決闘、のち―――
「………なぜ手合わせを?」
「なぜってしたいからに決まっているではないか!」
ダメだこの子。理屈じゃなくて感情で動くタイプだ。
「殿下…………?」
俺はどうするべきかバルザムークの方に目を向けると、やっぱりかとでも言うように顔を覆っていた。というか他の帝国貴族たちも若干やれやれという雰囲気を醸し出している。
「……殿下の仇討ちですか?」
「どうして私が父上の仇討ちをしなければならないのだ?」
「えぇ………」
一番有り得そうな回答を選んだつもりだったが一蹴されてしまう。
「あぁ…うん、その……ガルよ」
バルザムークが言いにくそうに目を忙しなく動かす。
「……リーゼと戦ってやってくれないか?」
「俺、これからご飯だったはずなのですが?」
「これが終われば食えばいい。こうなったリーゼはもう誰にも止められん。決闘をしない限りな」
そう言ってバルザムークは遠い目をする。
「なんで遠い目を?」
「ふっ。リーゼは我よりも生粋の戦闘狂でな。強いやつと知れば誰彼構わず決闘を申し込むのだ」
「……まさにあんたの娘だな」
ついつい素が出てしまう。
「ふむ。君は普段そのような喋り方なのだな」
「あっ、申し訳ありません」
「何、気にするな。私にも普通に接してくれて構わない」
どうして誰も彼も普通に接しろって言うんだよ!もっと立場大事にしろよ!
「それでは早速手合わせしようではないか!」
そして俺の手を引っ張りながら中央に歩いていく。
「えぇ……」
「すまんのう、ティーベル王女。ガルを借りてしまって」
「いえ、お気になさらず。それにしてもリーゼロッテ様はお元気なのですね」
「あぁ。むしろ元気がありあまりすぎて大変なのだが」
「皇帝殿下がそこまで言われると相当でございますね」
「実際、リーゼの実力は本物だ。まだ我に勝ててはおらぬが他の者には負けなしだ。その刃は我を捉えるのはもうすぐであろう」
「それは……」
ティーベルは先程の俺とバルザムークの決闘を思い出しているのだろう。勝利したのは俺だがそれは決してバルザムークが弱いというわけではない。俺は魔術などを巧みに使うことでゴリ押したにすぎず、同じ条件下であったら勝てると断言できるわけではない。
それは素人目のティーベルも直感で感じているだろう。すぐ近くにフィリアという剣を使う相手がいるから。
「魔剣を抜いてくれ。私もこの魔剣を抜く」
「……わかりました」
バルザムークの時のように改めて聞くようなことはしない。あのバルザムークが褒め称えるほどの実力を持つのだ。心配は必要ないだろう。
俺は魔剣を抜く。リーゼロッテ皇女も魔剣を抜いたようだ。
「もしかして、もう魔剣が扱えるんですか?」
「そうだ。魔剣グラン。我のストレイドに負けず劣らずの逸品だ。それにリーゼはこと戦闘に関しては天才としか言えないほど目を見張るものがある。あのガルでも苦戦するだろう」
ティーベルが戦々恐々とした発言にバルザムークは感心するように答える。
「では審判は我が務めよう。両者、構え!」
俺とリーゼロッテ皇女は剣を構える。
「はじめ!」
「魔力よ、体に満ちて恩恵を与えよ!『身体強化」
開始早々、身体強化魔術を発動する。
「始めから全力で行くよ!」
その言葉通り、トップスピードで俺との距離を詰める。
「ぐっ!」
一撃が重い。身体強化が段違いの強度で発動されている。下手な無詠唱魔術よりよっぽど強い。もしこれで無詠唱魔術を習得したらと思うと背中がゾクゾクする。
「これを受け止めるとは…身体強化か?しかし詠唱していなかったが、もしかして無詠唱で発動しているのか?」
「っ……さすが」
この洞察力にはさすがの俺も目を見張った。
「どうして分かったんですか?」
「大したことはない。私の攻撃を真っ向から受け止めたのが不思議で目を凝らしてみれば何となくゆらぎが見えたのでな」
もしかして魔力が微かながらに見えているのか?もしそうならとんでもない逸材だ。
魔力を見ることができるのは、ほんの一部の限られた人間にしかできない。それは後天的に身につけることはできない、絶対的な才能だからだ。しかし才能があるだけで見えるわけではない。血のにじむほどの努力をしてようやく魔力を可視化することができるのだ。
つまりリーゼロッテ皇女はそれだけの努力をしてきたということ。俺は胸が高鳴るのを感じる。
「くっ、これは?」
剣を交錯させていたら急にリーゼロッテの剣がさらに重くなった。
「もしかして、重力制御といったところか?」
「お見事。よく気付いた。では一気にいかせてもらおう!」
リーゼロッテの剣がだんだんと重さが増していく。このままの体勢ではまずいと思い、リーゼロッテの腹を蹴る。
「うっ!」
リーゼロッテの体は鎧で守られているから大したダメージは入っていないが引き離すことには成功した。
「それは魔甲なのか?」
今の蹴りは通常の鎧ならば粉砕するような威力だ。しかしあの鎧は傷一つないどころか下手をすれば反動でこちらの足を痛めかねない強度を持っている。
「えぇ。この魔甲は強度強化と重量軽減が付与されている」
「魔剣だけでなく魔甲も装備してるとは恐れ入るよ」
「褒めてくれて嬉しいよ」
そう言うとリーゼロッテは剣を握り直す。
「次はこっちからいくよ!」
俺は駆け出し、一気に距離を詰める。
ヴィルヘルムを振り下ろすとリーゼロッテはグランで振り払う。その時にできた一瞬の隙を狙ってフェ二ゲールで突きを出す。
これは決まった。
キィン!
金属のぶつかる音が響く。
「な!?」
なんとフェ二ゲールの切っ先を手首をひねることで柄に当てて防いだのだ。
これには俺も驚愕を隠せない。
「ふっ!やあ!」
フェ二ゲールを払うと続けざまにグランを振るう。
「ほっ!」
俺は後退しながらフェ二ゲールで氷の礫を生み出しリーゼロッテに向けて放つ。しかしそれをすべて叩き切るとまた接近してきた。
「す、すごい……」
ティーベルは思わずそうつぶやく。この決闘に見惚れているのだ。他の者たちも同じ感じだ。
そして俺とリーゼロッテの戦いは激しさを増していった。
決闘が始まってから時間が経ち、
「はぁはぁはぁ………」
「ようやく疲れてきたか?」
リーゼロッテが息を切らし始めた。
「くっ…まだまだ!」
「よっと!」
リーゼロッテの振るう剣を避ける。最初の頃よりキレも鈍くなってきていて疲労しているのは明らかだ。
無理もない。身体強化魔術に魔剣、魔甲を使っているのだ。当然、身体の負担は大きくなるはずだ。それに身体強化魔術はまだ粗く、効率がいいとは言えない。
決着をつける頃合いだな。
「やあああああああああああああ!」
「はっ!」
リーゼロッテの振るう剣を一瞬に力を込めることで吹き飛ばす。
「あ!」
リーゼロッテの手からグランが離れてしまう。
「これで俺の勝ち、だな」
俺はリーゼロッテの喉元に剣を突きつける。
「勝者、ガーリング・エルミット!」
「「「「おおおおおおおおおおお!」」」」
観戦者たちは興奮したように盛り上がる。
「リーゼロッテ皇女、ありがとう。とても楽しかったよ」
俺は清々しい気持ちでリーゼロッテに握手を求める。しかしリーゼロッテは反応せずに俯いているままだ。
「あの……リーゼロッテ皇女?」
俺は恐る恐る名前を呼ぶ。
すると突然リーゼロッテは俺の掴んだ。そして――――
「私と結婚してくれ!」
「「…………はあああああああああああああ!?」」
俺とティーベルの叫び声がこだました。




