婚約
「けけけけ結婚ってどういう意味ですの!?」
リーゼロッテ皇女の爆弾発言に俺ではなくティーベルが一番テンパっている。
そしてテンパっている人を見ると冷静になれるらしい。
「……ティーベルは落ち着け」
「だ、だって!け、結婚って言いましたわよ!落ち着いていられませんわ!」
「なんでお前がそんなに慌ててんだよ………」
俺は呆れてバルザムークの方を見る。するとバルザムークは何やら納得顔で頷いている。
「とりあえず飯にしようではないか!」
俺、ティーベル、バルザムーク、リーゼロッテの四人で飯を食べ終え応接室へ。
「それでガーリング殿は私と結婚してくれるのか?」
「一旦その事について話し合いましょうか。あと俺のことはガルでいいですよ」
「そうか。なら私のこともリーゼと呼んでくれ。敬語も不要だ。というかつけるな」
「あ、はい」
リーゼもリーゼで強引だな……
「コホン………それで、結婚というのはどういうことなのでしょうか?」
「言葉通りの意味だ。私はガル殿と結婚したいのだ」
「それはどうしてなのでしょうか?」
「ガル殿が強いからだ!」
「そこからがよくわからん!」
ついつい口が出てしまう。
「ガルの気持ちはよくわかるぞ。しかしリーゼはこういう娘なのだ」
バルザムークはそう俺に向かって言う。
「まさにバルザムーク殿の娘だな」
「さすがの我でもリーゼ程ではないぞ」
あのバルザムークにここまで言わすってどうなんだよ。
「それにリーゼがガルに嫁ぐのはランバルト王国にとってもよい話だと思うがな」
「それはどういうことでしょう?」
国が絡むと聞くとすぐさまティーベルが反応する。
「元々王国と帝国の同盟はティーベル王女とウェインの結婚、つまり《《国の要人の結婚》》で成立するはずだったのだ」
「っ!そういうことですか」
「バルザムーク殿もやり手だな」
「我もなかなかやるであろう?」
「リーゼロッテ皇女をガーリング様に嫁がせることで同盟の証とする。王国としては問題ないのですが帝国では問題ないのですか?」
「帝国のやろうとしていることは王国の一介の貴族、その跡取りでもない次男に婚約を結ばせるということになる。いくら俺が王国側の人間だとしても価値が低すぎる。対外的に見れば王国より帝国の方が下に見られる可能性もあるんだぞ?」
「そんなことくらいわかっておる。だがそんな有象無象なんぞに興味はない。それにウォレンならば何とかするだろうよ。」
「随分とお父様のことを買っていらっしゃるようですがどうしてなのでしょうか?」
「国王と皇帝だからな。話す機会もいろいろある」
バルザムークからはウォレンに対する信頼が見える。
「帝国側は少なくとも貴族どもは反対することはない」
「どうしてそう断言できるんだ?」
「ガルが強いことを知っているから」
バルザムークは確信めいたものを滲ませながら言う。
「貴族どもは基本強ければ反対はしない。それがこの国での絶対的な規則だからだ」
それはまさに帝国だからこそとれる大胆な行動だ。
「どうしてそこまでして同盟を結ぼうとしているんだ?」
「どういうことだ?」
「同盟を結びたがっているのは王国だと思ってたんだが、今のバルザムーク殿を見ていると同盟を結びたいという意思が強く感じられる」
「……まぁ帝国でもいろいろあるからな。王国との協力関係が必要だったのだ。詳しく聞きたいならば正式に同盟を結んでからだな」
つまり帝国としても王国とは同盟を結びたかったというわけだ。しかしそうなると一つ問題が発生する。
「………俺は王国に属するとは限らなくても同じことが言えるのか?」
「ふむ。どういうことだ?」
「俺は大きくなったら旅に出る予定だ。どこかの国に肩入れはしない。実際王国でもその許可を得ている」
「なるほどのう。つまりは国も何も関係なくリーゼを嫁がせるつもりはあるのか、と聞いておるのだな?」
俺はこくりと頷く。
「私はそんなもの関係ない。ガル殿が行く道こそ私の行く道だ」
「いやリーゼは皇女としての立場があるだろ」
その責任は重く、決して簡単に放棄していいものでは――――
「別に構わんぞ」
「なんでや!」
俺はあっさりとしたバルザムークの返答に叫んでしまう。さすがのティーベルも唖然としてしまっている。
「元々ガルとの決闘でリーゼの結婚云々は関係なく同盟を結ぶ予定ではあったのは大きい。しかしやはり父親として娘には幸せになって欲しいと思うのだ」
そう言ってバルザムークは優しい手つきでリーゼの頭を撫でる。
「我は確かに皇帝だ。だが同時にリーゼの父である。そのことを忘れたことはない」
それは完全に父としての姿であり、理想の家族そのものだった。
「私も父上の娘で嬉しいと思っているよ」
リーゼはバルザムークに全幅の信頼を寄せているのかされるがままだ。
「それにしてはギルディアはあんなのだけどな」
「それは我としても頭の痛い話だ」
バルザムークは頭を抱え、ティーベルはギルディアのことを思い出したのか顔をしかめる。
「本当にあの皇子に帝国を継がせるのか?」
「困ったものだ……いっその事ガルが帝国を継ぐか?」
「なんでそうなるんだよ?」
「帝国で必要なものは強さだ。お主はその点、我に勝ったのだから文句は誰も言うまい」
「俺は皇族ではないが?」
「リーゼと婚約すれば婿入りということで話が済む」
「勝手に進めるな。ティーベルなんて驚愕で固まってるから」
「いい案だと思ったのだがなぁ……」
やっぱりこの皇帝は抜け目がないな。
「まあどちらにせよリーゼが望むのならガルとの結婚を認める。それに我を打ち破ったガルなら安心して任せられるというものだ」
なんなんだ、その謎の信頼……
「俺はリーゼと出会ったばっかなんだぞ。リーゼのことが好きじゃないぞ?」
「き、嫌いなのか!?」
「言葉の綾だ!そのままの意味じゃない!だからそんな泣きそうな顔をするな!バルザムーク殿も怖い顔しないで!」
いちいち面倒だなこの親子!
「リーゼのことは好意的に思っている。だけどそれは恋愛的な意味じゃない」
「それに関しては問題ない」
「そうなのか?」
「私は一応皇族だ。故に好きでもない相手と結婚させられることもある。それならばたとえ私のことが好きでなくとも私が好きな相手と結婚したいのだ。ティーベル殿ならわかるだろう?」
突然ティーベルに話を振る。
「そうですね。わたくしもリーゼロッテ様と同じ意見です」
「さあ!ティーベル殿もこう言っている!どうだろうか!?」
「………はぁ。わかりました。ですが一つだけ、結婚はまだ早いから今はまだ婚約ってことで」
「わかった」
そして俺は椅子から立ち上がり、リーゼの前で膝をつく。こういうものはちゃんとしたい。
「このガーリング・エルミット、リーゼロッテ・フォン・プロメテア皇女と婚約したいと思います。リーゼロッテ皇女、この私と結婚していただけますか?」
俺はリーゼに向かって手を伸ばす。リーゼがこの手を取れば結婚は成立する。
「このリーゼロッテ・フォン・プロメテア。喜んでガーリング・エルミットの妻になろう。これからも将来の伴侶としてともに歩んでいこう」
リーゼは俺の手を取ると引っ張る。俺はそのまま立ち上がりリーゼと向き合う。
「…………緊張した」
「何を緊張することがある?」
「そりゃ告白なんだから緊張するさ」
「そうか?私は特に緊張しなかったぞ」
「それはリーゼが特殊なんだよ」
そう言って俺とリーゼは笑い合う。
それを不満そうに見つめるティーベルに気付いたのはバルザムークだけだった。




