「それなら、あの子に貴方がどうしたいかちゃんと伝えてくださいまし」
「どういうこと?」
「つまり、フィリアに対するガルくんの気持ちをそのままぶつけてこいってこと」
「俺の気持ちをぶつける、か……」
「傍で見てると二人の関係ってなんかムズムズするっていうかなんというか、ね?」
「そこで俺に振るなよ」
「とにかく!ちゃんと自分の気持ちに向かい合ってくださいね」
「………わかったよ」
その目はいつになく真剣で頷くしかなかった。
「ところでそのフィリアとは誰なのだ?ガル殿と浅からぬ縁がある女性と聞こえるのだが……」
「じゃあ今日はガルくんの婚約者同士、お話ししよう!」
「いいですわね。リーゼロッテ皇女もご一緒に」
「わかった。あと私のことはリーゼでいい」
「……俺は帰るからな。じゃあな」
婚約者同士、仲を深めることはいいことだ。
屋敷に入ると即座にフィリアを捕まえて今日のことについて話した。
「ガル様が叙爵されるとは、さすがです!」
「ありがとう、フィリア」
「それにしてもティーベルさんとリリアさんとも婚約されたのですね」
「そうだな」
「おめでとうございます」
「ありがとう」
「………………」
「なぁフィリア」
「何でしょうか?」
「本当の気持ちを教えてくれないか?」
「え?」
「教えてくれ」
「い、嫌ですね~。本当におめでたいと思っていますよ!あ、今日はごちそうにしますか?ガル様の好きな――――」
「フィリア」
「っ」
俺が少し強めの声で呼ぶと動きを止める。
「俺は何年フィリアの傍にいると思っている。どれだけの時間ともに過ごしたと思っている。フィリアが無理をしていることくらいわかる」
「………………」
「教えてほしい。フィリアが何を思っているのか」
「わ、私は………」
フィリアは何か言おうとしているものの何かに躓いているみたいだ。
俺はフィリアに寄り添って背中をさする。
「フィリアはもう俺の居場所なんだ。だから無理しなくてもいい。俺にすべてさらけ出してもいいんだ」
「っ!わ、私は!ティーベルさんが、リリアさんが、お二人が羨ましいです!嫉妬しているんです!」
そこからフィリアは堰を切ったようにしゃべりだす。
「私はずっとガル様を見てきました!誰よりも近く!誰よりも長く!これから先もそれはずっと変わらないと思っていました!でもお二人はすぐにガル様と仲良くなってしまった!ガル様の隣は私の居場所だったのに!それをすぐに奪ってしまったんですよ!しかも将来の約束までされて!ガル様の傍にいるのは私なのに!ずっとずっと私が近くにいたのに!しかも帝国の皇女様とまで婚約されて!私はどうすればいいんですか!こんなに早く居場所が奪われるなら、それを見てしまうなら王都に来なければよかった!私のご主人様はガル様だけなのに!そのガル様にいらないって言われたら、どうしようかと、思って…………」
それはずっとフィリアの心の奥に存在していた不安、焦燥、そして恐怖。
「ごめん。フィリアがそんな思いをしているなんて気づかなくて。こんなんじゃフィリアの主人なんて失格だな……」
「ち、違います!ガル様が悪いわけでは!」
「じゃあ今度は俺の気持ちを聞いてくれるか?」
「ガル様の気持ち……」
「俺はただただ無条件にフィリアがずっとそばにいると思っていた。幼いころからずっと一緒だったんだ。誰かに取られるなんて思ってなかった。でもあのヨノーグスに言われて気付いたんだ。フィリアはもしかしたら俺のとこではなく他の人のところに行ってしまうんじゃないかって。いつか一人で旅をすることを決めていたのに。その決意すら薄れてしまうほどに不安だった。俺はもうフィリアが傍にいるのが当たり前だったのにそれが奪われるのが。でも今の関係が壊れてフィリアが離れていくのが怖くて踏み出せなかった。拒絶されるくらいなら自分から離れようと思った。でもそれがフィリアを不安にさせていたのなら意味がないのにな」
「ガル様……」
「フィリア、もし俺がどんな秘密を抱えていてもそばにいてくれるか?」
「はい。どのような秘密を抱えていても、ガル様はガル様ですから」
それを聞いて安心した。これなら俺も踏み出せる。
「フィリア、俺と婚約してくれないか?」
「ガル様と、こん、やく?」
「フィリアは平民の出だから正室にはなれないけど側室にはなれるから。これから先も俺をそばで支えてくれないか?」
「………………」
フィリアからの返答がないことを疑問に思い顔を上げるとフィリアが泣いていた。
「え?なんで泣いて!?」
「すいま、せん。うれ、しくて………」
「そ、そう?」
「私を、ガル様のそばにおいてください………」
「こちらこそ」




